寂しい場所
すっかり寂しい場所に来てしまった……。
周りは雑居ビルの壁に囲まれていて、助けを呼んでも誰も来そうにない。
こういう場所って、本当にあるんだな。
「あのー、俺、何かしましたか?」
多分、この質問に意味はないと思うが、一応訊いてみた。
男はニヤニヤと笑みを浮かべ俺に顔を近づける。
「お兄さんさー、何? 随分、鍛えてるね? スポーツとかやってんの?」
「え?」
「え、じゃねぇよ、オラァッ!」
男がいきなり腹パンを入れてきた。
「――⁉」
な、なんだ⁉ 突然⁉
全然痛くないけど……目的は何だろう?
「へへへ……息ができねぇか?」
「え……?」
「お前みてぇな顔だけ野郎は、渋谷歩くんじゃねぇよ! ダッセぇコート着やがって!」
男のローキックが、ちょうど膝関節に入る。
かなり慣れた感じだ。多分、格闘技とかやってるんだろうな。
ヤバい、全然痛くない……俺、どうしちゃったんだろ?
ていうか、このコートダサいってマジかな……ちょっとショックなんだけど。
折角、色々ネットで調べて買ってみたのに……。
男は俺の正面に立ち、信じられないくらい睨んでくる。
凄いなこの人……、沸点低すぎじゃないか?
こんなんで、まともな日常生活を送れるんだろうか……。
などと考えていると、
「何、余裕こいてんだ! あ゛ぁ⁉」と、胸ぐらを掴んできた。
あぁっ⁉ このセーター高かったのに!
反射的に、セーターの首元を捻る男の手を反対に捻り返して押し戻した。
「なっ⁉」
男が体勢を崩して倒れる。
よし、この隙に……。
「あの、俺行きますね」
一応、一声掛けてから俺は路地を引き返した。
はぁ、災難だったな。
何で絡まれなきゃいけないんだよ……。
見た目がイケメンだから妬まれたのかな?
その時、急に目の前に五人組の男達が立ち塞がった。
「おいおい、何勝手に帰ろうとしてんだよ……」
「え、いや……」
随分、ガラが悪そうな連中だ。
金髪だったりスキンヘッドだったり、個性も強い。
半グレ? とか、そういう手合いなのかも知れないな……。
「おーい、シュウ! 何、こんな奴にやられてんだよ、ギャハハハ!」
「ホントだ、ダッセぇ! ハハハ!」
すると、シュウと呼ばれたさっきの男が立ち上がった。
「うっせぇ、やられてねぇよ……」
「で? シュウ、こいつどーすんの?」
「……オメーら見張ってろよ、俺がやる!」
いやいや、あの……シュウくん?
「ちょ、シュウ、マジになってんじゃん⁉ ウケんだけど!」
男の一人がからかうように言った。
「いいから、早く見張ってろって!」
シュウが声を荒げる。
「わーったよ」と、仲間がだるそうに手を上げた。
仲間は俺を指さし、
「おい、お前死んだぞ?」と頭がイカれたように目を品剥く。
「ククク……シュウはテコンドーで国体行ってっからなー、瞬殺だよ瞬殺! ギャハハ!」
このテンションは殺意が湧くな……んー、どうしたものか。
警察に行っても、調書とか後が面倒くさそうだし……。
「おい、死んどけや!」
振り返ると、シュウがハイキックを繰り出してきた。
咄嗟に腕でガードする。
派手な音が鳴るが……うん、やっぱ痛くない。
「チッ、ガードだけは一人前だな!」
そう言って、シュウは連続で蹴りを繰り出してくる。
蹴りを腕で受けながら、段々と理不尽さに腹が立ってきた。
俺が非覚醒者なら怪我だけじゃ済まないぞ……。
「ねぇ、理由もなく蹴ってくるってことは、俺も蹴って良いんだよね?」
「あ゛ぁ⁉ やれるもんならやってみろ! このカスが! 殺すぞ!」
じゃ、言質は取りましたってことで……。
俺は「ほい」っと前蹴りをシュウくんとやらの腹に入れた。
「――はうっ⁉」
シュウが吹っ飛んだ!
奥に集まっていたゴミ箱の中に派手な音を立てて突っ込む。
あー、ちょっとスッキリした。
でも多分、このくらいじゃ、シュウくんはすぐに起き上がってくるはず……。
「シュ、シュウ……⁉」
見ていた仲間達が声を上げた。
「お、おい⁉ や、やべぇぞ、何モンだこいつ……」
男達は遠巻きに俺を見ている。
その目には明らかな動揺が見て取れた。
よし、行くなら今だ――。
「悪いけど急ぐから、そこどいてくれるかな?」
なるべく余裕ぶって近づくと、男達はササッと道を空けた。
よしよし! 逃げるが勝ちだ!
俺は早足で路地を抜け、大通りに出て人混みに紛れた。
人の流れに乗り、後ろから誰も追いかけて来ないことを確認して、安堵のため息を吐いた。
「はぁ~……疲れた」
こういうのは忘れるに限るな。
さ、いい汗かいて、今日もレベル上げだ!
*
瀬名が立ち去った後、シュウの周りには仲間が集まっていた。
「おい、あいつ何モンだよ? シュウがここまでやられんの初めてじゃね?」
「誰かアイツ見たことあるー?」
皆、知らないと首を振る。
「クソッ! あいつ……ぜってー許さねぇ!」
シュウはゴミ袋を蹴った。
「どうすんだよシュウ?」
「……クロさん呼ぶわ」
「マジかよ⁉ それは……ちょっと……」
「おいおい、熱くなりすぎだって……」
周りの仲間がシュウを宥めようとした。
「うるせぇ! あいつ、普通じゃねぇ……覚醒者だ。じゃなきゃ、俺のロー喰らってノンダメとかありえねぇ!」
「か、覚醒者⁉」
「や、やべぇんじゃね……?」
シュウはビビる仲間に向かって、
「おい、下のモンに言って、その辺の魔素ルーム張らせとけ!」
と、怒鳴りつけた後、スマホを取り出して電話を掛けた。
「あ、もしもし……、はい、俺っす、あ、すみません、ちょっと緊急で……はい、いや、クロさんにお願いがありまして……」
*
俺はトレーニングを終え、魔素ルームを出た。
外はもうすっかり暗くなっていた。
さーて、今日は帰ってアメドラの続き見ないと……。
レベルも上がったし、この調子で基礎レベルを上げていけば、悪魔の力をもっと引き出せるはず。
召喚できる悪魔も増えるかも知れない。
ていうか、悪魔が全員美少女とは限らないよな……ちょっと不安になってきた。
仮に怪物みたいな悪魔が出て来たとして、そいつを憑依させるにはやっぱりキスしなきゃ駄目なんだろうか……。
「むぅ……」
と、その時――。
「おい! 見つけたぞ!」
振り返ると、お昼に絡んできたシュウくんが、大勢仲間を引き連れて立っていた。
おいおい、マジかよ……アメドラ三昧の予定が……。
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