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世界最強の憑魔術師に覚醒したので第二の人生を楽しみます!  作者: 雉子鳥幸太郎
二章

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命綱

 家に戻り、部屋の電気を点けると同時にスマホが鳴った。

 画面には非通知と表示されている。


 このタイミングで、しかも非通知……。

 俺は少し考えたが、通話をタップした。

 

「……はい」

「どうも、桐谷です」

「――⁉」

 顔が強張る。


「管理局は楽しかったですか?」

「何でそれを……」

「はは、偶然ウチの者からお見かけしたと聞きましてね。ま、それよりも、例の討伐の日程が決まりましたので、ご連絡させていただきました」

「……」


「二日後、討伐を開始します。つきましては、メンバーの顔合わせを行いたいと思いますので、明日の正午、そちらに迎えを向かわせます」

「かなり大人数に?」

「いえ、回収班を合わせるとそれなりですが……、パーティー自体は少数精鋭で行く予定です」

「あの、一人連れて行きたい人がいるんですが」

「……失礼ですが、そのような方でしょうか?」

「回収専門の召喚師です、戦闘には参加しません」

「召喚師ですか……わかりました。万が一、その方が情報を漏らした場合、一切の責任は瀬名さんに取っていただきますが……宜しいですか?」


「はい、俺が責任を取ります」

「いいでしょう。ウチの回収班で調整します。それでは明日の正午、お待ちしております」


 ――通話が切れる。


 俺は続けて電話を掛けた。

「あ、もしもし、石丸さん? ちょっと相談があるんですが……」


 *


 金曜会が寄越したハイヤーの後部座席で、

「ホントに俺なんかが良いのか……?」

 と、何故か七三分けでジャケットを着た石丸さんが俺に耳打ちする。


「大丈夫ですよ、何かあっても俺が責任とりますから」

「それにしても……胡散臭ぇよな。だってよぉ、レベルSは管理局案件だぜ?」

「僕もそれは不思議に思って、監視課の人に聞いてみたんです。そしたら、レベルSの反応が出ない限りは、通常の扱いになるって言ってました」


広域魔素検知システム(カナリア)か……、まあ、偉いさんの考えることはわかんねぇな。それより、本当に俺が魔石を回収して良いんだよな?」

「はい、好きなだけ回収しちゃってください」


「へへへ……レベルSダンジョンの魔石を回収できるチャンスなんて一生無いと思ってたからなぁ~、腕が鳴るぜ!」

 石丸さんが鼻息を荒くする。


「頼りにしてますよ」

「おうよ! でも、約束通り……、危なくなったら帰還石で逃げるからな?」

「はい、その時はこの人に連絡を」

「ああ、電話で言ってた人か、OK任せとけ」


 俺は監視課の斑鳩課長の名刺を渡した。

 石丸さんには、俺の命綱になってもらう。

 万が一、俺に何かあった場合と、桐谷が何かしてきた場合に備えてだ。


 車は東名高速を走り、神奈川を抜けた。

 一時間近く移動を続け、静岡県の御殿場市に入る。


 今頃、リディアは仕事かな……。

『討伐から戻ったら、連絡するね』

 メッセージを送り、スマホをポケットに仕舞う。


「静岡だぞ……」

「かなり来ましたね」


 その時、助手席の男が振り返った。

「あと十分ほどで到着いたします」

「あ、はい」


 車が山の中に入って行く。

 針葉樹が続く曲がりくねった山道を進むと、突然開けた場所に出た。


 車が止まり、男達がドアを開けてくれる。

 俺と石丸さんが外に出ると、焼き杉の塀に囲まれた風情のある建物が見えた。


「お疲れ様でした、こちらが本日お泊まりいただく山月荘です」


「かぁ~……すげぇな」

「老舗って感じですよねぇ……旅行雑誌でしか見たことないですよ」


 入り口では、和服を着た綺麗な女中達が一列に並んで出迎えてくれた。

