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~おしとねすべり寸前の年増側室も元お姫様?~




女子高生キキョウは霊感や幽霊だとか占いなんか本当は信じていなかった。


キキョウの家族は、私立の男子校に通っている弟と看護師の母と週2回塾講師バイトをしている主夫の父の四人家族だ。


今日父が作ったお弁当もいつも通り茶色くて、牛肉と玉葱をウスターソースでからめて焼いてご飯にのせてあって、またベタベタと油が染みだしている。


母も同じお弁当を職場に持っていくけれど’人に見せるためじゃない、気にすんなっ‘とカラカラと笑う。


実はキキョウには毎晩興味深い楽しみがあって、寝ているような眠っていないような時にリアルな夢の夜を過ごすことが出来る。


それは急に始まった。


先月スマホを駅の階段の一番上から下まで落としてしまった時に確実に壊れた感じだったので、急遽、なぜか偶然見つけた駅前の‘スマホ緊急修理やさん’に出したところ、2時間ほどで使えるようになって戻ってきてからだった。


夢で誰かに教えられたとおりに、

それからは修理されたスマホで本から写メをとった中の一人だけをズームして編集、切り取り、保存、にしてその人物を2度タップしておいてから眠ると、

自分がその人物になった体験をする、という夢、をみれるのだ。


今日は図書館で江戸時代の絵画の本から着飾った女たちを写メにとってきて、その中でも豪華そうな着物の女を選んで編集して切り抜いて保存して、2度タップしてから眠った。



図書館で選んだ絵のまま江戸時代なのだろう、キキョウがいる城の中は夕暮れで薄暗く時代劇のセットのようだ。


辺りから漂う甘酸っぱい花の匂いと着物からかすかに薫る不思議なアロマ香が混ざっていて、現代とは明らかに違う空間なのがわかる。


近くから女の話す声が聞こえてくる。


’そもそも結婚は家が決めるのですから。自分たちがお相手を選べるなんてことありませんよ‘

‘あの方は大名家なんですからなおさらですよ’

’大名家の正室は家柄だけ、それだけで選ばれますからね‘

‘家柄の良いお姫様は深窓育ちのお嬢様ですからもう病弱で、すぐに亡くなって次のかたに機会をくださるのですよ’

’そういえば側室のキキョウ様はそろそろおしとねすべりのお年‘

‘もうじきお目にかかることもなくなりますね…’

’今夜は最後のご寵愛で…‘

‘まさかもう、ご懐妊などなさいませんわよね’

’そりゃあ私たちよりずいぶんお年ですもの、ねぇ‘

‘私たちをこれからのお相手にと言ってくださるでしょうか…?’

’何年も待ちましたものね‘

‘肌をお手入れしてお待ちしましょう’

’きめ細かくて艶っぽいですわよ‘

‘あなたこそ、殿より若くて良かったですわね’


江戸時代は高齢出産に備える医学的技術もなかったため出産による危険を避けるという理由で30歳くらい

で夫と子をなす役割から退くのが常だったようで、

おしとねすべりの後は自分の侍女の中から自分の身代わりを夫に差し出すのが習わしだと、図書館の書物にあった。


キキョウは高校生の自分が2倍の年齢になって侍女に連れられて主人らしき男の寝所に向かっていることを悟った。


歩いている感触から、美しい着物の下はブラもパンティも無しで透き通るようなペラペラの白い着物しか着ていないのがわかって驚いたが、不思議に嫌ではなかった。


‘キキョウ、健やかか?’

’はい…‘


男は驚くほど美しくてホッソリとした若い男で、たぶんこのキキョウよりは年下だろう。


あっという間に豪華な着物は脱がされその男に背中に回された片腕で引き寄せられてキスされながら、スルスルと白い透ける着物の帯を解かれ裸にされて抱かれてしまったが、

初体験もしていない高校生のキキョウには何をされたのかはぼんやりと霞んで、よくわからなかった。


’新しく屋敷を建ててあげるからね‘

‘え?もう会えないの、ですか?’

’もうずっと前から決まったことではないか‘

‘これをあげよう’

’嫌だ…もっともっと一緒にいたい…‘


その場の雰囲気でキキョウの瞳に溢れてきた涙を美しい彼がきれいな指で拭ってくれている。


キキョウの心のなかでもう抱いてもらえない哀しみと、まさに今ひとつの寝具の中にいる男への愛しさがぐるぐるとループして、思わず彼にしがみついていた。



朝、アラームが鳴る前に目を覚ましたキキョウは涙で濡れた顔を両手で被いながら、キスした男の顔が思い出せない事が残念でしかたがなかった。









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