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世界最強の憑魔術師に覚醒したので第二の人生を楽しみます!  作者: 雉子鳥幸太郎
二章

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魔炎剣

「よう、Boy? 穴ん中はどうだった?」


 スナイダーが岩壁に親指を向け、ニヤリと笑った。


「……ふん、挑発のつもりか?」


 そう答えて、俺は目を凝らす。

 膜のような色濃い魔素がスナイダーを覆っている。

 ブネが憑魔している時より鮮明に見ることはできないが、朧気に魔素の流れが見えた。


 奴の攻撃は、単純が故に応用が効く。

 魔素利用しての重力操作、重力を利用した直接攻撃のブースト。


 そう、やってることは単純なんだ。

 だが、繰り出されるパンチや蹴り、その一つ一つの動作に重力ブーストが掛かることにより、普通の攻撃が普通でなくなっている。


 とてもじゃないが、憑魔してなきゃ死んでいただろうな。


「さぁ、さっさと始めようぜ! HAHA!!」


 スナイダーが大声を張り上げる。

 身体を覆っていた密度の濃い魔素が拡がっていく。


「させるかよ――」


 その瞬間、中空に黒い穴が出現し、中から燃え盛る魔導戦車が現れた!

 中世の戦車に似た形で、正面には闘牛のような二本の角が伸びている。

 戦車は炎の轍を引きながら、凄まじい勢いで俺に向かって疾走してきた。


「な、何だアレは⁉」

「魔物か⁉」

「こ、こっちに来るぞ⁉」


 スナイダーを始め、黒田や桐谷たちが口々に言った。

 そりゃそうだよな、召喚した俺自身も驚いている。


「桐谷、隙を見て皆を外に」

「お、おい、瀬名⁉」


 俺は燃え盛る魔導戦車に飛び乗った。

 炎は不思議と熱くない。

 むしろ、力が湧いてくるようだ。

 操作は必要なかった。考えるだけで魔導戦車は自由自在に動いてくれる。

 これはかなり楽しいかも。


「さぁ、行くぞスナイダー!」


 放たれた炎の矢の如く、スナイダー目掛けて魔導戦車を走らせる。


「ぬぁっ⁉」


 スナイダーの巨体が吹っ飛ぶ。

 岩壁まで跳ね飛ばされ、崩れ落ちてきた岩に埋まる。


 意外と上手く行った。

 俺は桐谷にアイコンタクトを取る。


「よし、今のうちだ! 回収班を優先、援護しながら撤収を始める!」


 桐谷が先導し、撤収を始めた。

 よし、これで巻き込まなくて済む。


 魔導戦車から飛び降り、崩れ落ちた岩の前に立つ。


「せ、瀬名……」


 黒田が恐る恐る話しかけてきた。


「黒田か……、お前も早く外に出ろ」

「す、すまん、俺は……」

「勘違いするな、俺とお前はただの顔見知りだ。失せろ」

「……」


 一瞬、顔を歪めた黒田は、目線を合わせぬまま背を向けて走り出した。


「さて……いつまで寝てんだよ、おっさん」


 堆く積み重なった岩山から、岩石が一つ転がり落ちた。

 次の瞬間、まるでポップコーンが破裂したように岩が飛び散る!


「HAHAHA! 瀬名と言ったな? 前言撤回、俺はお前を正式に『敵』と認定する!」

「なんだそりゃ? 別にそんなもんいらねーよ」

「ククク……、OK、boy、ここからは言葉はいらねぇ、力だけが全てだ――」


「むぅん!!」


 ドンッ! と、鈍い音がダンジョンに響いた。

 スナイダーの大きな拳が俺の肩に食い込む。


「クッ……」


 身体を反らし、スナイダーの攻撃をいなしながら蹴りで応戦した。

 丸太のような腕に蹴りがめり込む。

 手応えがあった、やはりベリアルの強化は攻撃特化だ。

 ――イケる!


「オラぁ!!」

「ぬぅあああ!!」


 ドンッ、ドンッ、と肉がぶつかり合う音がバスドラムのように激しく鳴り響く。

 高速で殴り合う俺たちの姿は、傍目には見えないだろう。


「HAHAHA!!! ここまでやれるとはなぁ!」

「ハッ、段々余裕がなくなってきたんじゃねぇのか、おっさん!」


 一発一発が重い。

 確実に重力を乗せてくる。

 しかも、ご丁寧にフェイクを織り交ぜながら、俺の手足に重力の枷を……。

 クソッ、力任せに殴ってきているだけじゃねぇ。


「チッ……どう見てもそういうタイプじゃねぇだろ!」

「どうしたBoy! こんなもんか?」


 ま、マズい……押されていく。

 パンチを受け止めた瞬間、スナイダーの目が金色に輝いた。

 ガクッと膝が地に付く。


「クッ……この……」

「油断したな? 教えてやるよ、戦場ではな、油断した奴から死んでいくんだぜ?」

「うるせぇ……」

「やれやれ、大人の忠告ってのは聞くもんだぜ? ま、これで終わりだけどな――」


 スナイダーの拳に凄まじい量の魔素が集まっていく。


「――終わるかよ」


 俺を中心に炎が渦を巻いた。


「なっ……⁉」


 真っ赤に輝いていた炎がベリアルの姿に変わった。


「なんだコイツは……⁉」


 慌てて距離を取るスナイダー。


『もっと早く呼べ! け、怪我とかしたらどうするんだ!』


 もじもじしながら言うベリアルに、俺は「すまん」と一言謝った。


『あ、アルデロはここ……だ』


 恥ずかしそうにベリアルが胸元を手で押さえた。

 そして、貴族服のフリル付きのブラウスのボタンを外した。


「おいおい、瀬名Boy……いまどういう状況かわかってるのか?」


 スナイダーが呆れたようにため息をついた。


 俺はスナイダーを無視して、ベリアルの胸元に手を伸ばした。

 ベリアルは白い手を俺の手に添え、はだけたブラウスの中へと誘う。


『炎は我、我は炎、魔炎剣アルデロの正統な所有者ベリアルが命ずる、その力を持って汝の敵を焼き尽くせ!』


 手がベリアルの胸の中へと入っていく。


『あっ……んはぁ……♥ っく……ふゅん♥』


 奥へ入る度、ベリアルはとろけそうな顔で、歓喜の声を漏らしている。

 ――手に何かが当たる感触があった。


 潤んだ瞳を俺に向け、ベリアルが声を震わせながら言う。


『お願い、はやく……ぬ、抜いて……!』

「ああ、わかった」


 剣を掴み、一気にベリアルの身体から引き抜く!


『ふわああぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!!♥♥』


 ガクガクと痙攣しながら、ベリアルの姿が消える。

 俺は魔炎剣アルデロを見つめた。


 これが……アルデロか。

 深紅に輝く細身の剣、うっすらと魔素の炎を纏っている。

 まるで剣自身が燃えているようだった。


「何だ今のは? お前のスキルはどうなってんだ?」

「生きてたら教えてやるよ」


 嘲笑混じりに返すと、スナイダーが大声で笑った。


「HAHAHA!! そいつは楽しみだ! おま――⁉」

「確か……油断した奴から死ぬんだったよな?」


 言い終える前に、俺はスナイダーの右手を切り落としていた。

いつもありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ある意味、命のやり取りの場の中での憑魔のやりとりの異常さをきっちり認識してくれた人物だったのに惜しい人を亡くしました。 いや、このノリ面白いので是非生き残ってほしい
[一言] ベリアルにツンぶる余裕がなくなってる……
[一言] 完全に法律が機能しなくなった世界だなぁ……
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