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世界最強の憑魔術師に覚醒したので第二の人生を楽しみます!  作者: 雉子鳥幸太郎
一章

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訪問者

 早朝、インターフォンの音に起こされる。

 目を擦りながらモニタを見ると、覚醒管理局から来たという黒ずくめの男が二人映っていた。


「すみません、こんなものしかなくて……」


 俺はほうじ茶をテーブルに置いた。

 10畳程度の居間に、異様な圧迫感が生まれる。


 一人はNBAの選手顔負けの高身長、かつモデル体型。

 年は30代くらいか……? 殺し屋みたいに目付きが鋭い。


 もう一人のチャラい大学生みたいな男も、殺し屋との対比で低く見えるが180近くはありそうだ。

 しかも、二人とも痩せている割に、身体の横幅が大きい。


「いえ、お構いなく……」

「ありがとうございます!」


 テーブルの上の名刺に目を向ける。

 乾さんに、近藤さんか。二人とも監視課なんだな……。

 別に悪いことはしていないけど……何か緊張する。


「それで……今日はどのようなご用件でしょうか?」


 恐る恐る訊ねると、乾さんが答えた。


「突然、押しかけてしまい申し訳ありません。鹿島院長の方からご説明があったと思いますが、リストのご登録とご挨拶にお伺いした次第です」

「はぁ……そうですか」

「いやぁ~でも凄いっすよねぇ、瀬名さんはルックスも飛び抜けてますから、これから大忙しじゃないっすか?」


 人懐っこい笑顔で話しかけてくる近藤さんを見て、乾さんが眉をひそめた。


「近藤、外で待ってるか?」

「へ? いや、あ! すみません……」


 乾さんの言わんとすることに途中で気付いたのか、しゅんと小さくなった。


「い、いや、そんな、全然大丈夫です! むしろ、その方が僕も楽なので」

「そうですか? まあ、そう仰るなら……命拾いしたな近藤」


 そう言って、乾さんが近藤さんの肩を握り締めた。


「それで、リストの登録は簡単なんですか?」

「ええ、最初の登録からデータは移行できますので問題はありません。実は、瀬名さんにお願いしたいのは、ご協力についてです」

「協力?」

「はい、瀬名さんもご存知の通り、日本国内だけでも毎日のようにポータルが出現しています。その数は年々増加傾向にあり、我々覚醒管理局も、日々対応に当たってはいるものの……いかんせん、人員が足りません。それに、管理局職員の八割は非覚醒者です……。そこで、ある水準を超えた覚醒者の方には、こうして足を運び、協力をお願いしています。あくまでお願いですので、もちろん法的拘束力はありません」

「協力って……具体的には何をすればいいんですか?」


 乾さんは座ったまま、黙って頭を下げた。


「レベルS発生時、ぜひ……そのお力を貸していただきたいのです」

「ちょ、頭を上げてください! 困ります!」

「僕からもお願いします!」

「レ、レベルSって……まだレベルEしか入ったことがないのに……」


 確かレベルSって、高上さんが国家レベルで対応するとか言ってたよな。

 例え憑魔の力があるとはいえ、もし通用しなければ……。


「お願いします! 力を持たない私達は、こうしてお願いするしか……」


 乾さんが言った一言が俺の中で引っかかる。

 は……? 何だよそれ?

 力を持ってるから代わりに戦えだと? 死ぬかも知れないのに?

 そんなもんお願いって言わねーだろ?

 落とされた種火のように、乾さんの言葉はじわじわと俺の中の不快感に火を点け、燃え広がっていく。

 気配を敏感に察知したのか、乾さんが慌てて言葉を変えた。


「も、もちろん、すべて瀬名さんが良ければの話ですが……」


 そんな乾さんに向かって、

「俺……覚醒前は、西新宿で派遣事務をしていたんですよ」と切り出した。

「は、はあ……」


 困惑した表情で乾さんが返事をする。


「36歳、独身で両親も早くに亡くしましてね、今でこそこんな見た目ですが、彼女なんて一度も出来たこともなかったし、辛い思いもたくさんしました。金も無かったですし、今、思い返しても、あの頃の自分には、二度と戻りたくありません」

「そうですか……、それは本当に何と言っていいか……」

「ああ、すみません、別に慰めて欲しいわけじゃないんです」


 俺が嘲笑混じりに言うと、二人はますます困惑した表情になった。


「えっと……」

「昔の俺は、今の貴方達と同じで力を持っていなかった。俺もね、色々と力のある人達にお願いをしたりしたんです。でもね、誰も聞いてくれる人なんていませんでしたよ? その点、乾さん達はまだ良いじゃないですか、こうして家にやって来て、直接、脅迫まがいのお願いができるんですから」


