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世界最強の憑魔術師に覚醒したので第二の人生を楽しみます!  作者: 雉子鳥幸太郎
一章

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26/91

クラン

 家に帰った俺は、ベッドに倒れ込んだ。


「ふぅ~……疲れた」


『せいぜい自分を高く売るんだな――』

 黒田の言った言葉が脳裏をよぎった。


 高く売る……か。

 正直、覚醒者になってまで組織の一員になるなんてゴメンだ。

 まあ上位クランならではの特権があるんだろうけど……。


 起き上がり、テーブルの上のノートPCを開いた。

「クラン……クランっと」


〈20xx年12月版 国内優良クラン・ジャンル別パーフェクトランキング!〉


 お、こんなのあるんだな。

 サイトに飛ぶと、外資系クランBEST10が目に入った。

 ―――――――――――――――――

 1位 Morgan(モーガン・) Steins(シュタインズ・) Avalon(アヴァロン)(通称:M.S.A)

 所属するメンバーの大半がレベル50を超えた覚醒者という精鋭揃いのクラン。完全指名制で所属するにはクラン側からのスカウトを待つしかない。また、討伐を行う際には、ポータルごと権利を買い上げるため、当該クランの討伐に他のクランは参加できない。

 ―――――――――――――――――

 2位 CREDIT(クレディ・) WISE(ワイズ)

 錬金術師(アルケミスト)回復術師(ヒーラー)支援術師(エンチャンター)商人(トレーダー)魔術師(ソーサラー)鍛冶師(スミス)など、主に遠距離、生産系のクラスで構成されたクラン。他クラン討伐へのヘルプ派遣、討伐後の魔石、魔獣資源回収などをメインに活動をしている。

 ―――――――――――――――――

 3位 MERRILL(メリル・) TRIAD(トライアド)

 バランスの良いクラス構成、新人に対する報酬の水準は外資系一位と噂されている。世界各国の主要都市に支部を持ち、国家機関に匹敵する独自の情報網を持つ。日本支部長の泉堂氏は世界ランカーとして名を連ねている。

 ―――――――――――――――――

 4位 GUILTY(ギルティ・) ROCK(ロック・) BROTHERs(ブラザーズ)

 創始者の80$(エイティ・ダラー)貧民街(スラム)のラッパーだったというのはあまりにも有名。

 来る者拒まず去る者追わず、完全実力主義のクランで瞬く間に世界的クランへと急成長した。

 ―――――――――――――――――

 5位 …………


「ふぅん、メリルは三位なのか。黒田は報酬に惹かれたのかな?」


 次に国内優良クランのBEST10があった。

 ―――――――――――――――――

 1位 金曜会

 陸東、三海、出雲の旧三大財閥が主体となって創設したクラン。国内の覚醒インフラ事業を事実上独占、政財界に強い影響力を持つ。クラン内には絶対的なカーストが存在し、所属するには上位者の推薦が必要となる。

 ―――――――――――――――――

 2位 久我山精肉

 『あなたにミート』でおなじみの精肉業界最大手企業が運営する国内最大規模のクラン。報酬体系や、案件差配に独自のルールを設けており、新人からベテランまで、安心して活動できる体制が多くの覚醒者から評価されている。

 ―――――――――――――――――

 3位 TickHunt(ティック・ハント)

 覚醒者の芸能活動のマネジメントをメインとする新興クラン。所属覚醒者による討伐配信『秒で狩れ!』が人気。所属覚醒者の年齢層は他に比べて低め。

 ―――――――――――――――――

 4位 …………


「こんなにたくさんあるのかよ……」


 マウスを置き、俺は台所の冷蔵庫から缶ビールを取った。

 PCの前に戻り、ビールを呷る。


「くぅ~……うまい!」


 あ、そういやリディアはクランに入ってるのかな?

 今度聞いてみよっと。


「……」


 もう一本だけ飲もっかな?

 俺は再び台所へ向かった。


 *


 メリルトライアド所有のプライベート魔素(マナ)ルームの一室。

 目を閉じた泉堂が、気を練りながら黒田の話に耳を傾けていた。


「あ、あとは特に話していません」

 泉堂の練り上げる途轍もない気に当てられ、黒田の身体は自然と小刻みに震えている。


「……それで、勧誘もせずにそのまま帰したと?」

 ゆっくりと泉堂が目を開けた。

 黒田が息を呑む。

 泉堂の目は、まるで流体になった黄金が瞳の中で揺らめいているように見えた。


「そ、それは……その、彼はクランに入る気が無いようでしたので……」

「ああ、すまん、ハッキリ言わないとわからなかったかな」


「え……」

 戸惑う黒田に泉堂が金色の瞳を向けた。


「黒田くん、彼をメリル(ウチ)に引っ張ってきなさい」

「い、いや、それは……」


「ははは、『雨降って地固まる』という言葉があるじゃないか」

「支部長、彼は俺のことを良く思ってません、他の誰かに……」


 黒田がそう口にした瞬間、泉堂から溢れ出る気がさらに膨大なものになった。


「お前よぉ、さっきから聞いてりゃ、……メリル(ウチ)で何ができるんだ?」


 気の密度が高まり、黒田は押し潰されそうになる。

 立っているのもやっとな状態で、

「す……、すみません! す、すぐに、対処します!」と、頭を下げた。


 フッと、ルーム内に張り詰めていた緊張が解ける。

「くはっ……⁉ はぁ……はぁ……」

 黒田が膝から崩れ落ちた。


「黒田くん、支援術師(エンチャンター)と言えども、基礎訓練は大事だぞ?」

 にっこりと微笑む泉堂。


 泉堂の顔を見ることができずに、黒田はただ頭を下げ続けた。

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