定期出現型笹塚ポータル第294号
――二日後。
黒田に指定された場所にやって来た。
笹塚駅から10分ほど歩いた場所にある、廃工場の前だ。
昔は誰もが知っている大手パン会社の工場だったらしいが、今は見る影も無い廃墟と化している。
「こんなところにポータルが出現するのか……」
ポータルって不思議だな。
俺が創るポータルと、どう違うんだろう?
「んーっと、定期出現型だって。一定間隔で同じダンジョンに繋がるポータルが現れるそうよ」
リディアがスマホを見ながら言った。
「え、それって、何かのサイト?」
「あぁ、これはTickHuntのメンバー用アプリなの。クランに入ると、こういう時は便利ね」
「へぇ、アプリなんてあるんだ」
情報が簡単に手に入るってのは良いと思うけど、クランに入るのはやっぱり面倒くさく感じる。
ま、入りたくなってから、考えても遅くはないだろう。
「やあ、こんにちは。お二人が、セナくんとリディアさん?」
振り返ると、背の高い外国人の男が、愛想の良い笑みを浮かべていた。
黒田の言っていたベテラン召喚師さんか……。すごく感じが良い。
「どうも、えっと……ポールさん?」
「これは、嬉しいです、名前覚えてくれたんですか?」
「あ、はい。驚きました、日本語お上手ですね?」
ポールさんは頷きながら、
「ええ、もうかれこれ10年以上住んでいますからね、日常会話なら問題ないですよ」と、ウィンクをする。
そこに黒田がやって来た。
「みんな集まってるな? あ、どうもポールさん、今日はありがとうございます、黒田です」
「どうもこんにちは、君が今日のボスですね? 任せて、全力でサポートしますよ」
「それは心強い、お願いします」
そう言って、黒田は腕時計を見た。
「そろそろ、始まると思いますので、みなさん準備をしましょう」
「準備……?」
「ユキトは憑魔するから装備いらないでしょ?」
いつの間にか白いボディスーツ姿になっていたリディアが答えた。
「いや、でも格好いいなぁ……、俺も装備買おっかな」
「じゃあ、今度一緒に見に行こっか?」
「うん! 行く行く! やった!」
俺がテンションを上げていると、後ろから濃緑のローブを纏ったポールさんが、心配そうに声を掛けてきた。
「……セナくんは召喚師と聞いてますが、本当にその格好で大丈夫ですか?」
「あ、はい、僕は召喚師ともうひとつ別のクラスを持ってるんです。それを使うとかなり打たれ強くなりますから」
「二つもクラスを⁉ それは凄い……長くやってますが、初めて聞きました」
「始まるぞ――」
黒田の声に、俺達は廃工場の方を見た。
遠くから地鳴りが響き始め、建物の周りにバチバチッと放電現象が起きた。
西新宿で巻き込まれた時よりは、静かで、穏やかな感じがする。
まあ、あの時はビルが半壊してたしな……。
黒いボディスーツに身を包んだ黒田が、俺達に向き直って声を張った。
「これより、定期出現型笹塚ポータル、第294号の攻略を開始します! 参加人数四名、デュオ二組の構成、本討伐リーダーは私、メリルトライアドの黒田、緊急時のリーダーには同クランのポールが引き継ぎます! レベルEの案件ですが、各自、気を引き締めて対応に当たって下さい!」
「「了解しました!」」
おぉ~、何だか黒田が格好よく見える。
ポールさんも何だか満足げに頷いていた。
「では、俺とポールさんが先に行く、二人は合図するまで5メートルほど間隔を開けてくれ、戦闘が始まれば合図無しで合流しよう」
「わかった」
廃工場のシャッターをくぐる。
中はガランとしていて、物や機械も置かれていない。
「あれだ」
黒田が示すまでも無く、圧倒的存在感でそれはあった――。
禍々しい異空間……。
楕円形のポータルがバチバチと放電しながら、工場の中央に現界していた。
「行きましょう」
黒田がポールさんに言うと、
「イェス、ボス」とポールさんがおどける。
むぅ、ベテランの余裕ってやつか……。
「さぁ、準備はいい? わたし達も行きましょ?」
「あ、ああ、わかった」
俺は生唾を呑み込み、ポータルの中に足を踏み入れた。
――次の瞬間、音が消える。
目の前に拡がっていたのは、遺跡の中みたいな古い石壁だった。
「これがダンジョン……か」
薄暗くて視界が悪い、大丈夫かな……。
先に憑魔しておくべきか?
俺は召喚可能な悪魔を思い浮かべる。
「あれ?」
―――――――――――――――――
〈召喚可能悪魔一覧〉
・ブネ(強制)
―――――――――――――――――
強制……?
こんなの初めてだ。
どうする? しかも、何てタイミングで……。




