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世界最強の憑魔術師に覚醒したので第二の人生を楽しみます!  作者: 雉子鳥幸太郎
一章

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21/91

麻布

「さて、と……」

 グロスを塗り、髪を結びなおした私は入口へ急ぐ。

 模擬戦の帰りに、麻布のカフェに行かないかとユキトを誘ったのだ。


「お待たせー」

「あ、うん」


 魔素(マナ)ルームから出て、駅へ向かう。

 二人で並んで歩いていると、カフェに誘った時、恥ずかしそうに、あー、とか、うーとか唸ってたユキトを思い出して、思わず笑ってしまった。


「どうしたの?」

「ううん、何でもないよ」


 それにしても、ホント男の子なのにかわいい顔してるなー。

 スタイルも良いし、絶対モデルやれば人気出ると思うんだけど……。


「ねぇ、ユキトって覚醒する前は何してたの? あ、学生?」

「え? あー、うん、そのー、バイト……かな」

「あ、フリーター?」

「そ、そうそう! フリーター! あははは……」


 こうやって話してると模擬戦の時とは人が違うみたい。

 あの時は、なんか結構オラオラ系になってたし……。


 じーっとユキトを見ていると、

「ちょ、そんなに見られると恥ずかしいよ」と顔を赤くする。

 えー、何か、かわいいんですけど。

 オラオラ系なユキトも格好よかったけど……んー、こういうギャップ弱いなぁ。


「あ、このお店、すごく素敵でしょ? この前、撮影で使ったんだー」

「へ、へぇ……」


 私達は店内に入り、席に座った。

 珈琲の香りがとっても落ち着く。

 ふと、ユキトを見ると、なぜかガチガチに緊張していた。


「ちょっと、ふふふ、何でそんなに緊張してるの?」

「い、いや、こういう場所は初めてなので……」

「うっそ⁉ ユキトってモテるでしょ? 彼女とか女友達と来たことないの?」


「あ……うーん……その、そういう機会がなかったし、彼女もいないから……」

 え、うそでしょ? 彼女いないんだ……!

 あれ、私……。

 

「へ、へぇー、そうなんだ」


「うん……」

「……」


 え、何これ……ドキドキするんだけど⁉

 もしかして私……、いやいや、確かにユキトは可愛いし格好いいし、スタイルも良いし、覚醒者だし、私とデュオを組んでくれるけど……。

 あ、これ、駄目なやつだ……なんだか私も緊張してきちゃった……。


 二人で少し俯きながら、私はキャラメルマキアートを、ユキトはカフェラテを飲む。

 ユキトは落ち着かない様子で、キョロキョロと店内を見渡している。

 私も気を紛らわそうと店内に目を向けると、少し離れた席の二人組の女の子が、ユキトを見て目をキラキラさせているのがわかった。


「チッ……」


「リ、リディア?」

「あ⁉ ご、ごめんね、何か嫌なこと思い出しちゃってつい……」


「い、いや大丈夫だけど、仕事とか大変なの?」

 ユキトが心配そうな顔で私を見た。


 ――えっ⁉

 ユキトと目が合った瞬間、心臓を掴まれたような気がした。

 な、何で? 今まで平気だったのに⁉

 どんどん顔が熱くなっていく……。


「……リディア?」

「う、うん、大丈夫、ちょっと熱っぽいのかな~?」

 その時、後ろの方の席から声が聞こえてきた。


『ちょ⁉ あれって、湊リディアじゃない?』

『わ! マジだ……、え、え、ちょっとあれ彼氏? ヤバくない⁉』


 うーん、ちょっと声が大きいわね。

 私は慣れてるから平気だけど、ユキトに悪いかな……。


 そう思っていると、ユキトが突然顔を寄せ、小声で囁いた。

「ね、リディア、歩きながら話さない?」

「え……」

「ほら、後ろの人、リディアに気付いちゃったみたいだし……」

「べ、別にそんなの気にしなくていいよ?」

「駄目だって、俺のせいで芸能活動に迷惑掛けたくないしさ、行こ?」

 そう言ってユキトが申し訳なさそうに微笑んだ。

 もー無理っ、ドキドキがとまんないじゃん!!


「う、うん……、わかった」


 二人で店を出て、私はそのままユキトの手を握った。


 ユキトは少し驚いた顔をして、

「手、握るの二回目だね……」と照れくさそうに微笑んだ。


「ううん、一回目だよ。あの時とは全然意味が違うから」


 そう答えて、私はユキトの顔を見ずに手を引いた。


 *


 魔素(マナ)ルーム近くの車道脇に、黒いSUVが停まっていた。

 車内ではビジネススーツ姿の二人組の男達が、コンビニのおにぎりやサンドイッチを食べていた。


 運転席の男がおにぎりを頬張りながら、サイドミラー越しに瀬名とリディアの姿を確認する。

 ――男のスマホが震えた。

 画面には『斑鳩(いかるが)』と表示されている。

 男は一瞬、眉根を寄せ、お茶でおにぎりを流し込むと画面をタップした。


『どうだった、(いぬい)?』

「ええ、確認しました、対象は『憑魔』と言っていましたが……詳細は不明です。現時点では、S級と判断することはできませんでした。一応、憑魔時の簡易測定のデータが取れましたので送っておきます」

『……そうか、ご苦労。では対象の監視レベルを一段階上げ、Cとする。引き続き監視を続けてくれ』

「了解しました、レベルCへ移行します――」


 助手席から通行人の若い女性を目で追っていた茶髪の男が、

「乾さん、見ましたあの子⁉ 胸元こんなんですよ⁉ ぐわーって、ここまで開いてましたよ」と、騒ぎながら胸を手で指し示した。


「黙れ」

「いや、聞いてました? こんなんですよ⁉」

 若い男は全く動じず、しつこく胸元にUの字を書くジェスチャーを続けている。


 乾は助手席に腕を回し、

「近藤、いいか? お前も聞いてただろ? いま、課長が何て言った?」と鋭い目を向けた。

「えっと……Cへ移行ですよね」


「わかってるなら、真面目にやれ」

「……はーい、わかりました」

 近藤はつまらなさそうに返事をすると、スマホを弄り始める。


「そういや、あの子かなり体格良くなってましたよねぇ、ホント覚醒者って恵まれてるなぁー」

「ま、俺らみたいな非覚醒者(ノーマル)と比べてもな……。こればっかりは、羨んでもどうしようもないぞ?」


「それはわかってますけど……、僕がこのレベルまで身体作るのに三年は掛かったって言うのに……、たったの一週間やそこらで一流のアスリート並ですよ? はぁ……僕も覚醒したいなぁ~」

 口を尖らせながら、近藤は頭の後ろで両手を組んだ。


「無い物は仕方がない、欲しがるだけ時間の無駄だ――」

 乾はそう言って、車を発進させた。

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