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世界最強の憑魔術師に覚醒したので第二の人生を楽しみます!  作者: 雉子鳥幸太郎
一章

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29/91

討伐への誘い

 TickHunt(ティック・ハント)本社ビルを出て、リディアと二人で駅まで歩く。


「ありがとね、高上さんも喜んでた」

「いや、俺の方こそ勉強になったよ」

 

 ポータルの話が聞けたのは良かった。

 ああいう話はネットでは出てこないからな。

 連絡先も交換したし、またわからないことがあったら聞いてみよう。


 ちらっとリディアの横顔を見る。


「あの、さ、その、こ、この後って、暇かな?」

「え、うん……」

「その……良かったら、久しぶりに魔素(マナ)ルームに行かない?」

「行くー! わたしもドーナツの罪悪感をスッキリさせたいし、へへ」

 リディアが照れ笑いを浮かべながら腕を組んでくる。


「そ、そっか、じゃあ決まりだね」


 もう、可愛くてどうにかなりそうだ……。 

 俺は自然とせり上がってくる頬肉を押さえた。


 *


 二人で行き慣れた港区の魔素ルームに行くことにした。

 一瞬、シュウくん達に絡まれないかと心配になったが、黒田もああ言ってたことだし……まあ、大丈夫だろう。


 駅から出て、少しウィンドウショッピングをした後、魔素ルームに向かう。

 ああ、楽しい……なんて楽しいんだ……!

 まるで恋人同士みたいじゃないかっ⁉


 何気なく交わす言葉や、くだらない冗談の一つ一つがこんなにも心を満たしてくれるなんて……!


