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世界最強の憑魔術師に覚醒したので第二の人生を楽しみます!  作者: 雉子鳥幸太郎
一章

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討伐終了 前編

 俺は真っ直ぐに斉藤達の元へ向かった。


 ――心底、ああいう奴らが嫌いだ。

 傍若無人に振る舞い、自分より下の人間や、弱味がある人間にはどこまでも残酷になれる。


 まあ、残酷という意味では、俺も似たようなもんか。

 あいつらに手加減するつもりはないからな。


 斉藤に近づこうとすると、磯崎が前に出て来た。

 ほぼ肉の眉毛を寄せて、憎悪に満ちた目で俺を睨む。


「ふん、お前、多少の身体強化が使えるんだってなぁ? ククッ、種がわかりゃ何てことはねぇ……お前の負けだ」


『――強化(ブースト)!』


 磯崎の身体が、一瞬、オレンジ色の光を纏った。


「これで終わりだと思ってんだろ? クックック……」


『――強化(ブースト)!』


 さらに、強化の重ね掛けをする。


「駄目押しだ……」


 磯崎が瞳孔の開いた目を大きく広げた。


『――強化(ブースト)!』


「ひひ……止められねぇ! ひーっひひ、おしまいだ! 終わりの始まりだぁ! ひひ、ひーっひっひ!」


 西島が狂ったように笑う中、斉藤が勝ち誇った顔で言う。


「ブルって声も出ねぇか? ハッ、今更命乞いしたところで許す気も無いが……考えてやらんでもないぞ? さぁ、自分の過ちを認めてここで土下座しろ、懇願しろ、ほら、誰も見てないさ……、僕が悪かったですって泣いて縋れやコラァッ!」


 大声で怒鳴り散らす斉藤に、磯崎がだるそうに返した。


「もういいだろ? 面倒くせぇからやっち――――」


 ブォン――という音と共に視界から磯崎が消えた。


「は⁉ な、なにが……」


 狼狽える斉藤と西島。


「お前……何を……」


 困惑した表情でこっちを見る斉藤に、俺は肩を竦めて見せた。


「ひっ……」


 次に消えたのは西島だった。


「な、何だ! おい、てめぇ⁉ 何をした!」


 何が起こったのか理解できずにいる斉藤の姿を見て、俺はこみ上げる笑いを抑えきれず、思わずプッと吹き出した。


「な、何を笑ってやがる!」


 黙って斉藤の後ろを指さす。


「あぁ⁉ ……え⁉」


 振り返った斉藤が硬直する。

 磯崎と西島を消した犯人はこいつだ。

 この巨大な黒蟹の持つ鋏が、凄まじいスピードで二人をつまみ上げたのだ。

 そして今、そのダンジョンのボスであろう巨大黒蟹が、凶悪な鋏を振り下ろす瞬間だった。


 ――ドゴォンッ!


 凄まじい打撃音が鼓膜を押す!

 振り下ろした巨大な鋏が地面に埋まった。

 間一髪のところで避けた斉藤が、慌てふためき尻餅を付いた。


「な、何で出て来やがった⁉」

「ははは! こんなのも気付けないとか……、お前本当に騎士かよ?」


 挑発する俺の言葉にも乗らず、斉藤は真っ青な顔で声を震わせる。


「お……、お前、馬鹿か⁉ お前も死ぬぞ!」

 尻餅を付いたまま後ずさる。

 涙ぐみ、恐怖に顔が歪んでいた。


 ったく、自分が弱者になった途端にこれだ、救いようがない。


「お前は後だ、どいてろ――」


 俺は雑に襟首を掴んで遠くに放り投げた。

 黒蟹の後ろにガタガタと震える磯崎と西島の姿が見える。

 怪我をしているのか、二人とも動けないでいるようだ。


 離れた場所で、森山さんを介抱する石丸さんを確認する。

 杉さんも横になったままだ。

 リーダーと緊急時リーダーの二人が戦闘不能状態か……。

 なら、こいつは俺が倒しても文句はないはずだ。


 黒蟹は『ギギッギギギッ……』と変な音を発しながら、第二触覚をウネウネと動かしている。黒光りする重厚な甲羅、建設重機のような巨大な鋏、八本ある鋭い指節は、動く度、独立したパイルバンカーのように地面を抉っている。


 よーし、こいつを倒せば、かなりレベルが上がりそうだ。

 あいつらのお蔭でストレスが溜まりまくってるからな……最初から全力で行くか!


