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世界最強の憑魔術師に覚醒したので第二の人生を楽しみます!  作者: 雉子鳥幸太郎
一章

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金曜会

 ――足立区・突発型綾瀬ポータル第311号。

 レベルB迷宮型ダンジョンの中、GUILTY(ギルティ・) ROCK(ロック・) BROTHERs(ブラザーズ)15名、MERRILL(メリル・) TRIAD(トライアド)15名、総勢30名のメンバー達が、広いホールのような空間で対峙していた。


 ギルティロック側の最前には、耳、鼻、唇にピアスを開けた坊主頭の男が立っている。眉毛が無く、両腕にはトライバルタトゥー、爪には黒いマニキュアが塗られ、クチャクチャとガムを噛みながらメリル側のメンバー達を睨み付けていた。


「よう、ルードじゃねぇか、いい加減、|South Bronx《向こう》に帰ったのかと思ってたぜ」


 まるで懐かしい旧友にでも会ったような口ぶりで、メリル側に立つ大男が笑った。

 鮮やかなブロンドの長髪を後ろで一つに束ね、アロハシャツに白い短パン、ビーチサンダルを履いた男の姿には、一瞬ここがダンジョンの中という事を忘れそうになる。


「ったく、久しぶりにあったってのに、愛想のねぇ奴だな……」

「ス、スナイダーさん、あれ『狂犬ルード』ですよ! ヤ、ヤバくないですか?」


 スナイダーの影に隠れるように、辺りを窺っていた黒田が小声で話しかけると、いきなりスナイダーがヘッドロックを掛けた。

 冗談交じりに黒田の首を絞める巨体は、獰猛な大型肉食獣にも似た圧を周囲の覚醒者に感じさせていた。


「あぁ? てめえは、何ビビってんだ? 俺とあいつは、South Bronx時代からの腐れ縁なんだよ!」

「そ、そうなんすか……いてて」

 ヘッドロックを外すと、その様子を黙って見ていたルードが、ガムを吐き捨てる。

「おい、説明しろ、スナイダー、なぜお前が日本に居る? 戦争でも始める気か?」


「始める気かって……ウチの上はもう始めてる」

 スナイダーは肩を竦めて見せた。


「チッ! 変わらねぇな……その舐めくさった態度、虫唾が走る」

「ハーッハッハ⁉ 凄いじゃないか! 良くそんな難しい日本語を覚えたなぁ!」

「ちょ、スナイダーさん! 煽んないでくださいよ!」

「後悔するなよ……」

 ルードがカイザーナックルを嵌める。

「いいぜ? 来いよルード……お前とは決着(ケリ)つけねぇとなぁ?」


「――潰せ!」


 ルードの一声にギルティロックのメンバー達が襲い掛かってきた。


「ハーッハッハ! 行くぞお前ら!」


 スナイダーが嬉々として、襲い来る相手に向かって突進した。

 大きな手で相手の顔を乱暴に掴み、そのままルードの方に投げつける。 

 黒田は慌てて岩陰に身を隠した。


「ぐわっ⁉」

 ルードは男を受け止める。

「す、すみません! ルードさん!」

「どいてろ……」

 次の瞬間、ルードの右ボディがスナイダーの腹を抉った。


「がはっ……⁉」


 スナイダーが一瞬よろけそうになりながら、

「なーんてね」と、ルードの腕を掴む。


「掴まえたぜ?」

『――超重力圏(グラビティ)!』


 スナイダーの目が金色に輝くと同時に、周囲の空間が歪んだ。


「ぬぐっ……⁉」


 ルードの足が地面に埋まる。


「さぁ……ルード、我慢比べといこうか?」


 惜しげも無く固有スキルを発動するスナイダーを見て、一人頭を抱える黒田。


「おいおいおい……マジかよ……討伐責任者、俺なんだけど……」


 ニューヨーク支社から移籍してきた固有スキル保有者を止める術など、黒田には持ち合わせていなかった。


 *


 千代田区永田町にある憲政記念公園――。

 立法・行政・司法の三権分立を象徴した『三面塔星型時計塔』があることで有名なこの場所に、およそ一般人が知り得ないエリアがあった。


 衛星写真データからも削除されたその場所は、限られた人物だけが足を踏み入れることを許された、言わば禁足地である。


 その地に建つのは、旧岩崎邸を思わせるコロニアル様式の西洋館。

