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世界最強の憑魔術師に覚醒したので第二の人生を楽しみます!  作者: 雉子鳥幸太郎
一章

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20/91

ランカー

「ひ……な、何なんだお前は……」


 黒田が尻餅を付きながら後ずさる。

 その姿を見て、俺は大きくため息を吐いた。


「あのさー、今更ビビったって遅いんだよね?」

「く、来るな! わ、わかってんのか⁉ 俺はメリルトライアドだぞ!」


「……」


 思えばこいつとも知り合ってから随分と経つ。

 大勢の同期の中で、結局残ったのは俺と黒田だけだった。


 いつも要領が良くて、面倒な案件は上手い具合に押しつけてくる。

 腹が立たなかったわけじゃないが、こいつには、そういう空気を強引にうやむやにしてしまう才能があった。


 ――ま、そんなことはどうでもいいか。

 こいつが、俺とリディアに対して、どういう態度を取ったのか――、それが全てだ。


「なぁ、ちょっと訊くけどさ、俺が逆の立場なら許した?」

「そ、それは……まあ、俺は……よ、弱い者いじめはしないからな!」

 腰抜かしてまで、良くこんな偉そうな態度取れるよなぁ……、マジで感心するわ。


「クックック……よく言うよ、あれだけ大口叩いて見下していた奴がさー、許すわけないじゃん? 喜んで足蹴にするでしょー? 適当なこと言ってると知らないよー?」


 あれ? 俺ってこんなキャラだっけ……。

 やっぱり憑魔の影響か?

 まあ、いいや、どうせ許すつもりもないし。


「し、しねぇよ! 悪趣味な……ぐわっ⁉」


 俺は黒田の肩に足を乗せた。


「へぇ……、じゃあ、上位クランの名前チラつかせて、脅迫まがいの対戦仕組んで言うこと聞かせようとするのは?」

 じっと、黒田の震える瞳を覗き込む。

「悪趣味だろ?」

「クッ……」


「クッ、じゃねぇんだよ――」

 俺は黒田の股の間の石畳を踵落としで撃ち抜いた。

 黒田の鼻を掠め、床には大きな穴が開く――。


「ひ……あ……」


 黒田が真っ青な顔でガクガクと震えていた。

 俺は耳元で囁く。


「二度とリディアに近づくな……次は必ず殺すぞ?」

「あ……う……うぅ……」

 言葉にならない声をあげながら、黒田は何度も頷いた。


「よし、じゃあ俺達の勝ちってことで、リディ――」


 振り返ろうとしたその瞬間――、突然黒いスーツ姿の見知らぬ男が斬り掛かってきた!

