召喚師は不遇なのか?
「と、とにかく、憑魔だ憑魔……!」
俺は慌てて召喚可能な悪魔を思い浮かべた。
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〈召喚可能悪魔一覧〉
・アスモデウス
・アンドロマリウス
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「戻ってる……」
よし、ソロモンズポータルは開いたままだ。
ここはアンドロマリウスを試しておくか。
『――来い、アンドロマリウス!』
その瞬間、目の前が真っ暗になり地面に押しつけられた!
「うわっ⁉ な、なんだ⁉」
何か柔らかなものに顔を挟まれている!
な、なんだ⁉ すべすべしてんな……。
「あわーっ⁉ ご、ごめんなさい、マスター!」
バサッという音と同時に視界が開けた。
見ると、メイド服姿のアンドロマリウスが、恥ずかしそうにスカートを押さえていた。
も、もしかして……あれは、ふ、ふとももだったのかっ⁉
思わず自分の両手を見る。
「ちょっと、興奮しちゃいました……」
艶のある黒髪を揺らしながら眼鏡を直し、ふふっと照れ笑いを浮かべるアンドロマリウス。
その可愛らしく恥じらう姿に、思わず悪魔だという事を忘れそうになる。
おいおい、ファーストキスはおろか、初めて触った異性の太ももまで悪魔とか……。
待てよ……、この場合異性というのは正しいのか?
ま、まあ、それより今は時間が無い。
早くしないと……。
「悪い、急ぐから……」
「あ、はい! おや? マスターの力が上がってますね」
「え?」
「それでは、わたしの新たな力をお受け取りください、マスター……はむっ」
アンドロマリウスが俺の唇に歯を立てる。
「ん……」
生暖かい吐息が漏れる。
ぐにゅるんっと舌が入って来て、俺の視界は光に包まれた――。
「き、きたきたきたぁーーーーーーーーっ!!」
これだよこれ、漲る全能感! 迸るオーラッ!
よっしゃ、いっちょやったる……お?
良く見ると、アスモデウスの時と紋様が違うな。
悪魔によって微妙に違うのか?
「ユキトーっ! 大丈夫ーーーっ⁉」
その時、リディアが黒田達を連れて戻って来た。
「悪い悪い、お待たせ」
「ワオッ! セナくんすごいタトゥーだね?」
ポールさんが目を丸くする。
「これが俺のスキルで、憑魔っていうんですよ」
「初めて見ました、不思議なスキルですね……」
「どうした? 何かトラブルだったのか?」
黒田が周囲を警戒しながら訊いてきた。
「悪いな、もう平気だから」
「ふん、普段からそのくらい砕けてた方が良いんじゃないか?」
「自分では普通なつもりなんだが……」
やっぱり憑魔すると、気が大きくなるというか、物怖じしなくなるのが口調にも影響しているのかな……。
急に態度がデカいってのも印象が良くないし、気を付けないと。
「まぁいい、じゃあ、ここからはポールと瀬名、次に湊、ケツには俺が付く、いいな?」
黒田の指示に皆が頷いた。
俺はポールさんと並んでダンジョンの奥へと進む。
憑魔状態だと視界も良好だ。遠くまでハッキリと見える。
「少し探らせましょうか、――召喚」
ポールさんがパチンと指を鳴らした。
一瞬、目の前に青白い炎が燃え盛ったかと思うと、そこに双頭の鳥が現れた。
「鳥?」
これが使役獣なのか……。
綺麗な青紫色の羽、背中から尻尾にかけて黒くグラデーションが掛かっている。
胴体部分は黒く、二つの頭は孔雀に良く似ていた。
「グッボーイ、ライト元気だったかい?」
二つの頭を指の背で優しく撫でる。
「それがポールさんの使役獣ですか?」
「ええ、そうですよ。おや、セナくんは召喚師だと聞いていましたが、まだ使役獣を召喚していないのですか?」
「そうなんです、まだ一度も」
「そう焦ることはありませんよ、先は長いですからね」
そう言ったあと、ポールさんは「頼んだよ」と囁き、鷹匠のように前方の暗闇にライトを飛ばした。
『グアァーッ!』と甲高い鳴き声を響かせながら、ライトは闇に消える。
「ライトは、偵察、魔石回収、簡単な戦闘補助ならやってのけますよ」
「へぇ、凄いですね……」
ポールさんの眉がピクンと動いた。
何かを感じ取ったようだ。
「オッケー、突き当たりまでは異常なさそうです、このまま進みましょう」
「あ、はい」
ポールさんを見ていると、召喚師ってそう悪いクラスじゃない気がするな。
こういう討伐では絶対重宝されると思うんだが……何で召喚師は不遇な扱いを受けるのか……。
「あの、ちょっと聞いてもいいですか?」
「もちろん、私でわかることならお答えしますよ」
「召喚師はなんで良く思われていないんですかね?」
「大抵の人は召喚師を不遇職だと笑いますが……、私はそれほど召喚師というクラスに悲観していませんよ」
「その理由をお聞きしても?」
「ええ、ライトが私の答えです」
そう言ってポールさんが腕を伸ばすと、舞い戻ってきたライトがそこにとまった。
「グッボーイ、ライト。……この先を右に行きましょう」
ライトとポールさんを見ていると、何だか深い絆で結ばれた相棒みたいで憧れる。
何か……いいなぁ……。
うん、良いじゃないか召喚師!
俺もこの討伐が終わったら、使役獣の召喚にもチャレンジしてみよう。
突き当たりまで来た。
道は左右に分かれている。
リディアと黒田が後ろから追いつく。
「どっちに行くの?」
と、訊ねるリディアに、ポールさんが答える。
「右ですね、左は行き止まりだそうです」
俺達は顔を見合わせて頷いた。




