~仕事か結婚か、選べるのはどちらかひとつだけなの?~
キキョウは目覚めた時、今回は逃げられたことにホッとすると同時に自分の膣になにも入ってないか確認したい衝動にかられたのに驚いた。
思えばバイト仲間みたいなあの明るい雰囲気の他の3人の女の子は、どうみてもせいぜい15~16歳だろうに毎晩知らない男の泊まり客とヤるのが与えられた仕事のひとつだったわけで、彼女らはどういう気持ちなんだろうか…、
と、まだ前回夢でファーストキスを体験しただけでその次の経験がないキキョウにしてみればあの女の子たちと年が近いだけに気になって仕方がなかった。
今朝も看護師の母は仕事で不在で、父がお弁当を作りながら弟に朝御飯を食べるよう声をかけているのがわかった。
キキョウは学校に着くとすぐに今日は誰の人生を覗こうかと歴史の教科書に写っている写真を探して、昭和の東京駅の写真のなかを歩くスーツ姿の女に決めた。
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キキョウにとって初めて聞く不思議な呼び出し音が続いているのだが、これはもしかしたら固定電話ではないだろうか…?
受話器は本当に持ち上げて使うのね、と思った時にはもう男の声が聞こえてきていた。
‘もしもし、俺だよ。今から出てこれるよね?部屋の下まで来てんだけど’
’え?ああ…、どうしたらいい…かな?‘
‘そっち行くよ’
’えっと、このまますぐに出られるけど…‘
‘なら、マンションの玄関で待ってるよ、芝浦行こうよ’
’うん…‘
キキョウは肩パッドというのが入った派手な柄のカーディガンを着て短いスカートをはいている自分を鏡で見て、これはこれで妙だけど可愛いなと思った。
マンションの玄関には二重の大きな目と品の良い唇をもつ若い男が待っていて、すでに来ていたタクシーに一緒に乗り込んだ。
‘お客さん、ここに住んでんの?こないだここに俳優さん送ったよ、ほら、大河ドラマの男前のリョウさん。本物の方が男前だったけど、ボディーガードみたいな怖そうな男2人に守られてたわ’
’そういえば、キキョウ、こないだエレベーターでリョウと付き添いのヤクザみたいな男たちとおんなじエレベーターに乗って緊張した~、とか、言ってたよな‘
‘え?ああ、うん…‘
‘キキョウは仕事一筋のリッチ商社ウーマンだもんな、マンションもふつうの OLじゃあんなとこ無理だよな’
’あ、インクが見えてきた、その辺で降ろして‘
‘芝浦インクスティック…?!’
昭和のことを調べていたときにバブル時代の夜の遊び場がいろいろ載っていたのを思い出したが、キキョウには何をするところなのかはわからなかった。
’キキョウ、いつものでいい?‘
‘うん’
’モヒート二つ‘
愛想は良くないが格好をつけた男が薄暗い店の奥からやってきてオーダーを聞いてくれた。
‘キキョウ、俺さ、結婚することになったわ’
’え?‘
‘3年も付き合ってなんだけどさ、キキョウみたいに仕事出来るとさ、やっぱ、俺なんて駄目だ~ってなっていってさ。相手はもう俺が居ないとナーンにも出来ない子でさ、頼りなくてさ。キキョウは強いし賢いし、な。’
’は?‘
‘俺の力なんて、要らないでしょ’
’…‘
‘でもさ、今夜は朝まで大丈夫なんで、尽くしまくっちゃうよ、俺’
’なんか、目が回る…‘
‘え~、こんな弱かったか!?’
肩を抱き抱えられながらその店から20分も歩いたのだろうか、いつの間にかキキョウはホテルの狭い部屋のベッドの上にその男ともつれながら横たわり、キスをしている。
’結婚するんでしょ?‘
‘キキョウとはこのままだよ’
’相手の子は、いいの?‘
‘キキョウとは離れられないよ’
’…?‘
‘妊娠したんだって言うもんでさ’
’赤ちゃん!‘
‘キキョウの方が好きだよ…今でも、これからも…’
’ワタシはひとりで生きるの…?‘
‘ちゃんと会いに行くよ…’
自分勝手なことを言うこんな男とこのままで良いのだろうか、などと考えながらも、
男とキスする時の顔の傾けかたや鼻の位置と、男に脱がされていく時の胸が熱くなるような感覚には、少し心地良いような妙な慣れを覚えてしまっていた。
キキョウはそろそろ夢から覚める頃かなと思いながらも、つい調子に乗って裸の男の背中に大胆に腕を回してみたり自分から指を絡めていったりしたのだが、肌が触れている温度感や手触りはわからなかった。