スキル
「き、キッズじゃん⁉」
驚いたな。何でこんな子供がダンジョンに?
子供の覚醒者って聞いた事がなかったけど……。
「大人はみんなそう言うね、その子供に勝てない癖にさ……クスクス」
「わかったわかった、いい子だからもう帰りな? 明日も学校あるんだろ?」
俺が宥めるように言うと、少年が激高した。
「ば……馬鹿にしたな! 僕はそうやって馬鹿にされるのが一番嫌いなんだ! いいよ、お兄ちゃんには特別に僕のコンボを見せてあげる!」
『――Re:Born!』
少年が俺を指さしながら言うと、背後から数十体のオークが現れた。
「げっ⁉ な、何だよこれ⁉」
「馬鹿! 相手は子供でもネクロマンサーだぞ⁉ 煽んじゃねぇ!」
黒田が慌てて身構える。
「まだまだ、僕のターンだよ?」
『オーク、ターゲット固定、自動戦闘で配置――さらに、Re:Born!』
オーク達の中に、一際大きな個体が現れる。
『ハイオーク三体、オートスキル発動、オークの特性『種の暴食』により全体攻撃力30%上昇――さ~ら~にっ、Re:Born……!』
――ゴゴゴゴ……。
奥の方に大きな王座が現れる。
そこには、赤黒い鎖でぐるぐる巻きにされた巨大な何かが座っていた。
「はい、トラップカードを場にセットし、ターン終了~、っていうか、これもう『詰み』だからね、クスクス……」
少年は鼻歌まじりに奥の方へ歩いて行く。
「セナくん、非常にマズいです! この数のオークはとてもじゃないですが……」
「わかった。数を減らせばいいんだな?」
「え……」
「ポールさん、リディアを頼む!」
俺は身を低くして、オークの集団に突っ込む。
数を一気に減らすには、雑魚から!
「手加減は無しだぞてめぇらぁーーーっ!」
先頭のオークの顔面を思い切りぶん殴る。
殴った感覚は無い。
ただ、次の瞬間にはオークの頭部が消し飛んでいた。
『ブモォッ⁉』
狼狽えるオークの腹部にそのまま回し蹴りを入れると、分厚い身体が背中から破裂した。
「オラァ! まとめて掛かってこい!」
『ブ、ブグモォオオーーッ⁉』
狙いを黒田達に変えたオーク達がリディアに襲い掛かる!
「きゃあっ! ちょっと……こっち来ないでよ! ――治癒!」
『ボヒィィーーッ! ボッ……⁉』
アンデッドにとって、治癒は浄化魔法と同じ効果をもたらす。
緑の燐光に包まれたオークの身体から、黒い煙が抜けていった。
だが、一体を浄化したのも束の間、次から次へとオークの波は激しさを増す。
「ちょっ……このままじゃMPが……。もーっ! ウザいんだけどーーっ!」
「リディアさん! 無理は禁物ですよ、二人でやりましょう!」
ヘルプに入ったポールさんが短剣でオークに斬り掛かると、上空を旋回していたライトも加勢に加わった。
「あ、ありがとうございます!」
「さあ、もうひと踏ん張りですよ!」
ポールさんはリディアを元気づける。
「チッ……次から次へと、うぜぇんだよ! これでも喰らいやがれ!」
キレた黒田がスキルを放った。
『――全体負荷!』
場にいるオーク達が青い光に包まれ、動きが緩慢になった。
「瀬名! これで少しの間、こいつらの足が止まる! 頼んだぞ!」
叫ぶ黒田に手を上げて応え、俺は駆けだした!
「どけどけどけーーーーーーーーーーーーっ!!」
オーク達を蹴散らしながら、俺はハイオークに狙いを定めた。
屍兵か何だか知らねぇが、所詮はオーク! 雑魚は雑魚らしく……死んどけや!
「臭ぇんだよ!」
『グモォッ⁉』
ボディーブローを一発入れると、腹を貫通し、謎の粘液が噴き出す。
汚ねぇ……、クソッ、あのお子様絶対許さねぇぞ!
* * *
奥の王座の横に座り、戦いを眺めていた少年が腕組みをして唸った。
「う~ん……」
これは予想外……。
あのお兄ちゃんがここまでやるとは思ってもなかった。
師匠が気にするだけのことはあるのかも。
あ~あ、結構、駒が減らされちゃった。
補充しても良いんだけど、それは卑怯だしなぁ……。
うん、僕は大人みたいな卑怯な真似はしないぞ。
追加屍兵はしないと、最初に自分で決めた縛りに従うんだ!
でも……ここから挽回する手ってあんのかなぁ……。
「……」
やっぱ、あと一回だけ追加OKってことにしよ。
悪戯っぽい笑顔を浮かべ、少年は両手を瀬名に向けて翳した。
『――Re:Born!』
* * *
あれが最後のハイオークか!
「おらぁああああっ!!!」
脳天に踵落としを叩き込む!
ハイオークの頭部が身体に埋まった。
「よし、これで片付い……は?」
振り返ると、まるで時間が戻ったかのようにオーク達が復活していた。
「う、嘘だろ……きりがねぇ……」
あの少年がいる以上、いくらオークを倒してもまた復活する。
ネクロマンサーってのは厄介だな……。
「あ……!」
そうだ、こっちもスキル使えば良いんじゃん!
スキルロックってのがあったな、ちょっと試してみるか。
俺はオーク達をかき分け、奥の王座に突き進む。
居た――、あの少年だ。
―――――――――――――――――
レベル:20
MP:571(+2710)
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・スキル・ロック(800MP/1回)
対象のスキルを一定時間封印する。
―――――――――――――――――
MPは十分……行くぞ!
少年は俺を見て、ほんの一瞬、眉間に皺を寄せた。
「ふぅん、僕を直接狙いに来たってわけ? それはあまりにも単純すぎないかな?」
「お前さえ潰せば終わりだ」
「どうやらお兄さんは、本気で僕を怒らせたいみたいだね……いいよ、もうここで発動しちゃおっと!」
『フフフ……トラップカード発動~! オーク・エンペラーをRe:Bor――⁉』
『させるかよ! ――スキル・ロック!』
俺に浮かび上がったのと同じ紋様が少年を包む。
紋様は黒い流体になり、二つの角を持つ悪魔のような影になった。
「な、何これ⁉」
言葉を発した瞬間、影が少年を抱擁する――。
直後、少年の頭上に封印刻限が表示された。
〈10:48〉
これがスキルロックか……。
頭上の時間、すぐに変化しないってことは、残り10時間48分か。
「クックック、お仕置きには十分な時間だな……」
俺は少年を見て、ニタァっと笑った。