 そこで国内クランの頂点に君臨する『金曜会』の定例会が行われようとしていた。


 精悍な顔つきの青年が、広間に入っていくる男達に頭を下げた。

 男達は高級スーツを身に纏い、一見すると、どこかの会社の重役に見える。


 大きな一枚板の机にコの字に配置された椅子に全員が腰を下ろし、口を閉じたまま、上座に座る最高権力者を待っていた。


 青年が一言、

「お見えになりました」と言うと、全員が立ち上がり深く頭を下げる。


 ゆっくりと上座に座る小柄な老人。

 この虫も殺さぬような老人が、金曜会の頂点――出雲(いずも) 国光(くにみつ)その人であった。


 出雲が手を向けると、全員が席につく。

 青年が出雲の脇に立ち、良く通る声で言った。


「これより、定例会を始めます。まずは会長に近況のご報告を」


 時計回りに一人ずつ席を立ち、派閥ごとの成果を報告する。

 その表情は強ばり、広間には異様な緊張感が張り詰めていた。


 一通り近況報告が終わると、目を閉じて聞いていた出雲が目を開いた。

 白目は黒く、虹彩は金色に輝いている。


「つい先日……久しぶりに幢乱(どうらん)の声を聞いた。何年ぶりかのぉ……」


 その(しわが)れた声は、まるで耳の中で囁かれているようだった。


「……桐谷」

 出雲が傍らに立つ青年に言う。

「は、では私からご説明させて頂きます」

 桐谷はそう言って、深く一礼した。


「先日、会長宛にCREDIT(クレディ・) WISE(ワイズ)鵜九森(うくもり)様よりご連絡が御座いました。皆様も知っての通り、我が金曜会とCREDIT WISEの関係は古くに遡ります。公式な契約こそ無いものの、長年に渡り協力関係を築いてきたと言っていいでしょう」


 そう前置いて、桐谷が机の中央に手を向けると、ホログラムの地図が浮かび上がった。

 地図には赤い光点が示されている。


「鵜九森様よりご提供頂いた情報は、レベルSポータル発生の可能性についてです」

「レベルS……」

「場所は剣ヶ峯か……」

 集まった幹部達から言葉が漏れる。


「仮に、レベルS発生となれば、管理局の介入は免れません。――ですが、レベルSの定義は流動的です。管理局側が調査に乗り出す前に、レベルAポータルとして入札を済ませ、我々金曜会とCREDIT WISEが合同討伐を行えば……、恐らくバブル期を上回る利益を得る事ができます。もちろん、調査部へ多少の圧力を掛ける必要はありますが、その点は問題ないかと」


 幹部の一人から声が上がる。

「合同で討伐するのは構わん、だが、レベルSとなると……白賢人(はくけんじん)は参加されるのか?」

「いえ、残念ながら今回、鵜九森様は不参加と伺っております」

「そうなると、ウチのS級は君と藍莉君だけだ。もちろん、君達の実力は承知しているが不安が残る……」

「ええ、仰る通りで御座います。そこで、鵜九森様よりご提案が御座いました」

「提案……?」

「はい、現在CREDIT WISEに、スイス本国より帰国された次期総統候補の青年がいらっしゃるそうです。こちらの青年を、自分の代わりとして使ってくれとのことでした」

「次期総統⁉ その者もS級なのか?」

「こちら調査を行ったところ、管理局による認定はされておりません」

「……大丈夫なのか? レベルSポータルだぞ?」

「そうだ、必要以上のリスクは足元を掬われるぞ⁉」


 桐谷は静かに頷き、続けた。


「また、この提案を受け入れた場合、CREDIT WISEは、当該ポータルで得られる全アイテム及び、魔石配分権利の放棄をするそうです」


 幹部の数人が立ち上がる。


「ま、まさか⁉」

「信じられんが……」


 桐谷は否定も肯定もせずに続けた。


「そしてこの提案は、九人目のS級覚醒者――、瀬名 透人の参加を前提条件とする、と申されております」

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― 新着の感想 ―
[良い点] さぁどんどん人生楽しめるか分からない状況が追い立ててくる。 読者は楽しいです!
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