討伐終了
「Shit!」
地面に転がる自分の腕を見て、スナイダーが吐き捨てた。
「ククク……ざまぁねぇな? どうする、回復術師に頼めば、まだ腕は治るんじゃないのか?」
そう訊ねると、スナイダーの腕に魔素が集まり、流れる血が止まった。
なるほど……重力で止血してるのか。
「フンッ、この俺が、腕の一本くらいで俺が泣いて命乞いをするとでも?」
ニタァっとスナイダーが笑みを向ける。
「そうこなくちゃ……ククッ」
「笑ってんじゃねぇ……」
スナイダーは地面に唾を吐き、片腕を失ったとは思えないほどの勢いで襲い掛かってきた。
驚いたことに、失った方の腕でも一切の躊躇いもなく攻撃してくる。
こいつ、痛覚が無いのか……⁉
「オラオラ! どうした⁉ さっきの威勢はよぉ!」
攻撃をいなしつつ、俺はスナイダーを覆う魔素に注視した。
すると、細い糸のような魔素と切り落とした腕が繋がっているのに気付いた。
「これでも喰らえ――、超重力爆撃!!」
頭上高くに飛び上がったスナイダーが、残った腕を振り下ろした。
凝縮した魔素が真っ赤な閃光を放つ――!
「チッ!」
俺は魔炎剣アルデロを構え、正面から受け止める。
「ぬぅぉおおおおおおお!!!!」
「負けるかよぉおおお!!!」」
お、重い……クソッ何てパワーだ!
だが、受けきれない程じゃない……。
その時、スナイダーがニヤリと笑った。
「お前の負けだ、瀬名Boy……」
「――⁉」
真横から弾丸のようなスピードでスナイダーの腕が飛んでくる!
瞬間、魔素でコーティングされた真っ赤な拳が、俺の脇腹にめり込んだ。
「ブホッ⁉」
吹き飛ばされ、地面に転がる。
「HAHA! 俺のスキルを甘く見たな、瀬名Boy! 頭でも潰されねぇ限り、スキルで何とで――What's⁉」
高笑いするスナイダーの脇腹を、数本の触手が貫いていた。
俺はゆっくりと立ち上がり、口元の血を拭った。
「甘く見てんのはアンタの方かもな?」
「な、何だ……この……ば、バケモン……は」
「失礼だな、バケモンじゃない、実験体だ」
「グフッ! しょ、召喚獣か……?」
スナイダーは仁王立ちのまま口から血を吐き、周りを取り囲む実験体達を睨んだ。
俺はスナイダーが落ちた腕に魔素を繋いだ時から、ブネと直ぐに交代できるよう準備をしておいた。瞬間的に憑魔を交代することが可能か心配はあったが、ブネ曰く、一度憑魔を済ませて影にいる間は待機状態となるらしい。
「召喚獣でもない。言っただろ、こいつは実験体だ」
実験体に向かって指を鳴らすと触手が引っ込む。
スナイダーがさらに血を吐いた。
「ブハッ⁉ ……ヘッ、へへ……一体……いくつスキルを持ってやが……るんだ……」
諦めたように足を投げ出し、崩れ落ちるように地面に座り込んだ。
「想像に任せるよ」
「ハッ、まあ言うわけ……ねぇわな……。で、どうする? 俺は……、し、死ぬまで付き合ってやってもいいん…だぜ?」
魔素を操り止血をしているが、スナイダーの顔面は真っ青になっている。
さすがに血を失いすぎたのだと思うが……本人はまだやる気のようだ。
「誰も付き合ってくれなんて言ってねぇよ、そもそも仕掛けてきたのはそっちだろ?」
「あー……悪い、そうだったか?」
そう言って、スナイダーはキョトンとした顔で少し上を見上げながら頭を掻いた。
ちょ……こいつ、本当に忘れてやがる。
額に手を当て、どうしてくれようかとため息を吐いた、その時だった――。
「そこまで!」
「「は?」」
俺とスナイダーが同時に声の方を向いた。
そこには、亜麻色の髪の少女というか女子高生が一人、そしてその後ろに、数人の男達が立っていた。
「誰?」
「覚醒管理局処理課――熊野堂あけみです」
どこからどう見ても女子高生だが……俺は幻覚でも見ているのか?
腕には処理課と書かれた腕章を付けているが……。
少女は実験体に臆することなく、こちらに向かって来た。
俺は実験体達を引っ込め、スナイダーに向かって肩を竦めて見せた。
「ハロー、ブレイク・スナイダーさん、貴方には重大な規約違反が認められます、大人しく私に従ってください」
「HAHAHA! お嬢ちゃん、冗談キツいぜ。俺を誰だと――」
熊野堂は話を聞かずに、すたすたと岩壁に向かって歩く。
「おい、人の話をき……」
――――ドゴォオオン!!!
凄まじい音と地響きの後、土煙が晴れると岩壁が消えていた。
「いいから来いっつってんだろ、オッサン! その歳でJKに名前呼んでもらえるだけでも幸せだと思いなさいよ!」
「「……」」
俺とスナイダーは顔を見合わせて小さく頷き、同時に両手を上げた。
*
「わあぁん、瀬名っち!」
外に出ると藍莉が飛びついてきた。
俺の胸に顔を擦りつけてうわーんと泣き声を上げている。
この美少女……いや美男子が、あんなに厳つい人狼だとはとても思えないな……良い匂いだし。
「ちょ、藍莉、みんな見てるから……」
「だって……だって……」
潤んだ瞳で見つめられると、思わず抱きしめたくなってしまうが、どんだけ可愛くても藍莉は男である。
ここはちゃんと理性を働かせねばっ!