 何となく気恥ずかしくなって、「どうも……」などと言いつつ、足早に前を通り過ぎる。

 中に入ると『飛竜の間』と書かれた札が掛かった広間に通された。


「ほぇ~、山の中にこんな豪華な旅館があるとはなぁ~」

「めちゃ広いですね……」


 広間には三列×三列、全部で9つのテーブル、椅子はそれぞれに4脚ずつ置かれていた。

 既に何人かの先客がいて、入って来た俺達を見た。


「瀬名さま、石丸さまはこちらにどうぞ」

 右端の前から二番目のテーブルに案内された。


 席に着くと向かい側に座っていた男が、チッと舌打ちをした。

「おいおい、いつからここは召喚師如きに席を用意するようになったんだ?」


 高そうなスーツ、腕には高級時計、髪は左側だけ刈り上げ、右半分は整髪料で後ろに流している。テンプレみたいな不動産系成金ファッション。

 見るからに面倒くさそうだ。


「……」

 石丸さんが目で相手にするなと俺に合図する。


「誰が無視して良いと言った? はっ、しかも二人揃って召喚師かよ……」

 男の右眼が白く輝いていた。

 

 鑑定? いや、霊視か……?


「瀬名さーんっ! うわー、またお会いできて嬉しいですっ!」

「え?」


 振り返ると、以前一緒になったCREDIT(クレディ・) WISE(ワイズ)の小鳥遊が、満面の笑みを浮かべながら駆け寄って来た。


「小鳥遊……くん?」

「覚えててくれたんですね! うわ~感激です! あの時は本当にお世話になりました! あ、前みたいに呼び捨てで大丈夫ですよ?」


 そう言って小鳥遊が俺の隣に座る。


「へぇ……お前が瀬名か……聞いてた話と違うな」

 不動産成金が思わせぶりに呟く。

 何を言いたいんだコイツは……無視だ無視。


「小鳥遊も参加するんだ?」

「はい! 鵜九森からも頑張って来いって言われてますので!」


 鵜九森……あの爺さんだよな。

 呼び捨てなのか?


「ひぃっ⁉ な、何だ、お前……」


 突然席を立つ不動産成金。

 狼狽えながら、俺を指さす。


「やだなぁ……何ですかねこの人は……」

 小鳥遊が席を立ち、手を上げて金曜会のメンバーを呼ぶ。


「どうかなさいましたか?」

 慌てて走ってきた黒服に、

「この人具合が悪いみたいですので、休ませてあげてください」と小鳥遊が言った。


「ば、バケもんだ! に、人間じゃねぇ……何でわからねぇんだ!」

 意味不明な事を叫ぶ不動産成金が、黒服に両腕を掴まれ運ばれていく。


「ひ、ひどい……」

「大丈夫、気にすんなって」

 石丸さんがフォローしてくれる。


「僕の予想ですが、多分あの人は回復術師(ヒーラー)ですね。大方、瀬名さんを霊視したんでしょうけど、レベル差がありすぎたので驚いただけですよ」


「そ、そうかな……だと良いんだけど」


 次第に席が埋まっていく。

 八割方埋まったところで、広間に桐谷が入って来た。

 藍莉も一緒だ。


 正面のステージに桐谷が立つ。

 藍莉は俯いたまま、少し離れた場所に座った。


「えー、金曜会、青年部の桐谷です。本日はお集まりいただき感謝いたします。皆様もご存知の通り、明日、予てより計画していた討伐を決行いたします。つきましては本日、顔合わせとしまして、誠にささやかではございますが、この場をご用意いたしました。ぜひ、明日に向けて英気を養っていただければと思います。それではごゆっくりお楽しみください」


 挨拶が終わると、黒服達の拍手が鳴り響いた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こうなると頑張れ石丸さんと言いたくなってしまう。 これからろくでもない現場になると予想しますが
[一言] 政治の話が増えてきてつまらない感じ その手の引力斥力を楽しむには構成不足 (一気に逓増されて終わるだけの情報量しかないので)
[一言] 不動産成金のいうバケモノって、ふつうに小鳥遊のことなんだろうな……
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