来る者拒まず、去る者許さず
「よし! 行くぞ! いち、に~の、さん!!」
石丸さんを含む回収班と後衛達が、盾役に守られながら扉を押し開けた。
突入した瞬間、盾役達が一斉に扇状に広がった。
「クリア!」
「クリア!」
「こっちもクリアだ!」
盾役の声に、近接ディーラー達が構えを解いて周囲を見回している。
俺と小鳥遊も中に入ると、そこは巨大な神殿のような造りだった。
正面に巨大な石像があった。三つの頭があり、背中には天使のような羽が、手には宝玉と錫杖のような物を持っている。
「ありゃなんだ? 随分、でっけぇな……」
石丸さんが口を開けたまま見上げた。
小鳥遊は石像よりも、石像を眺めるメンバー達の顔を観察している。
やっぱ、小鳥遊って不思議ちゃんだよな……。
石像は一体だけで、他には数本の柱と篝火が揺らめいているだけだ。
「気を抜くな! そのままゆっくりと前進だ!」
「はい!」
桐谷の指示で盾役が大楯を構えながら、ジリジリと前に足を伸ばす。
何も無いわけがないのだ……皆もそれをわかっている。
ここはレベルSダンジョンの中、しかも、あんな大層な扉まであった部屋だ。
ただで済むとは、誰も思っていない。
いっそのこと、開けた瞬間に戦闘が始まった方が、精神的に楽だったかも知れないと思えるほど、辺りの空気は張り詰めていく。
「よし、盾役は状況を報告!」
桐谷が静寂を破った。
皆が一瞬、大きく息を吐いたのがわかった。
さすがに上手いな、あのままだと皆の神経が持たなかった。
「異常なし!」
「こちらも問題ありません!」
「異常なし!」
「よし、そのまま前進、石像を調べる!」
「「了解です!」」
周囲を警戒しながら石像を取り囲む。
石像の足元に石版があった。
「桐谷部長! モノリスらしき石版が埋め込まれています!」
「見せてみろ」
メンバーをかき分け、石版の前に立つ桐谷。
それに便乗して、俺と石丸さんも後ろから覗き込んだ。
石版には解読はできないが、象形文字のような『字』が刻まれていた。
「ありゃ……何だ? 見たことない字だな……」
「うーん……」
『ふん、古代アスール語だな……』
「ブネ⁉」
「瀬名さん? 急にどうしたんですか?」
小鳥遊がきょとんとした顔で俺を見た。
「あ、いや、何でもないよ」
確かにいまブネの声が……。
『君の脳内に直接語りかけている』
「やっぱり!」
石丸さんがビクッと身体を震わせる。
「うぉっ⁉ びっくりしたぁ、どうしたんだ?」
「い、いえ……ちょっと思い出しただけ」
いかんいかん、変な奴だと思われる。
心で念じれば通じるかな……。
(き、聞こえますか……)
『はぁ……何をやっておるのだ』
(通じた!)
『通じるも何も、君が聞こえるようになっただけだがな』
(え……)
『はわわぁーっ! マスタぁー! 頑張ってますか~!』
(あ、アンドロマリウスか⁉)
『アンドロマリウス、我より先に声をかけるとは……』
『はわ⁉ も、申し訳ありません……!』
(アスモデウスもいるのか……)
『もういい、君たち下がりたまえ、うるさくて敵わん』
『ブ、ブネ殿、これは失礼を……』
あのアスモデウスが謝っている。
この中ではブネが一番序列が上なのか……?
うーん、悪魔の世界も上下関係が厳しいのかな。
『まあ、そんなわけで、君の影を介して我々は繋がっている』
(な、なるほど……って、ずっとこのまま⁉)
『それはない。魔素が薄い場所に行けば、繋がりを維持するのは難しいだろう』
(じゃあ、ダンジョンを出れば会話はできないの?)
『魔素濃度、あとは君の力次第だな』
(そっか……あ、さっき古代なんとか語とか言ってなかった?)
『その石版に書いてあるだろう、<来る者拒まず、去る者許さず>と』
(え……⁉)
「しっかし、何か隠し通路があるわけでもないし……どうなってんすかね?」
メンバーの一人が、石像をぺしぺしと叩いた。
「おい! 無闇にさわるな!」
桐谷が注意する。
「あ、すみません……」
良かった、何も起こらない。
そう思った瞬間、扉が閉まった――。
「おい! 扉が⁉」
「――しまった! 全員戦闘態勢だ!」
素早く散開したメンバー達は即座に反応した。
さすがは桐谷が精鋭と呼ぶだけはある。
盾役は皆を庇うように三人一組で壁を作り、近接ディーラーは攻撃態勢を整えた。支援術師と回復術師は魔石回収班を庇いながら周囲を警戒する。桐谷は先頭に立ち、剣を抜いた。
――その時、石像の持つ宝玉が光を放った。
俺達の周囲を魔方陣が取り囲む。
「何だ⁉」
素早く支援術師と回復術師達が魔法防壁を展開する。
青白い光のヴェールが全員を包んだ。
「何か出て来るぞ!」
並んだ魔方陣から、二足歩行の蜥蜴のような魔物が現れる。
『ギギギッ!』
『グゲゲッ!』
「ド、ドラゴニュート⁉」
「ボ、ボス級があんなに……」
「怯むな! 殲滅しろ!」
桐谷は叫ぶと同時に、スキルを放つ!
『――聖光!』
閃光が迸ると同時に、数体のドラゴニュートが膝を付いた。
『ヴォオォオオオオーーーーーーーッ!!!』
銀毛の獣に変身した藍莉が雄叫びを上げ、襲い掛かる。
「副長に続け―――ッ!!」
場は乱戦となる。
厄介な相手だ……。
魔法耐性もさることながら、回復力が半端じゃない。
腕を切り落とせば、瞬時に新しい腕が生えてきやがる……。
「クソッ! キリがないぞ!」
「一体ずつだ! 焦るな、数さえ減らせば何とかなる……!」
その時、脳内にブネが語りかけてきた。
『ほれ、急がぬとまた来るぞ?』
(え、また?)
――次の瞬間、頭上を無数の魔方陣が埋め尽くした。
ありがとうございます!




