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世界最強の憑魔術師に覚醒したので第二の人生を楽しみます!  作者: 雉子鳥幸太郎
一章

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25/91

逃げた先で

 え? やっぱり、黒田じゃん……。

 あいつ、こんな悪い連中と付き合いがあったのか。

 確かに職場でも、たまに見せる表情が怖い時があったんだよな……。


 人垣がサッと分かれ、その開けた道を黒田がゆっくりと歩いてくる。


「クロさーん! 待ってましたよ、いやぁ、忙しいとこすいませんっす!」

「いや……」


 黒田は俺とは目を合わせず、シュウに軽く手を向けて応えた。

 かなりアドレナリンが出ちゃってるのか、シュウはハムスターのように落ち着きが無い。

「おい! 余裕ぶっこいてられんのもこれで終わりだな!」

 と、俺に怒鳴ったかと思うと、

「どうします、クロさん? 俺ら何か手伝いますか?」と、黒田に向き直る。

「……あ、おぉ……そうだな……ん……」


 どうしたんだろう?

 黒田の様子が変だ。

 一向に俺に話しかけてこようとしない。


「ん、オホン! くろ――」

 俺が口を開こうとした瞬間、黒田が遮った。

「よーし! お前ら解散だぁ! 覚醒管理局が向かってると情報が入った!」


 え……管理局が⁉

 ど、どうしよう……。


「え⁉ ク、クロさん、マジっすか⁉」

「ああ、ウチのクランから情報共有があった、急がねぇとマズい……」


「わ、わかりました! こんなとこでクロさんの経歴にケチつけらんねぇっすもんね……」

「あ、あぁ、すまんが、今日――」

「俺らが管理局を食い止めてみせます! なぁに、大丈夫っす、管理局の下っ端に覚醒者は少ないっていいますし、いきなり覚醒者の職員を投入することもないっすよ!」

「ちょ、シュウ……」


 シュウは集まった仲間に向かって大声を張り上げた。

「よーしっ! お前ら、今がクロさんに男気見せる時だぞ! 管理局の奴らなんか、ぶっ殺してやれ!」


「「「おぉーーーーーーっ!!!」」」


 地鳴りのような雄叫びが響く。

 何だか知らないが、大変なことになってきたぞ……。


 ふと黒田を見ると、魂が抜けたようにぼうっと中空を見つめていた。

 どうしたんだ、黒田の奴……?


「おい、大丈夫か?」


 俺が話しかけると、黒田はハッと我に返り、何かを訴えるような目で俺を見る。


「ん?」


 さらにバチバチとウィンクをしてきたり、やはり必死に何かを伝えようとしている。


「なんだよ、それじゃわかんないし……」


 突然、黒田が俺に掴みかかってきた。

「わ⁉」

「揉み合う振りしてそこの窓から飛び降りよう」

 と、耳元で言う黒田。

「へ?」

「合わせろ」

 な、何だか良くわからないが……管理局に捕まるよりはマシか。

 俺は小さく頷く。


「うぉおおおおおおーーーー!」

 黒田が大袈裟に声を上げた。


「うぉりやあああーーーーー!」

 俺も黒田に合わせる。


「うっひょー! クロさんいっけーーーっ!」

「くーろーだ!」

「くーろーだ!」


 ギャラリーも俺達に気付き、歓声を上げた。


 少し離れた場所まで揉み合いながら移動し、

「5数えたらあの窓から飛ぶぞ?」と、黒田が早口で言った。

「大丈夫かな? 足の骨とか……」

「馬鹿か! お前覚醒者だろ!」

 黒田が声を押し殺しながら言う。

「いや、だって……」

「あーもう! 俺に任せとけ、いくぞ!」


「ぬぅおおおおおお!!!」

「うわぁあああああ!!!」


 俺達は激しく揉み合いながら――飛んだ。


「クロさん⁉」

「お、おい⁉ 落ちたぞっ⁉」


 *


 俺は黒田に案内され、廃ビルから離れた場所にある、小綺麗な建物の前に来ていた。


 しかし、びっくりしたなー。

 飛んだのも驚いたが、何より、自分のポテンシャルに驚いたのだ。

 あんな高いところから飛び降りても全然平気だし、ちょっと大袈裟だけど、スクーター並に足が速いんだもんなぁ……。


 黒田が建物のセンサーに指輪を翳した。

 ――ドアの鍵が開く。

 

 「入ってくれ」

 「あ、うん」

 

 中は高級マンションみたいなエントランスがあり、待機していた二人のコンシェルジュが、俺達を見て会釈をした。


「す、凄い……ここは?」

メリル(うち)の持ってるプライベート魔素(マナ)ルームだよ」

「え⁉ 自前で?」

 黒田は鼻で笑い、

「そりゃそうだろ、ウチは上位クランだぞ? これくらい当然じゃないか」と言う。

「そうなんだ……」


 俺はクラン事情と言うか、覚醒者事情を知らなすぎるな。

 今度ちゃんとネットで調べておこう。


 黒田がソファにドサッと座り、「珈琲、飲むか?」と俺に訊く。

「うん、ありがとう、頂くよ」

 そう答えると、黒田はコンシェルジュにアイコンタクトをする。

「まあ、座ってくれ」

 黒田の向かいに座ると、コンシェルジュが珈琲をテーブルに置いた。


 キョロキョロと辺りを見ながら、俺は珈琲に口を付ける。

 う、美味い! 流石だな、その辺のカフェより香り高いぞ。


「そのー、何だ、今日は迷惑を掛けて悪かった」

「……」


 珍しく殊勝な態度だ。

 職場でのこいつを知ってるだけに、少し違和感を覚えた。


「それにしても、あんな大事になる前に、お前なら追い払えただろ?」

 そう言って、黒田は珈琲をチビッと飲んだ。


「いや、相手は一般人だし、加減も難しいから……」

「ふぅん……。まあ、彼奴らには俺からちゃんと言っておく。お前のことは、泉堂さんから手を出すなと言われてるしな」


「そうなんだ、良かった」

 これ以上付き纏われたらたまったもんじゃない。


「それにしても……、まるで別人だな?」

 黒田が怪訝な顔付で俺を見る。


 あ、そうか……。

 確かに、あの時は憑魔してドSモードだったしな。


「ほ、ほら、あれは模擬戦だったしさ」

「ふーん、まあいいや。で? もう入るクランは決めたのか?」


「いや、そういうのは全然かな。まだ覚醒したばっかで良くわからないんだよね」

「はぁ? お前、折角覚醒したってのに……。いや、いいか。ま、好きにすればいいんじゃね?」


 黒田が小さく肩を竦め、少しの間、沈黙が流れた。

 先に口を開いたのは黒田だった。


「お前、召喚師(サモナー)だよな? この前のアレは、一体何なんだ?」

「俺もまだ良くわかってない」


 黒田は短く息を吐き、「そうか」と手を上げた。

「……今日の罪滅ぼしに一つ教えといてやる。いま、俺らの中じゃ、お前をどのクランが獲るのかで持ちきりだ。せいぜい、自分を高く売るんだな」


「え……」

「さて、あまり部外者を入れるとうるさい。悪いが帰りは自分で頼む」

 そう言って、黒田はコンシェルジュに目配せをして、奥に消えていった。


「お車をお呼びいたしますか?」

「あ、いえ、結構です」


 俺はコンシェルジュに見送られながら家路についた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 黒田くんの苦労人の側面。 登場から今までの態度も若気の至りの範囲内なのか
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