 一瞬、乾さんの顔が引き攣る。

 近藤さんが慌ててフォローに入った。


「あ、あの瀬名さん、決してそういうつもりでは……」


「おい、弱者を振りかざすなよ? これでもし、レベルSが発生して大惨事になったら、あんたら俺を責めるんだろ? あいつが行ってれば、あいつが協力しなかったから……、じゃあ仮に行ったとして、失敗したらどうすんだ? もし、死んだらどうなる? 俺の銅像でも建てるか⁉ あぁ? お前らが俺に何をしてくれた? 朝早くに押しかけて来ただけだろうが! 何で俺がお前らの為に命張らなきゃなんねぇんだよ⁉」


 俺は大きくため息を吐く。

 自分でもここまで言うつもりはなかった。

 でも、なぜか自分を止められなかった……。


 誰も助けてくれなかった昔の自分を思い出して、逆恨みのような感情を抱いてしまったのかも知れない。

 自分が子供みたいな事を言っているのはわかってる。


 でも、いくらS級覚醒者だ、お前は凄いんだって言われても……俺の中身は、あの時のままなんだ!

 例え憑魔で強くなっても、本当の俺は何一つ変わっちゃいない。

 だから……昔の俺が言うんだよ……。

 自分を助けてくれなかった奴らを……、何で俺が助けなきゃいけないんだって!


「わかりました、不快にさせてしまったことはこの通り、お詫びします」


 乾さんは表情一つ変えず、深く頭を下げる。


「す、すみませんっした!」


 近藤さんもそれに習い、頭を下げた。


「いえ、俺も言い過ぎました……」


 流石に後味が悪い。

 気まずいながらも、俺は二人に頭を下げる。

 すると、乾さんが言った。


「瀬名さん、貴方が謝ることじゃないですよ」

「え?」

「私達が一方的なお願いをしただけですので」


 そう言って近藤さんに、「行くぞ」と声を掛ける。


「今日は貴重なお時間をありがとうございました、何か我々に出来ることがあれば遠慮無くご連絡ください、では――」

「あ、ありがとうございました、失礼します!」

「……」


 二人が帰り、テーブルの上に残された名刺に目を向ける。


「はぁ……」


 ベッドに身を投げ、枕に顔を埋める。

 なんだか急にリディアの顔が見たくなった。

 俺はスマホを手に取り、リディアにメッセージを送ってみた。 


 すると、スマホが震えた。

 リディアからだ……。


「はい……」

『あ、ユキト? 今メッセージ見たんだー、私もちょうど時間が空いてて』

「そ、そうなんだ……、えっと撮影?」

『うん、今日は遅くまで続きそうだよ~、一緒にトレーニングしたいのになー』

「仕事なら仕方ないね……でも、あまり無理は良くないよ?」

『うん、大丈夫! 今ので元気出たかも、えへへ。あ! そうだ、高上(こうがみ)さんの知り合いが〇日の討伐メンバー探してる話聞いた? 私は行けそうにないんだけど……、ユキトはどうするのかなと思って』


 一人で行ってみるのもいいかもしれないな……。


「行ってみようかな、ちょうどレベルもあげたかったし」

『ホント? じゃあ高上さんに言っとくねー。あ、討伐終わって時間が合えばお茶でもしようよー』

「OK、連絡待ってるよ」

『うん、じゃあ仕事に戻るー、またね』


 討伐か……。

 自分の手の平を天井に向けた。


 乾さんが言うことも理解できる。

 自分だけが良くても、世界が崩壊してしまったら意味が無い。

 でも、自分を犠牲にしてまで皆を守ろうなんて、俺には考えられないかも……。 


「あーっ! クソッ!」

 

 何もかも面倒くさく感じるのは、きっと俺に力が足りないせいだ。 

 何が起きても、笑ってられるくらい強くなればいい。


 よし……、絶対、誰にも邪魔させない……。

 俺のリア充ライフを!


 スマホを枕元に置き、俺はそのまま目を閉じた。

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― 新着の感想 ―
[一言] そもそも管理局がやってることが『後方支援』や『護衛』とかならまだしも『監視』だもんなぁ……
[良い点] まだ鮮明に残っている過去の体験、ズキズキきますね。 だからこそここからどうなるかにワクワクします。 リア充道は険しく楽しそうだ
[一言] 楽しい展開になってきたぞ~!
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