再会は突然に
スマホのマップアプリで魔素ルームを探していると、なんやかんやで結局、港区に辿り着いてしまった。
港区なんて今まで縁がなかったからな、正直緊張している。
しかし、道行く男性も女性も着ている物が違うせいか、何だか小綺麗に見えるな。
おぉ、あれが噂のヒルズか……。
キョロキョロとスマホの地図と見比べながら魔素ルームを探していると、すれ違ったお姉さんの一人が俺を見て立ち止まった。
「あれ、君……、あの時の?」
「あっ⁉」
――み、湊リディア⁉
ボディスーツ姿も格好よかったが、私服姿はさらに輝いて見えた。
大人っぽい黒のジャケットに、黄色のニット、グレーの柄が入ったスカートに黒い編み上げブーツを履いている。都会的で洗練された立ち姿は、まるで映画のワンシーンを切り抜いたようだった。
「ちょっと、そんな驚かないでよ」
と、困り顔で笑うリディア。
「あ……いえ、突然だったもので……」
俺はガチガチに緊張しながら、誤魔化すように愛想笑いで返した。
「この辺に住んでるわけじゃ……なさそうよね? どうしたの、何か探し物?」
「あ、はい……あのー、このお店を探してまして……」
リディアが髪を耳に掛けながら身体を寄せて、俺のスマホを覗き込む。
暴力的なまでに良い香りがする……お、恐ろしい。
俺が知らないだけで、世の中にはこんな女性が実在してたのか?
か、顔ちっせぇ……。
「魔素ルーム⁉ え、もしかして君……覚醒者だったの⁉」
目を大きく開いて俺を見る。
「はい、実はあの時……、覚醒してたみたいで」
「ふぅ~ん……そうだったんだ」
そう呟くように言うと、リディアは悪戯な笑みを浮かべる。
「私もそこ使ってるのよねー、案内してあげてもいいよ」
「え、いいんですか……?」
「その代わり……、君にお願いがあるんだけど?」
上目遣いで俺を見るリディア。
俺は生唾を呑んで答えた。
「ぼ、僕に出来ることなら……」
「ホント⁉ じゃあ、私とデュオ組んでくれない?」
「デュオ……?」
「あー、そっか、覚醒したばっかだもんね? 討伐の時にソロか、デュオ、パーティーって選ぶんだけど……んー、ここじゃ目立つし、とりあえず魔素ルーム行こっか?」
周りを見ると、遠巻きに若いカップル達が、リディアにスマホを向けていた。
確かに目立つもんなぁ……、これが有名税ってやつか。
「ほら、行くわよ」
リディアはそんなことはお構いなしに、俺の腕に手を絡めてくる。
「ちょ⁉」
ま、マジで……⁉ ち、近いなんてレベルじゃないんだが⁉
と、その時、周りから声が聞こえてきた。
『きゃーっ、あれリディアじゃない⁉ え、彼氏? ヤバくない?』
『モデルかな? 顔ちっさ!』
それを聞いたリディアは俺の顔を覗き込み、
「確かに君……、かわいー顔してるもんねぇ?」と笑う。
「そ、そんな、からかわないでくださいよ」
「あら、私は思ったことを言っただけよ」
「え⁉」
ドキンと心臓が跳ねた。やべ、耳が熱い……。
いかん、気にするな。向こうはこういうの慣れてるんだ、うん。
そう、からかわれてるのくらい俺もわかる。
リディアは何事もなかったように歩いて行く。
俺は魅惑された小動物のように、腕を引かれるままリディアに付いていった。