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世界最強の憑魔術師に覚醒したので第二の人生を楽しみます!  作者: 雉子鳥幸太郎
一章

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42/91

悪魔城

 風が冷たい。

 渋谷の街を行く人達の服装も、すっかり冬の装いだ。

 仲睦まじく寄り添いながら歩くカップル達を見て、微笑ましい気分になっている自分に驚く。


 驚いたな……いままで爆発しろとしか思った事がなかったのに。

 それもこれも、リディアのお蔭かな……ふふ。


 俺は軽く頬に触れながら、行きつけの魔素(マナ)ルームに入った。

 更衣室で着替えていると、顔見知りの男が声を掛けてきた。


「どうも、今日もトレーニング?」

「はい、ちょっと追い込もうと思いまして、あ、もう上がりですか?」


「これからクランの懇親会があってね、じゃ、頑張って」

「ありがとうございます、お気を付けて」

 笑顔で男を見送る。


 お気づきだろうか?

 時が移りゆくように、いつの間にか俺も変わってしまった。

 こんな洒落た魔素(マナ)ルームで、顔見知りの覚醒者と自然に挨拶を交わすなんて、一体、誰が想像しただろう。


 以前の俺から考えれば、神次元のコミュニケーションスキル。

 そう考えてみると、俺を縛り付けていたものは、果たして何だったんだろう――。


 単に自信が足りなかったのか?

 それとも傷つくことを恐れ、一歩が踏み出せなかっただけなのか……。


 まあ、それも過去の話だ。

 これからは、今の自分を生きればいい。


 着替えを済ませ、スキルブースに向かう。


 あれから一度、黒田から討伐の誘いがあったが断った。

 というのも、どうしても一人で確かめたいことがあったのだ。


 スキルブースの扉を開ける。


 準備は万全。

 ガスの元栓は閉めて来たし、ブレーカーも落とした。サブスクは一旦解除したし、冷蔵庫は空っぽ。

 万が一を想定し、三日後に俺がタイマーを解除しなければ、リディアにSOSメールが届くようになっている。


「コントロール・プライベートビーチ」


 パッとその場に美しい浜辺が拡がった。

 やさしい波の音が聞こえる。


 小さいカラフルな蟹が、砂浜を横切っていく。


「よし!」


 パンッと自分の頬を両手で挟む。

 気合いは十分、さあ、行こうか――悪魔城へ!


 俺は目の前に手を翳した。


『――ソロモンズポータル!』

 

 白い砂浜にぽっかりと黒い穴が開く。

 いつ見ても不思議だ……。

 恐る恐る指で触ってみるが、特に何の感触も無い。

 指を入れても、ただ指が闇に呑まれるだけだった。


 目を閉じ、深呼吸をした。


『来い、アンドロマリウス!』


 突如、ポータルからスモークのような煙が吹き出す。


「うぉっ⁉」


 煙の中から、俺に飛びついてくるアンドロマリウス。

『はわわ~、呼んでくださったんですね、マスター!』

「ちょ⁉」

 勢い余って砂浜に二人で倒れ込む。


「ててて……」

 

 目を開けると、俺の顔を覗き込むアンドロマリウスの愛くるしい顔があった。

 眼鏡越しにくるんとカールした睫毛が見える。

 アンドロマリウスが髪を耳にかけ直すと、柔らかな黒髪が頬に流れ落ちた。

 ちょ……太ももに生足の感触が……。


『マスター……』

 息がかかる距離に、俺は生唾を飲む。


「んぐっ……」


 く、来る……! 凄まじい力の激流が俺の中に……!

 次の瞬間、俺は憑魔状態になった。


「ふぅー……よっしゃ、体調万全!」

 こういうのは考える前に行動だ!


『――悪魔城!』


 そう口にした瞬間、俺は暗い夜の森の中にいた……。

 目の前にはひっそりと佇む古い大きな城が見える。

 その城に向かって、一本の太い道が続いていた。


「こ、ここが……悪魔城?」


 城壁の鉄格子の門は開かれたままだ。

 俺はゆっくりと誘われるように城に向かって歩いた。


 城の門扉の前まで行くと、ギギギ……と軋む音を立てながら扉が開く。

 中には小さな黒猫の執事が、丸っこい手を胸に当てて俺を待っていた。


 使い魔……?

 何かぬいぐるみみたいだな。


『ようこそ、アンドロマリウス城へ。さ、我が主がお待ちかねでございます、こちらへどうぞ』

「は、はあ、どうも……」


 猫執事に先導されながら、俺は城内に入った。


 城の中はお世辞にも綺麗とは言えない。

 石壁には苔が生え、絨毯も古びて色褪せていた。


 しばらく城の中を歩くと、大きな扉の前で猫執事が立ち止まり、俺の方を向いて小さく頭を下げた。

『こちらでしばしお待ちくださいませ……』


「ああ、わかった」

 猫執事はササッと扉を開け、そのまま中に入って行く。


「ふぅ……」


 勢いで来てみたものの、この世界は一体どこなんだ?

 通路の窓から外を眺めた。


 辺り一面、深い森に覆われ、空には赤い月と白い月が二つ浮かんでいる。

 間違いなく、地球ではないな……。


 ――と、その時。

 扉の奥から俺を呼ぶ声が聞こえた。


『マスター……入ってきてもいいですよぉ……』

 あれはアンドロマリウスの声だ。


 そっと扉を開けると……、


 ――パパンッ! パンッ!


『『ウェルカ~ム! ますたぁ~! 悪魔城へようこそ~!』』

「な、なんだ⁉」


 一斉にクラッカーが鳴り、アンドロマリウスと猫執事、それに一体のスケルトンとコウモリが、とんがり帽子とつけ髭を付けてきゃっきゃと騒いでいる。


「あ、あのー……」

『マスター、ここが私のお城です!』

 アンドロマリウスがくるんと回ってポーズを取った。


「そ、そうなんだ……」


 何か想像してた感じと全然違うんだが……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やはりドラキュラは出てこなかったか。 初めては私だったと後世までアンドリマリウスは自慢しちゃいそうですね
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