 胸の奥で幸せを噛みしめていると、

「え……ユキト、あれ、黒田くんじゃない?」と、リディアが俺の袖を引っ張った。


「ほんとだ……」


 別に魔素ルームで出くわすこと自体は不思議じゃないが……。

 何だろう? どうも、こっちを見ている気がする。


「相手にしなきゃ大丈夫だよ」

「そ、そうね」


 足早に黒田の前を通り過ぎる。


「――話をしたい」

 後ろから、黒田に呼び止められた。


「え……?」


 振り返ると、黒田はリディアを見て、

「この前は悪かったな」と人が変わったような言葉を掛けた。


「あ……う、うん……」

 呆気に取られるリディア。


 黒田は俺の方を見て、

「頼みがあるんだが……」と神妙な面持ちで言う。

「お、俺に?」

「ああ」

 と言って、黒田は一瞬道路側に目線を外した後、俺の目を見た。



「――瀬名、俺と討伐に参加してくれないか?」



 *


 前日、都内某ホテルのBAR――。


 グラスの中の氷が鳴る。

 黒田は窓際の席に座り、夜景を見つめながら考えを巡らせていた。


 泉堂に指示された瀬名の勧誘。

 クランで己の価値を示すためには、何としてでも応えなくてはならないところだが……。


 しかし、瀬名から見た俺の印象は最悪だ。

 アイツが素直にクランに入るとは到底思えない。

 ならば、他で結果を出すしか無いか……。

 どうする……? 確か、瀬名は覚醒したばかりだ……討伐も……。


 そうか――、その手があったか⁉


 今じゃ、鼻の利く奴らは、こぞって瀬名の情報を欲しがっている。

 ウチの情報網でもあいつに関するデータはあの模擬戦のものだけ……。


 討伐に参加させ、間近で瀬名の戦闘データを集めれば、かなりの手土産になるはずだ。

 勧誘は無理でも、その情報さえあれば首の皮一枚繋がる可能性はある……。


 黒田はスマホを取り出し、メリルのデータベースにアクセスした。


「……よし」


 ちょうど二日後に、手頃な定期出現型ポータルが開くな。

 後は誰を連れて行くかだが……、なるべく目立たず、そこそこ慣れた奴がいいか。


 データベースでは、現在スケジュールに空きのあるメンバーのリストも閲覧が可能だ。

 黒田は条件に合う覚醒者を探し、画面をスクロールさせていく。


 ―――――――――――――――――

  年齢:36 名前:ポール・ウォーカー

  レベル:48

  異能区分/E 召喚師

  HP:474 MP:223

  筋力:68 体力:78

  知能:26 抵抗:51

  反射:95 精神:36

 ―――――――――――――――――

  コメント:討伐経験多数、討伐時のアシスト力高い

  本人からのメッセージ:新人召喚師の指導も相談可

 ―――――――――――――――――


「ふぅん、悪くないな」


 黒田はポールに討伐の参加依頼を出してみた。

 すると、すぐにポールからOKの返事があった。


「よし、後は瀬名を説得するだけだ……」


 薄まったカクテルをぐいっと飲み干すと、黒田はBARを後にした。


 *


 高密度ルームに入った俺は、黒田を含めた三人でテーブルを囲んでいた。


「まず、リディア……いや、湊さん、君には謝罪をする、すまなかった」


 黒田とは思えない紳士な態度であった。

 リディアもその変わりように戸惑っている。


「え……あの……」

「安心してくれ、もう君には付き纏わないと約束する。それに……彼氏もできたみたいだしな?」


 そう言って、黒田が俺の方をちらっと見た。


「え、ちょ……黒田くん⁉ あわ、あの、何言ってんのっ!」

 真っ赤になったリディアが言う。


 おいおい、もしかして……俺、可能性あるんじゃ?

 ヤバい! 急にドキドキしてきたぞ⁉

 どうしよう……!


「それで、本題なんだが……実は瀬名、お前の力を貸して欲しい」


 突然、真剣なトーンで話し始めた黒田。

 俺とリディアは顔を見合わせた。


「なあ、その……何で俺なんだ? メリルトライアドには、強い覚醒者がたくさんいるんだろ?」

「ああ、それについては否定しない。だが、今は繁忙期でな、主要メンバーは軒並み高レベルポータルの方に駆り出されてる。それで、俺みたいな新人が、低レベルのポータルを任されるんだが……、どうにもメンバーが揃わなくてな」


「でも、討伐なら参加を募集すれば集まるでしょ?」

 と、横からリディアが言った。


「そうすると、人数が増えて取り分が減るし、大勢の指揮ができる人間が必要になる。低レベルポータルのダンジョン攻略は、少数精鋭が一番旨味があるのさ。それに……、瀬名の強さは身をもって知っているからな」


 なるほど、こういう打算が見える方が黒田らしくて安心する。

 それに、利害が一致している間は変な気は起こさないはずだ。


 ただ、信用はできない。

 何か企んでいるかも知れないし、注意するに越したことはないだろう。


「そっちは黒田……、くんと誰が来るのかな?」

「黒田でいい、年も変わんねーだろ? ウチからはベテランの召喚師が一人だけだ。まあ、支援術師(エンチャンター)回復術師(ヒーラー)がいれば、そうそうやられることはないさ」

「召喚師……」


 ベテラン召喚師か……。

 メリルトライアドに入れるほどの人なら、同じ召喚師として参考になるかも知れないな。


「どうだ? 悪い話じゃないだろ? 報酬も綺麗に四等分するぜ?」

 黒田が両手を軽く拡げて見せた。


「でも……パーティーになるなら、デバフが……」

 リディアが心配そうな顔で言う。

「ああ、それなら、デュオ二組で入ればいいさ。俺のバフは全体に掛けられるし、その方が都合がいい」

「そうか、デバフは俺にだけ掛かるってことか」


 黒田の言う通り、悪くない話だ。

 高上さんにも言われたように、早く討伐を経験しておきたいのもある。

 それに、憑魔が魔物相手にどれくらい通用するのかも知りたい。


「ちょっと、リディアと相談させてくれないかな?」

「もちろん、じゃあ、俺はロビーで待ってる。終わったら声を掛けてくれ」


 黒田はそう言い残して、高密度ルームを出て行った。


「ユキト、どうするの?」

「俺は参加してみたいと思ってる、リディアはどう? 黒田が嫌なら断るけど……」

 訊ねると、リディアは小さく首を振った。

「大丈夫、ちゃんと謝ってくれたし……それに今後、ユキトと討伐に参加する練習になるじゃない?」

「そうだよね、よーし! じゃあ、やってみるか!」


 *


 俺達はロビーに向かい、ソファに座っていた黒田のところへ行った。


「お待たせ」

「終わったのか?」

 スマホを触っていた黒田が顔を上げた。


「それで……、どうする?」

「うん、参加することにしたよ」


「……そうか、なら、頼りにしてるぜ?」

 黒田が初めて歯を見せて笑った。

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