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世界最強の憑魔術師に覚醒したので第二の人生を楽しみます!  作者: 雉子鳥幸太郎
一章

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27/91

週末

 ――都内某スタジオ。


「はい、オッケーです!」


 撮影スタッフがリディアの元へ駆け寄る。

「おつかれっした! 本日は以上で終了っす! おつかれっした!」

 ペコペコと頭を下げ、スタッフはすぐに撤収を始める。


「リディア、お疲れ様」

「お疲れさまです」


 リディアのマネージャー、高上(こうがみ)さなえ。

 TickHunt(ティック・ハント)のヘッドマネージャーである彼女は、某大手芸能事務所からヘッドハンティングされた非覚醒者である。その手腕と女優顔負けの美貌には業界でもファンが多い。


「この後、ちょっと話せるかしら?」

「あ、はい、大丈夫です」


「じゃ、下で待ってるわね」

 高上はそう言うと、何人かのスタッフに挨拶をしてからスタジオを後にした。


 *


 高上の待つ車の後部座席の窓をノックした。

 すると運転手が降りてきてドアを開ける。


 車内には高上が座っていて、「送らせるわ」とリディアを招き入れた。

「すみません、ありがとうございます」

「ねぇリディア、あなたはそんな畏まらなくていいのよ? むしろ畏まるべきは私達の方だもの」

「いえ、そんな……」


 謙遜しようとするリディアに向き直り、高上は諭すように言った。


「そんなことあるの、いい? あなたは覚醒者で、回復術師(ヒーラー)、若くてルックスも素晴らしいものを持ってる、もっと自分の価値を認識してちょうだい」

「は、はい……」


「ったく、あなたって子は……、カメラの前じゃあんなに堂々としてるのに。いいわ、それより、ちょっと聞きたい事があるんだけど……」

「何でしょう?」


「あなた、瀬名透人って子と友達?」

「えっ……⁉ ユ、ユキトですか⁉」

 リディアは驚いたように訊き直した。


「そう、知ってるのね? 実は上から、その瀬名くんをウチにスカウトできないかって、しつこく言われてるんだけど……、どういう子なのかしら? 資料を見る限り……『召喚師(サモナー)』なのよね?」

「そう、ですね……確かに召喚師(サモナー)ですけど……」


「ふぅん……極端にルックスが良いとか?」

「確かに可愛い顔はしてるかなぁ……」


 リディアの言葉に、高上の眉がピクンと動いた。


「ねぇ、リディア、お願いっ! 瀬名くんに合わせて! このとぉーり!」

 高上がリディアを拝む。

「え? いや、流石にそれは……」


「お願いです! リディアさま! リディア神、いや、リディア大宇宙創造神さまぁ!」

「な、なんですかそれ⁉」


「ね? ね? 人助けだと思って……うぅ……あぁ! 持病の偏頭痛が……」

 涙ながらに訴える高上。

 リディアはため息を吐きながら額に手を当てる。


「もぉ~……頭上げてくださいって! わかりました! じゃあ、一応、聞くだけ聞いてはみますけど……」

「ありがとーーーっ! 愛してる!」


 リディアに抱きつき、キスをしようとする高上。


「や、やめ……やめてください」

「照れなくてもいいじゃない、ん~♥」

 運転手が何事かと、バックミラー越しに二人を見て赤面している。


「ちょ……ちょっとっ! もう、連絡しませんよっ!」

 リディアが高上を押し返す。


「はぁーい……」

 高上はしょんぼりとして大人しく席に戻った。


 *


 俺はテレビを消して、大きく息を吐いた。

「ふぅ~……」

 はぁ、まだ余韻が残ってるわ……アメドラ最高かよ。


 ごろんと横になって、スマホをいじる。

 あれからレベルも上がったし、リディアに成長した俺を見せたいよなー。

 早く二人でトレーニングしたいな……。


 連絡してみるか……?

 いや、しつこい男は一番嫌われるというじゃないか。

 ここは我慢だ。

 うーん……でも、メッセージくらいならいいかな?

 

 リディアのタイムラインを眺めていると、突然スマホにメッセージが届いた。


「リ、リディアだ!」


 リディア:お疲れさまー。ごめんね、急なんだけど、ウチのマネージャーがユキトに会いたいって言ってるんだけど……どうかな? 嫌なら全然断れるから、わたしに気を遣わなくていいよー。


「マネージャー?」


 脳裏には厳つい強面のおじさんの絵面が浮かぶ。

 いやいや、何年前の話だよ……我ながら古いな。

 でも……、一体、何の用だろう?


 ユキト:お疲れ様! えっと……、ほんとに俺? 何の用なのかな?


 すぐに返事が来た。


 リディア:芸能の仕事に興味ないかって。一回話だけでも聞いて欲しいみたい。

 

 芸能……。

 まさか俺にこんな日が訪れるとはな。


 うーん、興味が無いわけではない。

 だが、俺の性格上、無理だと思うんだよなぁ……。


 でもまあ、リディアの紹介だし、話だけでも聞いてみるか?

 ていうか、その時、リディアにも会えるしな。


 ユキト:リディアも一緒なら行ってもいいよ。


 ふー、ちょっとドキドキするな。

 スマホが鳴る。


「来た!」

 

 リディア:おっけー、ありがとね! じゃあ、今週末でよい?


「うひょ~、週末に予定ができるなんて、何年ぶりだっけ?」


 ユキト:いいよ、時間が決まったら教えて。

 リディア:ありがとー、あとで連絡するね。じゃ、楽しみにしてるね~!


「楽しみにしてる、か……むふふ」


 ベッドの上に飛び乗った俺は、枕を抱きかかえて身悶えながら、週末に想いを馳せるのであった……。

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