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世界最強の憑魔術師に覚醒したので第二の人生を楽しみます!  作者: 雉子鳥幸太郎
一章

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63/91

初めから決まっていた

 まるで、サスペンスドラマに出て来そうな洋館だった。

 ガチのメイド服を着たお手伝いさん達が、両脇にずらりと並び頭を下げている。

 俺は藍莉の後に隠れるようにくっついて中に入った。


 ひぇ~、何だよこの上流階級感は……。

 何たら財閥とか、旧ほにゃらら邸とか呼ばれてそうな雰囲気だ。


 玄関なんて、俺の住んでるアパートよりも広い……。

 高い天井には、ダマスク柄の美しい模様が描かれていた。


「こっち、こっち」

 藍莉がスタスタと進む後をついていくと、広い応接間に通された。


「失礼します……」


 中に入ると、スーツ姿の若い男が立っていた。

 まるで人工物のように整った顔立ち……、色白で中性的だが、全然弱そうには見えない。

 涼しげな目の奥には、爛々と燃え盛る()()があるように感じた。


「私、金曜会青年部の部長を務めております、桐谷 茉秋(きりたに ましゅう)と申します。本日はわざわざお呼び立てして申し訳ありませんでした。さ、どうぞ、お掛けになってください」

 桐谷が応接ソファに手を向ける。

「は、はあ……」


 恐る恐るソファに腰を下ろす。

 俺の隣に何故か藍莉が座り、向かい側に桐谷が座った。

 部屋の隅に立っていたメイドが、ティーセットのワゴンを静かに押してくる。


「紅茶は大丈夫でしょうか?」

「あ、いえ……お構いなく……」


 人数分の紅茶を音も立てずに用意すると、メイドは静かに部屋を後にした。


「さて……、恐らく藍莉の事ですから、説明不足でさぞ不安に思われていることでしょう」


 全く持ってその通りだ。

 討伐とか何とか言ってたが、これだけのクランなら俺なんか必要ないだろうに……。


「酷いよ、兄貴はボクの事を誤解してるんだ、ねぇ瀬名っち、言ってやってくんなーい?」

 藍莉は俺の肩に頭を乗せ、甘えたように言ってくる。


「藍莉、止めなさい。瀬名さんが困っているだろう」

「ちぇー、わかったよぉ……」

 しゅんとなった藍莉は少し離れて、紅茶を飲み始めた。


「すみません、瀬名さん。悪気は無いので許してやって下さい」

「あ、いえ……別に」

「ありがとうございます、実は瀬名さんをお呼びしたのは……、討伐に関して、ぜひ協力をお願いできないかと思いまして」

「それは藍莉……さんからも聞きましたが、お断りします」

 桐谷は「なるほど……」と呟き、藍莉を一瞥する。


「藍莉、少し席を外してくれないか?」

「えー、なんでわ……」

「二度言わせるな」

「あ、し、失礼しました」

 藍莉は顔色を変えて、俺に頭を下げると慌てて部屋を出て行った。


 扉が閉まったのを見届けた後、桐谷は紅茶に口を付け、「うん、美味しい」と頷く。

 そして、カップをテーブルに置き、俺に微笑みかける。


「協力できない理由をお聞かせいただいても?」


 ――ゾクッと側頭部に寒気が走る。

 視線で頭を貫かれたような気がした。


「ていうか……なぜ俺なんですか? 金曜会って、国内一位とか言われてるクランですよね? 俺が手伝う必要なんてあります?」

「そうですか、安心しました」

 桐谷がニコッと笑う。

「納得がいけば考えていただけるということですよね?」

「ま、まぁ……、あと、犯罪でなければですが」


「それはありません、ウチは至って遵法的な組織ですよ。それに……もし、違法な手段が必要になれば、法そのものを変えてしまえばいいと思いますが?」

「え……」

 桐谷の顔は本気だった。

 そんなマンガみたいな事が本当に可能なんだろうか……。

