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世界最強の憑魔術師に覚醒したので第二の人生を楽しみます!  作者: 雉子鳥幸太郎
一章

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55/91

悪意

 ダンジョンの内部は広い鍾乳洞のようだった。

 至る所からぽつりぽつりと水滴が落ちてくる。


「足元気を付けて! かなり滑るぞ!」


 先発組の杉が皆に注意喚起する。


「了解!」

「おっけー」


 起伏の激しい足場だが、見通しは良かった。

 先発組は周囲を警戒しながら足を進めるが、未だ魔獣の影は見えない。

 瀬名に絡んでいたBEAST(ビースト)の斉藤が、前髪を気にしながら、隣を歩くガタイの良い磯崎を呼び止めた。


「ちょい待て……、おい、さっきのガキ、変なスキル使ったらしいぞ?」

「ん? あぁ、西島からか?」

「ああ、女が出て来ただの、タトゥーが浮き上がったとかわけわかんねぇんだが……あいつ、まだクスリやってんのか?」


 斉藤は苛ついた様子で、耳に嵌めた通信具を触る。

 磯崎が周りを確認し、斉藤に小声で耳打ちした。


「それよりよ、マジでやんのか?」

「当たり前だろ、じゃなきゃ、こんなショボい討伐やってられっかよ」

「クックック……だよな?」

 磯崎が下卑た笑みを向けると、斉藤がふんと鼻をならす。

「ボスさえ倒せば、全員用済みだ」


 *


 いやー、トレッキングシューズ履いてきて正解。

 周りを見ると、皆、歩きにくそうにしている。


「おわっ!」

「おっと、大丈夫ですか?」


 体勢を崩した石丸さんの身体を支える。


「す、すまん、ありがとな……へへへ。俺が女なら惚れてるぜ?」

「そんな冗談が言えるんなら、大丈夫ですね」

「ははは、いやいや、内心怖くて仕方ねぇよ。ほら……」


 石丸さんは両手を拡げて見せた。

 ごつごつとした太い指が、ぶるぶると震えている。

 平気そうな顔をしてても、やっぱり怖いのは同じなんだな……。


「大丈夫ですよ、俺がきっちり守りますから」

「へへ、期待してるぜ? 俺はまだ、死にたくねぇからよ……」


 その時、前方から何かの叫び声が聞こえてきた。


「ひぃっ、は、始まった! せ、瀬名くん、マジで頼むぜ!」


 石丸さんは後方に下がった。 

 ポールさんのような戦闘をこなせる召喚師は、例外中の例外。

 大抵、いや、9割の召喚師は、不遇と称されるに見合った戦闘力しか持ち合わせていない。


 基本的に戦闘に参加しない召喚師は、魔石回収まで後方待機となる。

 だが、そこは一番安全なようで、精神的に最も辛い場所――。

 目の前でパーティーが崩れるようなことがあれば、それは自らの「死」を意味する。

 常に変化する戦況を祈りながら、迫り来る死の恐怖と不安に襲われ続けるのだ。


「私達も合流し、サポートに入りましょう!」

「了解です!」


 森山さんの声と同時に俺達は先発組と合流する。

 先発組の近接ディーラーに、鮫と鰐が合体したような魔獣が覆い被さっていた。

 魔獣は威嚇音を発しながら、鋭い牙を向ける。


『シャアアアアーーーーッ!!』

『――挑発!』


 杉さんが挑発スキルで魔獣を引きつけた。

 五体いる魔獣は、一斉にターゲットを杉さんに変え襲い掛かる。


『――防御力向上!』


 それを見た後発組の支援術師(エンチャンター)が、すかさず杉さんに補助を掛ける。


『――火炎(フレイム)!』


 突然、一体の魔獣が炎に包まれた。

 濡れた地面にのたうち回り、身体を擦りつけて炎を消そうとしているが、炎は消えるどころか激しさを増していく。


「ひひ! ひひひ! 燃えろ! いひーっ! ひひひ!!」


 攻撃魔法を放ったのは、あの西島という男だ。

 自分の放った炎を見て、不気味な笑い声を上げている。

 魔術師(ソーサラー)か……攻撃魔法は強力だが、あんな団子になってる中にぶっ放すとは、こいつ何を考えてるんだ?

 一歩間違えば杉さんまで巻き込むぞ……。


「ぬぅん!」


 アーミーカットの磯崎が、杉さんに群がる魔獣に大斧を振り下ろした。


『ギシャアアア!!』


 魔獣が断末魔を上げる。

 あの性格が悪そうな斉藤という男は、離れた場所で欠伸をかみ殺していた。


 なんだあの茶髪……皆が戦っているというのに。

 ふと、奴と目が合う。

 斉藤は俺を見てニヤッと笑った後、転がっていた魔獣の死骸を蹴り飛ばした。


 へぇ……喧嘩売ってんのかな。


『――豪雷弓!』


 森山さんが放った矢は弧を描き、上空で分裂すると落雷のように魔獣に降り注いだ。

 一気に魔獣が殲滅する。


回復術師(ヒーラー)、怪我人がいないか確認! 先発で手が空いてる人は周囲の警戒を! 体勢立て直すよ!」


 森山さんの指示に皆が動いた。


 *


 斉藤は後発組の中に瀬名の姿を見つける。

「何だありゃ……ククク、西島の奴、イカれては無かったのか」


 瀬名と目が合う。

 すぐにビビって目線を外すと思ったが、瀬名は目を逸らさない。

 その瀬名の行為が、斉藤の歪んだプライドに触った。


「ククク……、へぇ、面白れぇじゃん?」


 近くにあった魔獣の死骸を蹴り、斉藤は磯崎を呼んだ。


「おい、先に彼奴をやるぞ……」

「え? やるっつっても、邪魔なのがいるからなぁ」


 磯崎が杉と森山に目を向ける。


「大丈夫だ、西島の魔法で騒ぎを起こさせる、その隙にちょっと痛めつけてやりゃあ良い子になるさ……」

「へへ、そいつは間違いねぇな」


 斉藤は辺りの警戒に当たる瀬名の背中を睨む。


「見てろ……死ぬほど後悔させてやる」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 無法地帯すぎるー。 ポータルの中は異空間という感覚が人を変えるんですかね
[一言] よし、後悔する間も与えずに返り討ちだ!
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