ヒアリング
「ったく、このクソ忙しいのに、覚醒者登録なんて……こんな地味な仕事、新人にやらせろよ」
小声で毒づく男は、覚醒管理局の職員で名を鈴木と言う。
彼は元々エージェント志望で監視課を志望していたのだが、現在は総務課へ配属されていた。
上司には異動願いを提出しているが、一向に返事はない。
そろそろ人事の時期が近く、少しでも手柄を上げたいと思っていた矢先に、地味で、しかも外回りの登録仕事を振られて苛立っていた。
「ここか……」
さすが、覚醒者を受け入れるケアセンターだ。
とても病院とは思えないな。
高級マンションのような重厚な扉を、鈴木はノックした。
中から、若い女の看護師が顔を出した。
へぇ……、看護師のルックスも一流ってわけか。
「どうも、お世話になっております、覚醒管理局の鈴木と申しますが、瀬名様はいらっしゃいますでしょうか?」
「はい、少々お待ちください」
看護師が病室の中に向かって声を掛けた。
「瀬名さん、管理局の方がお見えです」
「あ、はーい」
奥から気の抜けた声が返ってくる。
雰囲気からして若そうだな……。
「では、どうぞお入りください」
「失礼いたします」
ホテルのような病室の中へ入った。
ソファに座る瀬名を見て、丁寧に頭を下げた後、鈴木は名刺を差し出した。
「覚醒管理局の鈴木と申します」
「どうも、瀬名です」
実際、瀬名は若かった。
モテるタイプだろう、芸能事務所に入ってそうな顔立ちだ。
瀬名にソファに座るよう促され、鈴木は看護師に目配せをした。
看護師は会釈をすると部屋を後にする。
「えっと……登録の件ですよね?」
「ああ、もうガイドをご覧いただいたんですね、ありがとうございます、では、早速ですが、こちらにご記入いただけますか?」
よし、さっさと済ませてしまおう。
鈴木は手早くタブレットを差し出した。
瀬名が名前や住所などを記入するのを眺める。
覚醒者項目は、既に病院の検査結果が反映されていた。
しかし可哀想に……折角覚醒しても召喚師じゃなぁ……。
「召喚師ってどうなんですかね?」
唐突に訊かれ、一瞬ドキッとする。
どうもクソも、召喚師なんて使えないハズレクラス。
今時の子なのに、ネットを見ていないのだろうか?
鈴木はクイッと眼鏡の位置を直した。
「どう、と言いますと?」
「んー、強くなれますかね?」
なれるわけねーじゃん……。
良くて高レベルパーティーの魔石拾いだろ。
鈴木は内心で毒づきながら、
「……そうですねぇ、こればっかりは人によるとしか言いようがないんです。というのも、取得するスキルには個人差がありますので」と無難に答えた。
「そっか、そうですよねぇ……」
「何か不安な事でも?」
「いや、最初は魔素ルームでトレーニングしないといけないかなぁって思ってるんですが……、そうすると……俺、討伐で稼げばいいやって思ってたんで、通うお金が無くて……」
「あぁ、なるほど、それでしたら、準備金の貸付制度があります。あと、管理局公認の魔素ルームを使っていただければ、そちらの使用料は後納できますので」
まあ、トレーニングなんてするだけ無駄だとは思うが……。
「ほんとですかっ⁉ いやぁー、これでレベル上げが出来そうです!」
「では、準備金は1000万で如何でしょう?」
「いっ⁉ いっせんまん⁉」
瀬名は目を大きく見開いた。
まあ、最初は驚いて当然か……。
「ええ、装備もお持ちでないようですし、そのくらいは必要になるかと思います」
召喚師の装備なんてたかが知れてるが、無いよりはマシだろう。
「は、はあ……」
「一般的な感覚とかなり差がありますからね、最初は戸惑われるかも知れませんが、このくらいの金額なら、すぐにご返済できますのでご安心ください」
そう言って、鈴木は事務的な笑みを浮かべた。
「あ、そうなんですね……、いや、ちょっと驚いちゃって」
「初めはみなさんそうですよ、ゆっくり慣れていけば大丈夫ですから」
この先、彼を取り巻く境遇を考えると……、同情しなくもない。
それでも、一般人と比べれば、破格の収入が得られるのだ、割り切るしかないだろう。
「ありがとうございます」
「では、登録証は郵送になります。管理局のアプリをダウンロードしていただくと、登録証を持ち歩く必要がなくなりますのでご利用ください、以上で登録は終了になります」
鈴木は席を立ち、爽やかな笑みを浮かべた。
「では、何かありましたら何時でもご連絡下さい。本日はお時間をいただき、ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございました」
鈴木は深くお辞儀をすると、振り返る事なく病室を後にした。