黒い扉
剣ヶ峯の山中に、完全に場違いな二人がいた。
真冬なのにサングラスを頭に乗せ、派手なアロハにビーサン姿のスナイダーと、高級ブランドの黒スーツに革靴を履いた黒田だ。
「あの……スナイダーさん、俺に付いてきても何もないですよ?」
「チチチ……、ハッハァッ! クロ、俺を出し抜こうなんざ五億年はえぇぞ?」
人差し指を左右に振りながら、スナイダーが笑う。
「でも、ギルティの奴らが動いてるって報告もありましたし……」
「勝手にやらせとけ、もう十分叩いただろ。ルード一人でお釣りがくる。それより……何か匂うな」
「え? そうっすか?」
すると、大袈裟に鼻をヒクヒクさせていたスナイダーが、ピクンと何かに反応した。
「What a windfall! HAHA!! いいぞクロ、お前はやっぱり持ってるな!」
満面の笑みを向け、バンバンと黒田の肩を叩く。
「いてて……な、何か見つけたんすか?」
「ああ、魔素を感じる、それも……極上だ、質が違う」
「てことは、やっぱりここで金曜会とクレディワイズが?」
「それは知らねぇが、この魔素を辿ってみる価値はありそうだ」
スナイダーはニヤリと笑って登山道から外れ、茂みの中へ入っていく。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよぉ~!」
*
「こういうことって言われても……」
『やれやれ、君ってやつは本当に手の掛かる実験体だ……』
ブネは俺の前に降り、大きくため息をついた。
『私は場に『粉砕』という波を立てた、魔素を介してね。んー、まあ君には……理解できないか』
そう言うと、ブネが俺の影を見て、
『ふむ……ほほぉ、なるほど、ここにポータルを通したか』と呟く。
「え? ちょ、詳しく!」
『これは、君のポータルのレベルが上がったお蔭だな。ちゃんと獄界に繋がっている、これなら……常時接続が可能だろう』
「常時接続? いつでも呼べるってこと?」
『ああ、一定の魔素量がある場所なら』
ということは、わざわざポータルを創る手間が省けるのか……。
これはかなり捗りそうだ。
『それよりも、君はちょっと弱すぎるぞ? 私の実験体としてのプライドはないのか? ん? ほら、顎を上げろ』
クイッと俺の顎を指で持ち上げる。
「んぐ……⁉」
ブネが唇を合わせて来た。
幾千の星が俺を通り過ぎていく!
身体に感覚が戻り、ブネとの憑魔が完了した。
「やっぱ、すげぇな……」
と、その時、他の班のメンバー達が駆け寄ってくる。
リーダーの男が、笑顔で手を差し出してきた。
「瀬名さん! ありがとうございます! さっきの瀬名さんですよね?」
俺はその手を取り、軽く握り返す。
「あー、いや……それより藍莉は大丈夫ですか?」
そう訊ねると、奥から藍莉が顔を見せた。
「瀬名っち……」
「良かった、無事だったか」
「ありがとう、でも……見られちゃったね、へへ」
今にも泣き出しそうな顔で、力なく笑う藍莉。
「何を気にしてるのか知らないが、格好よかったぞ? 多分、皆もそう思ってるよ」
「そ、それは……」
すると、周りのメンバー達が口々に藍莉に言った。
「そうですよ! 俺はずっと前から藍莉副長に憧れてました!」
「うんうん、ギャップがいいよな」
「私も好きですよ、触ってみたいし……」
「みんな……ありがとう」
その時、奥から来た桐谷が声を張った。
「何をしている! 貴様ら、ここが何処かわかってるのか⁉ レベルSの中だぞ!」
「は、はいっ!」
「す、すみません!」
メンバー達は一斉に姿勢を正した。
「藍莉!」
ずかずかと歩いてきた桐谷が、藍莉の髪を鷲づかみにした。
「お前は自分の立場をわかっているのか! デミリッチ如きに手間取りやがって……! 出し惜しみなんてしてるからだ!」
「――離してやれ」
俺は桐谷の腕を掴んだ。
「おい、瀬名ぁ……貴様何のつもりだ?」
「あ? DVは見てらんねぇっつてんだよ」
一触即発の空気に、リーダーの男が割って入る。
「な、仲間割れは最悪のパターンです! 桐谷部長! ここを出てから思う存分やりましょう! 瀬名さんも、どうかここは引いてください!」
「瀬名っち、ボクも大丈夫だから、ね? お願い……」
藍莉は精一杯の笑顔を作って俺に訴えた。
「……わかったよ、その代わり次は無いぞ」
「フンッ……」
桐谷は藍莉の髪から手を離し、皆に向かって言った。
「よし! さっさと奥へ進むぞ!」
通路に戻ると、石丸さんと小鳥遊が心配そうに近寄ってきた。
「大丈夫でしたか⁉」
「おいおい、ダンジョン内で揉め事はよくねぇぜ?」
「悪い、心配掛けた。でも、もう大丈夫だよ」
「そっか、ならいいんだ」
石丸さんが俺の肩に優しく手を置いた。
しばらく通路を進むと、大きな扉の前に着く。
入口の扉と違って、凄く違和感を感じた。
こんなダンジョンの中だと言うのに……綺麗なのだ。
扉は黒曜石のように黒光りしていて、細かな模様が彫られている。
これがゲームなら、間違いなくイベントが起きる場所だろう。
「おいおい、如何にもな感じだな……」
「ああ、やべぇ臭いがぷんぷんするぜ」
扉から目を離さず、石丸さんが鼻の下を指で擦った。
桐谷が扉の前で立ち止まり、皆に向かって発破を掛ける。
「準備はいいか! 全ての可能性を考えろ! 中の状況を即時判断して対応しろ! 自分の頭で最適解を出せ! 指示を待ってると死ぬぞ!」
全員が息を呑み武器を構えた。
それを見た桐谷が頷き、扉前のメンバー達に手を向けて合図する。
「よし! 行くぞ! いち、に~の、さん!!」
石丸さんを含む回収班と後衛達が、盾役に守られながら扉を押し開けた。
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