 覚醒者産業で世の中が回っているとはいえ、人類の大半は未だ非覚醒者なわけで……そんな無茶が通れば、非覚醒者側から強い反発がありそうなもんだが。


「ははは、冗談ですよ。まあ、我々が信用できない気持ちは理解できます。ですので……、ちょっとした『手土産』を用意させていただきました」

「手土産?」

 桐谷は腕時計に目を向ける。

「ええ、そろそろのはずです」


 ――その時、俺のスマホが震えた。

 画面にはリディアの文字が表示されている。


「どうぞ」と、桐谷が手を向けた。

 俺は通話をタップする。


「はい……」

「ユキト⁉ ね、ね、いま大丈夫⁉」

 何だ? 異様にテンションが高いが……。


「あ、うん、どうしたの?」

「へっへーん、驚かないでよ? あの、D.Joan(ダン・ジョーン)からね、専属モデルにならないかってオファーがきたのよ!」

「D.Joan?」

「え゛……し、知らないの? ほら、超大手企業が運営してる……、母体は金曜会なんだけど、とにかく超一流のハイブランドなの!」

 き、金曜会……⁉

 俺は桐谷の顔をちらりと見た。何食わぬ顔で紅茶を飲んでいる。


「そ、そうなんだ、凄いじゃん!」

「もう、最っ高~の気分っ! やっとここまで来たーって感じ!」

「そうか……」

「あ、週末に少し時間が空くんだけど……ごはんでもどうかな?」

「あ、あぁ、いいね! うん、いいよ、食べよう食べよう!」

「ふふ、じゃあ、これからまた打ち合わせあるから、また連絡するねー、ばいばい」

「あ、うん、また――」


 通話を切り、俺は桐谷を見た。


「どういうことですか?」

「おわかりいただけたようで……」


「リディアに嘘の依頼を?」

「いえいえ、嘘だなんてとんでもない、正真正銘、本物の依頼ですよ……今はね」


 悠然と足を組み直し、桐谷が微笑む。

 だが、その瞳は何処までも暗く――何も見えない。


「も、もし、俺が討伐を断れば……どうなる?」

「さあ? ただ、例え断ったとしても……、貴方が首を縦に振るまで、同じような事が続くかも知れませんね」

「な……⁉」


 こいつ、最初から交渉する気なんて無いんだ……。


 どうしよう? ここで断れば、恐らくリディアの仕事は無くなる。

 それに……もしかすると、圧力を掛けて他の仕事にまで影響が出るかも知れない。

 駄目だ、俺のせいでそんなことになれば……。

 正直に話してみる……いや、馬鹿正直に話して納得してもらったとして、その後に何が残る? リディアの夢は戻らない……結局、泣くのはリディアだ。


「討伐は……一回だけですか?」

「お約束しましょう、一回だけで結構です」

 桐谷は人差し指を立てた。


 クソッ……この人を人と思わないような態度、気にくわねぇ……。


「わかりました、その代わり……今後、リディアや俺の周りに何か影響があるようなら……たとえ刺し違えても、お前を潰す!」

「……結構、話は決まりですね。ああ、言い忘れていました、今回の討伐はレベルSになります。そのおつもりで」

「ちょ⁉ れ……、レベルS⁉」


 狼狽える俺を無視して、桐谷が「お帰りだ」と扉に向かって声を掛けた。

 静かに扉が開き、メイドと藍莉が入ってくる。


「藍莉、瀬名さんを送って差し上げなさい」

「あ、はい……」

 藍莉は俺の顔色を窺う。

「瀬名くん……、大丈夫?」

「え……あ、う、うん……大丈夫だよ」

 俺は作り笑顔で答えた。


「じゃあ兄貴、送ってくるから……」

 桐谷に目を向けることなく、俺は藍莉と部屋を後にした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] リディアのことを当然として案じてくれてよかった。 これが憑魔状態だと一回飲む前にまず潰すになっていたのでしょうかね
[一言] よし、潰そう♪
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