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世界最強の憑魔術師に覚醒したので第二の人生を楽しみます!  作者: 雉子鳥幸太郎
一章

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36/91

暴食

「クッ……Re:Born(リ・ボーン)! Re:Born(リ・ボーン)! Re:Born(リ・ボーン)! クソッ、何でだよ⁉ ひ、卑怯だぞーっ!」

 少年が奥へ逃げながら叫ぶ。


「ったく……やっぱりお子様だな」


 スキルロックは当分解けない。

 あの子は後回しにして、オーク共を片付けないと。


「あとでお説教だからなー!」


 遠ざかるゲームマスターの小さな背中にそう告げて、俺は黒田達の元へ戻った。


 *


『ブギィーッ!』

 オークが倒れる。

 が、その屍を踏み越え、雪崩れ込むようにオークが迫る。

 

「オークオークオークって……この、クソ野郎がッ!」

 黒田が身の丈ほどある支援術師(エンチャンター)用の杖でオークを殴る。

『グガァッ!』

 だが、殴っても殴っても、また新しいオークが向かってくる。


「き、キリがねぇ……」


『――治癒(ヒール)!』

 黒田を緑色の燐光が包む。


「み、湊か……すまん!」

「持ちこたえて! 私もできるだけMPを温存する! ユキトが来るまでの辛抱よ!」


『グオォオオオーーーーーーッ!!!』

 ハイオークの一体が凄まじい雄叫びを上げた。

 身体が禍々しい赤に輝いている。


「あれは……! マズいです、ハイオークが暴食状態に入りました!」

 ポールさんがそう叫ぶと、ハイオークは突然、隣にいたオークに喰らい付いた。


『ブシュルル……グガァアアア!!』

 眼光は赤く輝きを放ち、身体はまた一回り大きくなった。


「おいおいおい! 瀬名ぁ! 早くしろーっ! これ以上は無理だぞ!」


 *


「ん? えらく暴れてんのがいるな……アイツから片付けるか」

 俺は共食いを始めたハイオークに向かって駆けだした。


 ハイオークは手当たり次第に近くのオークに喰らい付いている。

 そして、オークも逃げることなく、自ら進んで喰われているように見えた。


 気持ち悪い奴……、だが、これで終わりだ!

 ハイオークの背後から、跳び蹴りを放った。


『グゴォッ!』

 俺の蹴りを棍棒で防いだ。


「ま、マジか――⁉」

 初めて攻撃を止められた⁉


 なんだこいつ……初めに倒したハイオークと全然違うぞ⁉

 攻撃力は上がるとあの少年が言っていた気がするが……、防御力も上がるのか?


『グガアーーーァッ!』


 ハイオークの拳が飛んでくる。

 咄嗟に避けようとした瞬間、粘液で足が滑った。


「ちょ⁉ うぉっ⁉」

 顔面に思いっきり拳を受ける。

 そのまま俺は、オークの群れの中に吹き飛ばされた。


「瀬名⁉」

「ユキト⁉」


 地面に転がり落ちると、オークの足が容赦なく俺を踏みつけてきた。


「ちょ……あ! クソッ! 鬱陶しい! ……どけっ!」


 オークを吹き飛ばし、片っ端から強引に力で潰していく。

 異臭を放つ粘液にまみれるが、そんな事はもうどうでも良かった。


 見ると、離れた場所で、ハイオークはまだ同族を喰らっていた。

 ほんの僅かな間に、また一回り以上大きくなったように見える……。


「アイツ、吸収して強くなる系か……?」


 アンドロマリウスに攻撃系のスキルは無い。

 これならアスモデウスにすれば良かったか……。


 ん? 待てよ……交換(チェンジ)って出来るのかな?

 いや、しかし、今の状況で憑魔を解いたら……即死するな、うん。

 やるなら、一旦この場を離れないと。

 だが、黒田達の負担を少しでも減らしてからだな……。

 俺は自分の頬を軽く叩く。


「よっしゃ! 行くぞ!」


 黒田を囲んでいたオーク達に狙いを定め、スプリンター選手の如く猛突進した。


「ドォラァッ!」

 体当たりをぶちかます!

 黒田に群がり、団子になっていたオークが弾け飛んだ!


