討伐終了 後編
黒蟹の死骸から魔石を回収していた石丸さんが驚きの声を上げる。
「おぉーい! 見てくれよ! こいつ腹に魔石をしこたま貯めてやがったぜ!」
小躍りしながら、両手に魔石を持って浮かれている。
俺は石丸さんに手を振って応えた。
さて、問題はこいつらか――。
目の前には、後ろ手に拘束された斉藤達が並んで正座している。
「どうしたものかな……」
森山さんが呟き、困った顔で頭を掻く。
その様子を俺と小鳥遊、そして、CREDIT WISEの鵜九森という爺さんが見守っていた。
「僕にも責任があります……本当にすみませんでした」
小鳥遊が頭を下げる。
何でも、斉藤達に脅されて、睡眠薬入りのポーションを配ってしまったという。
その後、隙を見て逃げ出し、自分のクランに助けを求めたというわけだ。
そして来たのが、この白髪の老人……。
CREDIT WISEの白賢人こと、鵜九森 幢乱。
かつて、たった一人でレベルAポータルを制圧した、国内最初のS級覚醒者にして、国内唯一の希少クラス『賢者』に覚醒した男……。
とても信じられないような話だが……、鵜九森を取り巻く膨大な魔素が全てを物語っていた。
そんな男が何の躊躇いも無く、俺と森山さんに向かって頭を下げた。
「私からも謝罪する、どうか許してくれないだろうか……」
「いやいや、困りますよ鵜九森さん! あの、頭を上げてください!」
「俺は別に気にしてないよ……、悪いのはこいつらだし」
三人がビクッと肩を震わせた。
「そうだ、良かったらこいつらの処分は俺に任せてくれない?」
そう言うと、森山さんが心配そうな顔をして俺を見た。
「せ、瀬名くん、その……万が一彼等が死ぬと君が罪に問われる可能性が……」
「ああ、それならウチで良い薬を用意しよう。跡形も無く溶かしてしまえば、行方不明で通せる。五分も掛からない」
鵜九森の爺さんがさらっと怖いことを言う。
斉藤達は、顔を真っ青にして震え上がった。
「まあ、流石に殺すのは問題があるでしょうし、それよりも心を折って、二度とこんなことする気が起こらないようにしますよ。あ、小鳥遊くん手伝ってくれるかな?」
「え⁉ ぼ、僕でしょうか?」
少女のような顔で小鳥遊が目を丸くした。
「うん、大丈夫、俺が合図したら、横で治癒掛けてくれるだけでいい」
「わ、わかりました……」
「じゃあ、まずお前からだよな?」
俺は斉藤の前に立ち、顔面を蹴り上げた。
「グフッ⁉」
斉藤は顔を押さえて地面を転がっている。
「痛いよな?」
次に右の太ももに足を乗せ、そのまま踏み抜いた。
ボグッ! という鈍い音が響く。
「ぐああぁっ⁉」
続いて左足、両手も同じように踏み砕いた。
「あがぁああーーーーっ!!!」
「はい、治癒して」
「は、はい!」
『――治癒!』
へぇ、やっぱりこの子は有望なんだな。
一瞬で斉藤の怪我が治ってしまった。
あんなヤバい爺さんが、直々に救助に来るほど期待してるってことかな?
