反撃開始
薄れゆく意識の中、誰かの声が聞こえた。
『おいおい、ったく……しっかりしろよ』
(だ、誰……?)
『ブネ、こいつまだ息があるぞ?』
誰かがブネに話しかけている……?
『そのようだ』
『そのようだってお前……助けないのか?』
『私はすでに知恵も授けたし、貸せる力はすべて貸した。他に何をしろと言うのだ?』
『そ、それはそうだが……』
『ならばベリアル殿が助けてやればよかろう?』
『い、いや、オレはそんな面倒なことはしないぞ!』
『では、成り行きを見守るしかない』
『……』
な、なんだ?
何か揉めているような……。
『あぁ、もう……! ったく、しょうがない奴だな! おい! 起きろ! おーい!』
(君は……誰?)
『まったく勘の鈍いやつだ! このベリアル様がわざわざ話しかけてやっているというのにっ!』
(ベリアル……ブネの言っていた王様か……)
『いいから死にたくないならオレの名を呼べ! そ、それくらいはできるだろうっ! 言っておくが、勘違いするなよ? これは待つのが退屈だからであって、決してお前を助けようとかそういうのじゃないからな!』
やたら早口でまくしたてるベリアル。
(わかったよ……来い、ベリアル……!)
その瞬間、首筋に柔らかくて暖かい感触を覚えた。
手でまさぐると、すべすべして吸い付くような……。
『オ、オホン……、さ、触りすぎだ!』
ハッと目を開けると、そこには燃えるような赤い瞳で俺を見下ろす美しい女の顔があった。
瞳と同じ真っ赤な髪の間から、二本の黒い巻き角が生えている。
ベ、ベリアル……?
この柔らかいのは、ベリアルのふとももだったのか……って、ふとももっ⁉
ひ、膝枕かっ!
『目覚めたか、ったく……何という弱さだ、話にならん!』
不機嫌そうに言い放つベリアルだったが、なぜか俺の髪を優しく撫でてくれている。
ちょ、何プレイだこれは……。
「あ、その……ありがとう」
ベリアルの心地よい太ももに頭を乗せたまま、とりあえず礼を言っておいた。
『そ、そうやってすぐに礼を言うのもやめろ! 女々しい奴め!』
「……」
怒っているような、怒っていないような……。
何だか良くわからない展開に戸惑っていると、ベリアルが俺の上半身を抱き起こして、ギュッと抱き寄せる。
貴族っぽいフリル付きの服の上からでも、双乳のふくよかな柔らかみを十分に感じた。
『な、何とか言ったらどうなんだ!』
さらに身体を押しつけてくる。
何だろう、言動と行動が一致しないな……。
「うぅっ……そ、それより、状況は……」
起き上がろうとすると、ベリアルが背中を支えてくれた。
『この程度の怪我で情けない……は、恥を知れ!』
「う、うん、そうだよね、もう大丈夫だから……」
立ち上がり、ベリアルと向かい合う。
ちょっと俺より背は低いんだな。
『は、早くしろ』
「え……」
目線を外して真っ赤になるベリアル。
ちょ、ツンが酷すぎないか?
『あいつを倒すなら、ち、力を貸してやっても良い……けど』
「ほんとに?」
『か、勘違いするなよ⁉ オレも見ていて腹が立っただけだからな!』
「ベリアル……」
よろしい、ならば急げだ!
俺はベリアルの頬を両手で包み、顔を自分の方へ向けた。
『な、ななな……⁉ にゃにをする⁉』
ベリアルの顔が燃えるように熱い。
耳まで真っ赤になり、潤んだ瞳はふるふると震えていた。
「憑魔しよう」
『い、いちいち言わんでーっ! ち、力は貸すといって……こ、この……んぐっ⁉』
強引にベリアルの口を塞いだ。
俺も成長したな……。
『ん……♥』
ベリアルから可愛らしい声が漏れた。
その瞬間、心臓が高鳴る。
抱きしめる手に力が入った。
強張っていたベリアルの身体の力が抜けていく。
『ンッ……んはぁ……♥』
荒い息が漏れた。
赤い髪に手櫛を入れ、後頭部を掴むと、閉じていた口が開き、ゆっくりと柔らかな舌が恐る恐る俺の口内に入って来た。
「――⁉」
身体の中心で何かが弾けた。
パンッと乾いた破裂音が聞こえたかと思うと、次の瞬間、体の奥から赤く、熱く、燃え上がるような力が湧き上がった。
炎は瞬く間に俺の体内を駆け巡り、俺とベリアルは一つになった――。
「うぉおおおおおお―――――――――――っ!!!」
身体が焼かれるように熱いが、何故か痺れるような快感が迸る!
「こ、これがベリアルの力……」
内に渦巻く凄まじいエネルギーを感じた。
吐き出す息が熱い。
今すぐにでもあのアロハをぶん殴ってやりたいが、ここはまずステータスを確認しておこう。
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年齢:18 名前:瀬名 透人
レベル:42
異能区分/E 召喚師/憑魔術師
HP:94(+4560)
MP:1533(+6465)
筋力:8(+742)
体力:8(+819)
知能:45(+355)
抵抗:6(+540)
反射:5(+620)
精神:296(+951)
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憑魔:ベリアル
・魔導戦車
ベリアルが愛用する飛行可能な戦闘用車両(10分 1500MP)
・魔炎剣アルデロ
獄界十魔剣に数えられる名剣(1000MP)
・■■■
現LVでの使用不可
・■■■
現LVでの使用不可
・■■■
現LVでの使用不可
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なるほど……ベリアルは攻撃系のステータスが優れているな。
良さそうなスキルもあるし、ひとまず力押しでやってみて……、状況によってはブネと交代も考えておこう。
岩壁の中から外に出ると、スナイダーと桐谷たちが睨み合っていた。
「せ、瀬名⁉」
「瀬名さん! よ、良かった!」
黒田と小鳥遊の声に、スナイダーが俺を見る。
「ん? おっほほぉ~⁉ 生きてたのか? HAHA! やるじゃねぇか、見直したぜ⁉」
嬉しそうに手を叩くスナイダー。
不気味な静寂の中に、乾いた拍手の音が響く。
「瀬名……行けるのか?」
桐谷が剣を構えながら、俺に言った。
「ああ、もちろんだ――」
お待たせしました、よろしくお願いしますっ!