「おい、大丈夫か?」

「おぉ、瀬名か! 助かった……死ぬかと」

 粘液まみれになった黒田が安堵の表情を見せる。


「悪い、もうあと数分だけ耐えてくれ、いけるだろ?」

「は? え……お、おい! 嘘だろ⁉」


 泣き出しそうな黒田を置き、リディアとポールさんの様子を見る。

 二人は上手く連携しながら、オークに囲まれないよう退路を作りつつ、相手を分散していた。


 さすがポールさん、場慣れしている。

 メリルトライアドの名は伊達じゃない。


「ポールさん! リディア! ハイオークは無視でいい! とにかく逃げ回れ!」


 そう大声で言うと、ポールさんとリディアが手を上げて応えた。


 *


「クソッ! こんな時に、あいつは何処に行くつもりなんだ?」

 黒田は瀬名の背中を横目で見ながら、オークの相手をする。


『ブギィッ! ブギィーッ!』

「うるせぇな! この!」

 杖で頭部を殴り、腹を蹴ってオークを転ばせる。

 そして、顔面を滅多打ちにした。


「はぁ……はぁ……、こっちは大分減ったぞ!」

 肩で息をしながら、黒田が声を上げると、

「ボス! あ、あれ!」

 と血相を変えたポールが、ハイオークを指さす。


「な、なんだ、ありゃ……」


 *


 二人の無事を確認した後、俺は猛ダッシュで広間の隅まで走る。

 流石に憑魔状態だけあって、あっという間に壁際に着いた。


 よし、ここなら……。


『――ソロモンズポータル!』


 ポータルを創り出し、憑魔を解こうとすると、アンドロマリウスが姿を見せる。


「あ、あれ?」

 いつもならすぐに消えるはずなのに……何故だ?


「う~、マスター、もう終わりですか?」


 ゴスメイド姿のアンドロマリウスが、拗ねたように口を尖らせた。

 少しズレた眼鏡、肩を揺らしながら上目遣いで俺を見る。


「ちょ、いや、君のスキルのお蔭でとても助かったんだけど……っていうか、何でいるの?」

「こっちの世界とわたしの住む世界を越えるのが、ポータル無しだと、ちょっと難しくなってしまったんです」

 そう言って前髪を直しながら、苦笑いを浮かべた。


「え……」

「というのも……、マスターのレベルアップによってですね、わたしの中の魔素量も本来の力に近づいてまして……。内包する魔素量が多いほど世界を渡るのが難しくなるんです。なのでポータルを通らないと帰れなくて……」


「そう言えば、新しい『悪魔城』というスキルも解放されていたな……」

「はい! 悪魔城を使って頂ければ、このアンドロマリウスがマスターを愛の城へご招待! あんなことや、こんなことで精一杯のご奉仕をさせて頂きますぅ~♥」

 はぁはぁと息を荒くするアンドロマリウス。


「か、考えておくよ……じゃ、お疲れ様」

 急いでるからな、構っている暇は無い。交換(チェンジ)だ、交換(チェンジ)

 小さく手を上げると、アンドロマリウスは俺の手を握り、顔を近づけてきた。

 はうっ! 手がすべすべで柔らかい……あ、悪魔め!


「ちょっとマスタ~酷いですよぉ! これじゃ都合のいい女じゃないですかっ!」

「こ、こら! 人聞き悪いこと言うなよ……」

「だってぇ~」

 こうなったら仕方ない!

 グズるアンドロマリウスの手を逆に両手で力強く握り返した。

「は、はわわ……マ、マスター⁉」

「頼む! 急いでるんだ、また呼ぶから! ね? お願いっ!」

「わ……わかりましたよぅ、そこまで言うなら、仕方ありませんね……。では、私はこの辺で……」

 名残惜しそうなアンドロマリウスがゆっくりと手を離し、俺を見ながらポータルに入って行った。


 ふぅ……可愛かったな……。

 いや! 違う違う!

 そんなこと言ってる場合じゃない! 急がないと!


 俺はポータルに向かって手を翳した。


『――来い! アスモデウス!』

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― 新着の感想 ―
[良い点] チェンジ!チェンジ! やりすぎると多方面から高感度に影響しそうで
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