病室にて
日南さんに案内された部屋は、とても病室とは思えなかった。
その辺のホテルどころか、高級ホテルにも負けないくらいだ。
広い、二十畳は楽にある。
まず目に入るのは、正面の壁一面に配された薄いベージュのカーテン。
床は高級感漂うグレータイルの上に、これまた高そうなカーペットが敷かれている。
右手に、大きなソファセット、左手にはダブルサイズのベッドが置かれ、背の高い観葉植物や、油絵、雑誌で見た事のあるフランクロイドライトの間接照明がバランス良く配置されていた。
「すごい部屋ですね……」
「なんたって、覚醒者様専用のお部屋ですからね」
日南さんがどこか得意げな表情で壁のボタンを押すと、自動でカーテンが開いた。
「凄いですね……。ここは、一般の病室とは違うんですか?」
「はい、何とお値段10倍でーす!」
と、両手を広げて見せた。
「じゅ、10倍⁉」
「あ、そっか。瀬名さんは覚醒したばかりですもんね、大丈夫です、そのうち金銭感覚も麻痺してきますから」
そう言ってニコッと笑うと、急に姿勢を正した。
「改めまして、私、瀬名さんを担当します、日南です。短い間ですが、どうぞよろしくお願いします」
「あ、ご丁寧にどうも……よろしくお願いします」
お互いにお辞儀をした後、日南さんがタブレットをモダンな机の上に置く。
「この中に、覚醒管理局のガイドラインがありますので、目を通しておくと良いと思いますよ」
「わかりました」
「後は何かありましたら、ナースコールがこちらと、こちらに」
日南さんがベッドと入り口の壁を手で示す。
「それでは、三日間よろしくお願いします!」
ペコリとお辞儀をすると、日南さんは病室を後にした。
「ふぅ……」
俺は大きなソファに腰を下ろした。
いやぁ、とんでもない事になってきたぞ。
やっぱ覚醒者ってすげぇわ!
こんな立派な部屋を用意してくれるなんてなぁ……。
あ、でも金は自分で払うのか。
まぁ、コツコツ討伐とやらに参加してれば、金には困らないだろう。
簡易キッチンに行き、飲み物を探す。
おぉ、何でも揃ってる……。
戸棚にはコーヒー、紅茶、日本茶、ハーブティーが並んでいる。
冷蔵庫には、水やジュース類、炭酸やビールが数種類。
さらに冷蔵庫の横には、縦長のワインセラーまで……。
「はぁ~……、すげぇな」
俺はオレンジジュースを片手に、机に座った。
――まずは、覚醒者について知らないとな。
ネットやニュースで聞いた程度の情報は知っているが、それが本当かどうかは怪しいもんだし……。
タブレットの電源を入れ、覚醒管理局のアイコンをタップした。
ガイドを表示して、目を通していく。
えーっと、覚醒者は専用の口座を作るのか、ふーん、確定申告は必要なし、自動で規定の税金が差し引かれる……ってことは、国が年末調整してくれるイメージなのかな?
〈登録証が発行されれば、討伐に参加が可能となり、報酬は専用口座に即時反映されます〉
「なるほどね……ん?」
〈また、覚醒者は、年に最低3回の討伐参加義務が発生します〉
そうか、確かに金を稼いでそのまま何もしない奴とか出てきそうだ……。
〈討伐以外でのレベルアップについて〉
なになに……通常の筋力トレーニングや魔素ルームを使用する事により、レベルアップが可能です……ってマジかよ!
そうすると、ある程度の強さになるまでトレーニングをした方が良いよな?
よし、退院したら行ってみるか……。