 ――大罪の淫魔槍ルクスリア。


 その瞬間、アスモデウスが目の前に現れる。

 白金の髪を靡かせながら、目の前に浮かび上がる姿はとても悪魔とは思えない。

 憑魔した状態でさえ、思わず吸い寄せられそうになる……。


『さぁ……始めようぞ…』


 アスモデウスはその美しい胸を曝け出した。


『……我、色欲を司どりしアスモデウスの名において命ずる――出でよ、淫魔槍ルクスリア!』


 胸元が輝きを放った!

 

「主……さぁ、早く……」


 俺はその光に手を埋める。

 ズズズ……と挿入する度に、アスモデウスの顔が歓喜に歪む。


『はぁっ……ぐぅ……くふっ♥』


 そして、奥にあるルクスリアを握ると、一気に引き抜いた。


『あ、駄目♥ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁーーーーーーーーっ!♥♥』


 激しく痙攣しながら、アスモデウスが消えた。

 手に握ったルクスリアからは、黒いオーラが溢れ出している。


 黒蟹が鋏を振りかぶり、乱打してきた!


 ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドン……ッ!!!


 地鳴りのような打撃音が響く!

 頭を抱え、悲鳴を上げる磯崎と西島の上に、岩や土がバラバラと降り注いだ。

 はは、これくらいで情けねぇ――。


 黒蟹の攻撃を躱し、俺は高くジャンプして、黒光りする甲羅の真上からルクスリアを向ける。


「オラァッ!!」


 ズダンッ!

 短い炸裂音が響く。


 分厚い鉄板のような甲羅に、大砲で撃ち抜かれたように丸い穴が開き、ルクスリアが地面に突き刺さった。

 穴の中から見上げると、断面から、緑色をした体液が滲み出しているのが見えた。


「よっと……」


 黒蟹の中から、甲羅の上に飛び乗る。

 上から見下ろすと、黒蟹を中心に地面が凹み、蜘蛛の巣状の亀裂が走っていた。


「やったか?」


 ルクスリアの柄でコンコンと眼球を突いて見るが、既に黒蟹は動いていなかった。


 *


「ぐはっ!」


 ――まるで力を入れる様子も無かった。

 いとも簡単に自分の身体が宙に浮き、地面に激しく打ち付けられる。


 か、身体に力が入らない……。


「な、何なんだアイツ……ま、まともじゃねぇ……」


 力を振り絞り、斉藤は四つん這いで逃げだそうとする。

 すると、その前に誰かが立ち塞がった。


「ひっ!」


 恐る恐る斉藤が見上げると、そこに立っていたのは白髪の老人と、自分が脅した回復術師(ヒーラー)小鳥遊(たかなし)だった。


「彼かね?」


 老人は冷めた目で斉藤を見下ろす。


「は、はい! そうです!」

「お、お前は……!」


 斉藤は地面に張り付いたまま、小鳥遊を睨み付けた。


「この期に及んでまで……見苦しい」

「な、何だてめぇは!」


CREDIT(クレディ・) WISE(ワイズ)鵜九森(うくもり)と言えばわかるか? ウチの者が世話になったそうだな……」

「う……鵜九森⁉」


 その名前に斉藤は聞き覚えがあった。

 外資系上位クラン、CREDIT(クレディ・) WISE(ワイズ)の鵜九森……⁉


「ま、まさか……白賢人(はくけんじん)⁉」

「ほぉ……その名を知った上で」

「ち、違う、そ、そんなつもりは……し、信じてくれ! わ、悪かった! アンタらのクランに手を出すつもりはねぇんだ、そいつにもちゃんと後で謝る! だから……」

「手を出すつもりがない……? 貴様如きが何か出来るとでも思っているのか?」


 鵜九森の目が斉藤を捉えた。

 次第にその虹彩が、白く染まっていく。


「ま、待ってくれ! 頼む! それどころじゃねぇんだ! あ、アンタもあれ見りゃわかんだろ⁉ ボスだぞ、この人数じゃ、逃げなきゃ皆死ぬ!」

「やれやれ……無知が罪とは良く言ったものだ。今、アレと戦っている男を誰だと思ってる?」

「え……」

「彼は覚醒管理局が認めた、国内九人目のS級覚醒者だ――」

「そ……そんな馬鹿な……」


 今初めて、斉藤は自分がとんでもない相手に喧嘩を売っていたのだと気付いた。

 視界が揺れる――そう思った瞬間、身体の震えが止まらなくなっていた。

 そんな斉藤を見て、鵜九森は目を細めて言った。


「安心しろ、どの道お前は終わりだ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 後で謝るとは素晴らしい思慮の無さ。 目の前の有名人がボスをなんともできないと勝手に判断していることも含めて
[一言] 明けましておめでとうございます。今年も楽しみにしています。
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