 俺は咄嗟に剣を躱し、リディアを庇う。


「へぇ、やるねぇ……?」


 男は緩いクセ毛で無精髭を生やしている。

 古い探偵映画に出て来そうな、どこか飄々とした独特な雰囲気を持っていた。


「あんたは……誰だ?」


 男はゆらりと黒田の前に立ち、俺を見据える。

 一見、優しげな顔付きだが、その眼光は鋭く研ぎ澄まされていた。


「私はメリルトライアド日本支部を任されている泉堂(せんどう)だ――」


「やばいよユキト、あれ、ランカーだよ」


 リディアが慌てて俺に耳打ちをした。

 その声は微かに震えている。


「ランカー?」


 まさかランカーをこの目で見ることになるとは。

 覚醒者の中でも特に優れたスキルを持つ上位100名――。

 昔はフォーブス誌の特集は資産家ランキングだったが、今じゃ覚醒者ランキングがメインだ。


 え? てことは……、この男は、そのランキングに入ってるってことか。


「ウチの馬鹿共がお世話になったね、こいつらには私から言っておくから、この辺で許してやってもらえないかな?」

 張り付いたような笑みを浮かべる泉堂。


「……」

 嫌な笑い方だ。

 目が線みたいに細く、表面上は笑っているように見えるが……、本当のところは全く読めない。


 どうする? いっそのこと、こいつもここで……いや、これ以上目立っても仕方ない。

 相手はランカーだ……、いくら憑魔の力があるとは言え、俺には経験が足りなさすぎる。

 相対的な力量を推し量ることができない以上、無闇に戦うのは愚策か……。


「そもそも、最初に絡んで来たのはそっちだ。二度と俺達に手を出さないと約束してくれ」

「ははは、いやぁ~すまないね。じゃあ、これで手打ちってことで……、おい! 安本ぉっ!」


 突然、泉堂は安本を怒鳴りつけた。

 ぐったりと俯いていた安本が飛び起きる。


「は、はいっ!」

「なんだ、動けるのか? ははは! 駄目じゃないか、動けるのにお前……、何やってたんだ?」


 突然真顔になった泉堂が、黒剣を横一文字に振る。

 安本が真横に吹っ飛び、壁に激突した。


 一瞬だが、剣筋が見えなかった……⁉

 これがランカーの実力⁉


「ひ……す、すんません! すみませんでした! 泉堂さん、勘弁してください!」

 完全にパニクった黒田が、涙目で頭を床にこすりつけて許しを乞う。


 だが、泉堂はまるで黒田が見えていないかのように、相手にしない。

 ゆっくりと安本の方へ歩いて行く。


「安本ぉっ!!」

 ビクンッと安本の身体が震える。

 だが、既に動けないほどのダメージを喰らっているのだろう、顔を上げることさえ出来ないようだ。


「おい、ウチの盾役(タンク)がこれくらいで効いたフリしてんじゃねぇ」

「う、うぅ……ててて」

 泉堂の言葉に安本が立ち上がった。


 おいおい、あれ喰らって起き上がれるのか?

 信じられないほどタフな奴だな……。


 もしかして、俺の攻撃も効いてた振りをしてたのか?

 胸の奥にチロッと種火が燻るような苛立ちを覚えた。


 もっと、徹底的に痛めつけてやれば良かったか……。


「ったく、新人連れて、何を遊んでんだ? いくぞ、調布でポータルが開いた」

「は……はい!」


 泉堂は安本に背中を向け、出口に向かう。

 黒田の前を通り過ぎた後、俺の方を見て、「君のクラス、随分と変わってるよね?」と訊ねてきた。


「……」


 俺が答えずにいると、泉堂は小さく頭を振った。

「嫌われちゃったかな? じゃあ、名前くらいは聞かせてくれるかい?」


「……瀬名」

「瀬名くんか、覚えておくよ」


 泉堂は意味ありげな笑みを向けると、そのまま演習場を去って行った。

 ボロボロになった安本は足を引きずりながらも、黒田に「いくぞ」と声を掛けて泉堂の後を追う。

 黒田はこっちを見ようともしなかった。


 ふぅん、やっぱクランとか面倒くさそうだな。

 覚醒者になってまで上下関係とか俺には考えられない。


 恐らく、憑魔を使って間もない俺では泉堂に勝てないだろう。

 俺自身、もっと憑魔の力を知ることが大事だな。

 当面は、積極的にレベルを上げてみるか……。


 ――憑魔を解く。

 後ろからリディアが飛びついてきた。


「おわっ⁉」

「やったね、すごいよ! メリルトライアドの重戦士相手に勝っちゃった!」


「ま、まあ、憑魔のお蔭というか……、とにかく、これで当分は彼奴らも絡んで来ないだろう」

「うん! ありがとね、ユキト」


 ニコッと笑うリディアの可愛さに思わず頬が緩む。

 心なしかリディアとの距離が縮まった気がするぞ。

 帰りに手くらいは繋げたりして……。


 俺はそんなことを妄想しながら、リディアと演習場を後にした。


ちょっとでも興味を持ってくれた方……、モチベアップになりますので、

ぜひブクマや下の星から応援のほど、よろしくお願いします!


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― 新着の感想 ―
[良い点] そうかー、しばらくはパートナーには憑魔の儀式はナイショですか。 でも、観戦野次馬には見られてるはずですから妙な噂になっても自業自得かな
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