「よーし、もう一回」
斉藤の顔が恐怖に歪んだ。
「ひ……た、助けて……た、助けてください……」
「へぇ、お前、敬語使えたんだな? もうちょっと早く使ってればねぇ……残念」
「な、何でもする! 何でもしますから!」
縋り付く斉藤の肩に足を掛け、一気に踏み抜く。
「うぎゃあああ!!! く、くそぉ! くそがぁあああーーー!!! ぶっ殺してやるーー!!」
歪んだ肩を押さえながら、地面をのたうち回った。
「ほら、やっぱ、お前の根っこは腐ってんなー。ちょっと黙ってろ」
俺は下顎を踏み抜く。
グシャッという音が響いた。
「ひゅ……かっ……かはっ……」
「小鳥遊、治癒だ」
「は、はい……」
『――治癒!』
潰れていた下顎が治る。
肩も正常な位置に戻っていた。
はぁ~、すげぇなこいつの治癒……。
リディア以上だ。
俺はしゃがみ込み、斉藤の目を覗いた。
「お前が折れるまで、何があってもやめねぇからな?」
「ひ……」
斉藤の目に絶望の色が浮かんだ。
*
「次は西島……お前だ。何の罪もない森山さんに、あろうことか魔法で火を点けるなんてな……って、もう聞こえてねぇか?」
「ひゃ、ひゃひ! やひゃひゃひゃーーー!!!!」
完全にぶっ壊れているようだ。
だが、そんなことは関係ない。
「どうせ地獄に落ちたら焼かれるんだし、先に俺が焼いてやるよ」
気が触れたように笑い続ける西島に向かって手を翳した。
『――黒炎弾!』
「ひきゃあああーーーーーー!!!!」
黒炎が噴き上がり、西島を包み込んだ。
「どうだ? 同じ獄界の炎だぞ?」
見る見るうちに西島の肌が黒ずんでいく。
「小鳥遊、頼む」
「はい!」
『――治癒!』
緑色の燐光が西島を包み、傷を癒やしていく。
『――黒炎弾!』
「あぎゃああああああーーーーーっ!!!」
『――治癒!』
『――黒炎弾!』
『――治癒!』
……。
*
立てなくなった二人をおいて、さっきまで隅で震えていた磯崎を見ると、既に気を失っていた。
「参ったな、小鳥遊、治癒で……」
「せ、瀬名くん……もうその辺で許してあげようよ……」
森山さんが俺の顔色を窺うように言ってきた。
焦げ跡が残る軽鎧が生々しいが、髪や肌の火傷は綺麗に治っている。
ちょっとやりすぎたかな……完全に引かれてる。
相当苛ついていたせいで、ノリノリになってしまった感も……。
「まあ、森山さんが言うなら僕は構いませんよ」
と答えると、静かに見ていた鵜九森が口を開く。
「これだけやれば、いくら馬鹿でも懲りただろう……お前達、瀬名くんに感謝したまえ、私なら治癒など掛けん」
この爺さんも、相当ヤバい匂いがするな……。
森山さんが顔を引き攣らせながら、
「で、では、この件はこれで終わりにしましょう。皆さん、本当にありがとうございました」と、丁寧に頭を下げた。
「後処理は私の方でやりますので、皆さんは先に上がっていただいて結構です」
「そっか、じゃあお言葉に甘えて帰るかな。お二人もお疲れさまでした」
俺は小鳥遊と鵜九森に軽く頭を下げる。
「瀬名くん、借りができたな……また今度ゆっくり話でもしよう」
まるで感情が読めない鵜九森の瞳に、一瞬ゾクっと冷たいものを感じた。
……憑魔した俺が寒気を?
クックック……面白れぇ、とんでもない爺さんだ。
「ええ、また機会があれば」
「あ、あの……ほ、本当にご迷惑をお掛けしました! 脅されたとはいえ、取り返しの付かないことを……本当にすみませんでした!」
小鳥遊が肩を震わせながら、深く頭を下げる。
「いいって、じゃ、またな」
その場を離れ、俺は魔石を山ほど背負ってホクホク顔の石丸さんに声を掛ける。
「石丸さーん! 一緒に出ませんか?」
「お、おぉ! 見てたぞ、瀬名くん強いんだなぁ……いやぁ、驚いたぜS級だなんてよぉ……」
「あはは……まあ、隠してたわけじゃないんですけどね」
「それより、見てくれよこの魔石! どうだ、すんげぇだろ? 俺が一番回収したからな、取り分もデカいはずさ。今月は肩身が狭かったからな~、あいつにギャフンと言わせてやるぜ……あ、あいつってのは、さっき言ってたクランの奴で……」
よく喋るなぁ……思わずクスッと笑ってしまう。
石丸さんは、出会ったときと変わらない。
それが、何とも心地よかった。