「藍莉やめろ、瀬名が困ってるぞ」
顔を引き攣らせた桐谷が、藍莉を引き離した。
「あ、どうも、お疲れ様でした、皆……無事で良かったです」
そう言うと、一瞬、桐谷は驚いたような顔を見せた。
「……本当に、人が変わったみたいだな?」
「あ、ああ、憑魔すると気が大きくなるというか……失礼があったなら謝ります」
「いや、別にどっちでも私は構わないさ」と、桐谷は鼻で笑った。
なぜだろう……討伐を共にしたからだろうか?
桐谷に対して抱いていた感情が、少しだけ変わったように思える。
まあ、今だけの錯覚かも知れないが。
先に助け出されたメンバー達が、俺の背後を見てざわつき始めた。
振り返ると、ポータルからスナイダーが出て来るところだった。
熊野堂と処理課の連中に周りを囲まれている。
すっかり血の気が戻ったスナイダーは、大きく欠伸をして、面倒くさそうに肩を鳴らした。
何てタフな奴……。
熊野堂が俺と桐谷の側にやってきた。
「桐谷さん、貴方にもお話を伺うことになると思います」
「ええ、正式に管理局から要請があればいつでも」
桐谷が嘘くさい笑みで返すと、熊野堂は蔑むような目を向けた。
「金曜会さんは管理局にも顔が利きますもんね、ま、そうやって、ふんぞり返ってればいいと思いまーす」
「なっ……⁉」
桐谷は言葉を失い、口をあぐあぐさせている。
そんな桐谷に構うことなく、熊野堂は後ろにいた青年に尋ねた。
「えっと、浅倉ー、あと誰だっけ?」
「小鳥遊です」
「あ、そうそう、小鳥遊さーん、いらっしゃいますかぁー?」
熊野堂が呼びかけると、メンバーの中から、おずおずと小鳥遊が顔を出した。
「ぼ、僕……でしょうか?」
「そ、僕でーす、小鳥遊さんも後日、呼び出しがあると思いますのでよろしくお願いします、呼び出しに応じるか否かは私はどーでもいいんでクレディ・ワイズさんの方で決めて下さーい」
「あ、はい……」
小鳥遊が返事をすると、
「はぁい、結構でーす」と熊野堂がニッと微笑み、皆に向かって声を上げた。
「注目! えー、今回の討伐に関しては情報規制が設けられます! ポータル内で起きたことについては、決して口外しないよう、ご注意ください! 個別に聴取が必要な場合は追って管理局からご連絡します! では、この場は処理課が引き継ぎますので、各自解散としてください! 以上! お疲れ様でした!」
「――よし、撤収だ」
桐谷の一声で、皆がゾロゾロと来た道を引き返して行く。
数人のメンバーが、俺に「助かったぜ」とか「ありがとう」と礼を言っていく。
「お、おい、瀬名くん!」
「石丸さん! 大丈夫でしたかっ!」
丸っこい石丸さんの顔を見て、少しホッとした。
「いやぁ、ホントに大活躍だったなぁ~、ていうか見た? あの天井の魔石……ありゃぁ、とんでもない代物だぜ? どんな感じなんだろうなぁ……いやぁ回収したかったぜよぉ~」
なぜか土佐っ子のような口調になる石丸さんは、わはははと豪快に笑いながら俺の背中を叩いた。
「まあ、またチャンスがありますよ」
「そ、そうか? へへへ、ま、そうは言っても、今回ガッツリ回収したからな。来て良かったよ。あ、そうだ、黒田くんって子から謝っておいてくれって伝言預かってるぜ」
「黒田が……」
「何かすげぇ落ち込んでたみたいだったけど……喧嘩でもしたのか?」
「いや、まあ、大丈夫です、ありがとうございます」
まあ、あいつは落ち込むくらいで丁度いいだろう。
「Hey、瀬名Boy!」
声の方を向くと、スナイダーが手を上げていた。
俺が切った腕は、処理課の回復術師が治してくれたようだ。
何事も無かったように、全部の指が波打つように動いている。
「I will kill you someday」
親指を立て、ウィンクして爽やかに笑うと、処理課の連中に連行されて行った。
「あの人、何て言ったんだ?」
石丸さんが不思議そうな顔で言う。
「……さあ」
「ま、いっか。じゃあ、俺たちも帰ろうぜ」
「そうですね」
俺と石丸さんは皆に続いて、ポータルを後にした。
*
「瀬名を確認しました。今のところ問題はないようです」
『よし、引き続き頼む』
「了解しました」
スマホをしまう乾。
運転席の近藤が、仲良く手を繋いで歩く瀬名とリディアを見て目を細めた。
「乾さん、あれ、湊リディアっすよ⁉ 羨ましいっすよねぇ……めちゃくちゃ可愛いじゃないっすか……いいなーっ! いいなーっ! うぅっ……」
「バカかお前は……女が欲しいなら自分で探せ」
「はぁ……どこかに落ちてませんかねぇ……」
「ったく、いいから早く出せよ」
「へーい……」
車はゆっくりと二人を追い抜く。
乾が窓硝子越しに見ると、瀬名が軽く会釈をした。
「完全にバレてたな……」
「どうかしました?」
「……何でもない、急げよ、対象は待ってくれねぇぞ!」
「わかってますって」
黒いSUVはスピードを上げる。
サイドミラーに映っていた二人の姿も消えた。
今回でスキルトリガー二章完結です。
あっという間に二十万字を超えることができました。
本当にありがとうございます!
最近書ける時間が少ないので……、一旦休載とします。
再開の折には、活動報告等でお知らせします!
良かったらブクマなどしていただけるとうれしいです。
よろしくお願いします。




