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世界最強の憑魔術師に覚醒したので第二の人生を楽しみます!  作者: 雉子鳥幸太郎
一章

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56/91

狂気

 順調に奥へと進み、ボスの領域の手前まで辿り着いた。

 森山さんと杉さんの連携が強く、今のところ俺の出番は無い。


 先発組と後発組に声を掛け、森山さんが皆を集めた。

「恐らく、この向こうにボスがいる。一度、小休憩を挟んでアタックしよう」

「うぃーっす」

「了解」


 個々に別れ、地面に座ったり、岩に腰掛けたりして身体を休める。

 俺は石丸さんと岩壁の近くに並んで座った。

 すると、一人の回復術師(ヒーラー)の青年が皆にポーションを配り始めた。


「ど、どうぞ……」

「へぇ、気が利くじゃねぇか、悪いな」

「おぉ、サンキュー」

 手渡されたメンバー達が礼を言いながらポーションを受け取る。


「なぁ瀬名くん、あれ……おかしくないか?」

「え?」

「久我山の人間が配るんならわかる、でも、あいつはCREDIT(クレディ・) WISE(ワイズ)回復術師(ヒーラー)だぞ? わざわざ人数分のポーションなんて用意するかな……」


 CREDIT WISEと言えば外資系上位クラン。

 言われてみると、確かに不自然な気がする。


「こういう事って他の討伐でもあるんですか?」

 石丸さんは顔を振り、小声で答えた。

「ないない、口に入れるモンだからな。同じクランならまだしも、貰っても警戒して飲まないのが普通だぜ……」


 見ると、ちょうど皆が休憩する場所の中央で、斉藤達がこれみよがしにポーションを飲み干していた。


「いやー! これは良いポーションだねぇ! 助かったよ~!」

「ガハハハ! さっきの傷が消えたぜ、ありがとよ!」


 それを見て大丈夫だろうと思ったのか、次第に皆がポーションを口にし始めた。


「あの……良かったらこれ、どうぞ」


 俺達の前にも回復術師(ヒーラー)の青年がやって来た。

 気弱そうで、女の子と見間違うほど中性的な顔立ちをしている。

 念のため、俺はステータスを確認した。


 ――――――――――――――――――――――

  年齢:19 名前:小鳥遊(たかなし) 十和(とうわ)

  レベル:25

  異能区分/D 回復術師(ヒーラー)

  クラン:CREDIT(クレディ・) WISE(ワイズ)

 ――――――――――――――――――――――


 ふーん、この年で上位クランか……。

 有望株ってところなのかな。


「あ、どうも」


 受け取るだけ受け取っておくか……。

 石丸さんも同じ考えだったようで、

「おう、すまねぇな」と笑みを向け、ポーションを小脇に置いた。


 小鳥遊が頭を下げ、足早に立ち去って行くと、石丸さんが言った。


「よう、見たか?」

「ええ、手が震えてましたね」

「こいつは飲むな、絶対やべぇぞ……」


 ――バタン、と何かの倒れる音が聞こえた。


「⁉」


 それを皮切りに、次々とメンバー達が倒れていく。


「お、おい……こりゃ一体……」


 周りを見渡すと、森山さんが倒れた杉さんを揺さぶっているのが見えた。

 俺と石丸さんは、近くの倒れていたメンバーに駆け寄る。


「おい、しっかりしろ! おい!」


 石丸さんがメンバーの胸に耳を当て、

「生きてるな……気を失ってるみたいだ」と呟いた瞬間、後ろから斉藤の声が聞こえた。


「瀬名く~ん、ちょっといいかな?」


 振り返ると、あの三人がニヤニヤと笑いながら俺を見下ろしていた。


「石丸さん、できるだけ離れてください」

「わ、わかった!」

 石丸さんが森山さんのところに走って行く。


「おい、あいつはいいのか?」

 磯崎が言うと、斉藤は、

「ほっとけ、ほっとけ、雑魚は後回しだ」と鼻で笑った。


「どういうつもりだ?」


「フハッ……ハハハハ! 随分偉そうな口を利くねぇ……再検査帰りだか何だか知らねぇが、ちと舐めすぎだ」

「ひひ……燃やしちゃう? ひひひ」


「これ、お前らがやったのか?」

「お前ら……? おいおい、口の利き方に気を付けろっつったばっかだろ!」


 磯崎の右ストレートが俺の顔面に入った。


「……な、なんだ⁉」


 全くの無傷。

 一ミリの衝撃も感じていない。

 逆に磯崎の拳からは血が流れ落ちていた。


「て、てめぇ……何しやがった⁉」

 狼狽える磯崎。

「おいおい、何かしてきたのはお前の方だろ?」


 その時、倒れたメンバーを介抱していた森山さんが、すごい剣幕でこちらに向かってきた。


「おい! お前達、一体何をした⁉」

「チッ、何もしてないっすよ、変な言いがかりは止めてもらえます?」

「し、しかし、どう見てもこれは……」


 言いよどむ森山さん。

 確たる証拠は無い、だが……。


「何か証拠でもあるんすか? オレらもポーション飲んだだろ、あんま適当な因縁つけてっと、リーダーだろうが関係ねぇっすよ?」

「なるほど、君たちの言い分はわかった。なら、まずはメンバーの救助が先だろう⁉ なぜ、瀬名くんに絡む必要がある!」

「ひひ……どうせ後でやるつもりなんだ、もう燃やしてもいいよね……ひひひ」

「馬鹿! 早ま……」


『――火炎(フレイム)!』


 森山さんの足元から、炎の柱が噴き上がる!


「うわぁあああーーーーーーっ!!」

「も、森山さん⁉」


 俺は、炎に包まれたままの森山さんを抱えて、石丸さんのところへ走った。

 遠巻きに様子を窺っていた石丸さんが、用意していた布で炎を叩きながら呼び掛ける。


「おい! 大丈夫か! 今消してやる!」

「森山さん! 大丈夫ですか! しっかり!」


 炎を叩き消した後、

「待ってろ、ポーションがある!」と、石丸さんが革のバッグからポーションを取り出し、森山さんに飲ませた。


「うぅ……ふ、二人とも、危険だ、逃げて、く、久我山精肉に連絡してください……」


「ど、どうしよう! 瀬名くん、マズいよ! ったく、こんな時にあの回復術師(ヒーラー)はどこ行ったんだ……」

「石丸さん、森山さんを頼みます!」

「お、おい……、何する気だよ?」


 森山さんは、最後まで大人の対応だった。

 それなのに……あのクソ共は……。


 俺は立ち上がり、拳を握り締めた。

 口で言ってもわかんねぇんだろうな……。


 全身から赤黒いオーラが噴出し、石丸さんが「ひっ……」と声を上げた。


「大丈夫、心配しないでください」


 そう言って、俺は斉藤達を見据えた。


「直ぐに終わりますから……」

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― 新着の感想 ―
[良い点] また伝説が増えますねこりゃ
[一言] やりすぎ注意w
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