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世界最強の憑魔術師に覚醒したので第二の人生を楽しみます!  作者: 雉子鳥幸太郎
一章

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60/91

壊し屋

「ぶふっ‼ に……2000まんえん……⁉」


 俺は口座残高に並んだ数字を見て茶を吹き出した。

 慌ててテーブルを拭きながら、スマホの画面を見直す。


 何度ログインし直しても、口座の残高に変化はなかった。

 おいおい……マジで入ってるよ……。


 これ、管理局に借りた金、全額返してもお釣りが来るぞ⁉

 先に全部返しておくかな……?


 それよりも、何でこんなに貰えたんだろう?

 討伐の配分明細を見ると、2000万の大半は魔石による報酬だった。

 どうやら、黒蟹が蓄えていた魔石の量が桁違いだったらしい……。

 この分だと、石丸さんも今頃ホクホクかも知れないな。


 その時、テレビのニュースが耳に入った。


『――速報です、昨日未明、足立区に発生しておりました突発型綾瀬ポータル第311号内で、討伐権利者であるMERRILL(メリル・) TRIAD(トライアド)のメンバーに対し、外資系クラン、GUILTY(ギルティ・) ROCK(ロック・) BROTHERs(ブラザーズ)のメンバーによる襲撃事件が起きました』


「え⁉ 黒田のとこじゃん……」


『これに対しメリルトライアド、ギルティロックブラザーズからのアナウンスは無く、現在双方が沈黙を守っている状態です……えー、中継が繋がっております、田島さん、聞こえますでしょうか?』


 中継に画面が切り替わった。

 マイクを持ったリポーターがイヤホンに手を当てながら答える。


『はい、田島です。えー、現在ですね、こちら外資系クランの中でも長年上位にあるメリルトライアドの日本支部に来ています、ご覧いただけますでしょうか、こちらとても立派な、こう洗練されたと言いますか、非常に硬質なイメージを感じさせる建物となっています、あ! 今、誰か出て来ましたね、話を伺ってみます!』


 リポーターが二人組の男に駆け寄る。

 一人は外国人で、リポーターが子供に思えるほど大きい。まるで熊だ。

 その隣には――く、黒田⁉ ま、間違いない、黒田だ……。

 知り合いがテレビに映っているのは、何とも不思議な気持ちだな。


『すみません、毎日放送の田島と申します、少しお話を宜しいでしょうか!』


 金髪の大男が面白いものでも見つけたように、カメラを覗き込む。


『あ、あの、お二人はメリルトライアドの方でしょうか?』

『ああ、そうだ』


 大男はカメラに向かって変顔をしたり、キメ顔をしたりしながら答える。


『ちょ、スナイダーさん、止めてくださいよ……』

 映ってはいないが、黒田の声が聞こえた。

『おい、これ、ニューヨークでも放送されてるのか?』

『そんなわけないでしょうが! はやく行きますよ!』

 黒田がスナイダーという大男を引っ張っているがビクともしない。


『あの、昨日ポータルで何が起きたんでしょうか? 一部報道ではクラン同士の抗争という情報も流れておりますが?』


 今までふざけていたスナイダーが、急に真顔になった。


『おい、クロ、あいつらもこれ見てるか?』

『え、まぁ……多分』


 黒田が答えると、スナイダーがカメラに顔を近づける。


『よぉ、見てるか負け犬ども? わざわざ、この俺が来てやったんだ、もっと楽しませろよ? You know what I mean?』

 高笑いするスナイダーのアップから、突然画面がスタジオに切り替わった。

『次行って、次!』とスタッフの声が聞こえる。

『えー、ちょっと……繋がらないようですので、中継は以上となります。続いては多目的トイ……』


 何か大変なことになってるな……。

 ま、俺には関係ないか。


 *


「それで、何の成果も得られなかったと……?」

 課長室に斑鳩の声が響いた。


「はい、申し訳ありません」

「も、申し訳ありません!」

 乾が頭を下げると、隣の近藤も慌てて頭を下げた。


 ふぅーっと煙を吐き出し、煙草を灰皿で揉み消す。

「まぁ、仕方ない、時間を置いてまた交渉することにしよう。ところで、ニュースは見ているな?」

「足立区の件ですか?」

「そうだ、小競り合いなら目を瞑るが、今回、メリルはニューヨーク支部からA級覚醒者を呼んでいる。名はブレイク・スナイダー、MERRILL TRIAD NY支部所属、通称――壊し屋(ブレイカー)、重力を操る固有スキルを持っている。A級ではあるが、能力的にはS級と比べても何ら遜色がない」


「え……なら、どうしてA級なんですか?」

 近藤が不思議顔で訊ねた。


「近藤、お前……NYに行ったことは?」

「いえ、ありません」


「管理局が認定する『級』は国際基準に則っている。だが、この基準は国によって大きく異なることがある。国内でも国際基準という目安はあるが、最終的な判断は我々が協議によって決めている。だが、米国ではRating Agency――、覚醒者を格付けする機関が三社あってな、全てはその機関によって決定されるんだ」


「格付け……それがスナイダーがA級であるのと、どう関係があるんですか?」

「ブレイク・スナイダーは異名通り、()()()のさ」

 ふふっと斑鳩が笑った。


「え?」

「気に入らないと言って、格付け機関でも最大手のAppraisal(アプレイザル)&Monolith(&モノリス)に単身乗り込み、会社ごと破壊したんだ……クックック、それでスナイダーは彼等の怒りを買ったのさ。向こうじゃS級とA級では待遇に天と地の差があるからね」


 斑鳩は楽しそうに笑いながら、新しい煙草に火を点けた。


「それで良く捕まりませんね……」

「S級だからだ」と、横から乾が言った。

「そう、日本と違って米国は覚醒者主義だ。力こそ正義、わかりやすい国だよ、まったく……」

「そんな危険人物、放っておいて大丈夫なんすか⁉」

 乾がニヤッと笑う。

「だから俺達が監視するんだろ?」

「え……嘘ですよね? そんな無茶な……こ……と」


 斑鳩と乾は、真顔で近藤を見つめた。


「わ……わかりました」


 乾が泣きそうになっている近藤の頭を乱暴に撫で、

「ほら、行くぞ」と、課長室を後にする。

「は、はい!」


 近藤は慌てて車の鍵をポケットから取り出し、

「失礼しました!」と斑鳩に頭を下げ、乾の後を追った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おー、国外の事情も興味深い。 米国のドリームは覚醒者のことになってしまったようで。 大統領にもなれそうかも
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