表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/91

模擬戦

 ――模擬戦当日。

 俺とリディアは魔素(マナ)ルームの中央ロビーに向かった。

 ロビーに着くと、既に黒田と安本が待ち構えていた。


「ほぅ……逃げなかったのは褒めてやる」

 安本が微笑むと、隣に居た黒田が高圧的な態度を見せた。

「おい、わかってんだろうな……あんだけデカい口叩いたんだ、いまさら謝っても遅せぇぞ?」


 周りには、好奇心丸出しの野次馬が集まり、俺達の一挙手一投足に好奇の目を向けている。


「いいんですか? 僕らに負けたら……それこそメリルトライアドの看板に傷が付きますよ?」


 俺の言葉に場が凍り付く――。

 その空気をかき消すような、安本の豪快な笑い声が響いた。


「何を言うかと思えば……、わかったわかった、雑魚扱いしたのは謝罪しよう。だが……お前はメリルの名を出した。もう、手加減は一切なしだ、今日、ここで――潰す!」


 安本から凄まじい気迫を感じた。

 内臓を素手で掴まれているような感覚に襲われる。

 くっ……威圧のつもりか。

 憑魔していない状態だと、かなり効くな……。


「演習場に行くぞ」


 安本はニヤリと笑い、黒田と奥へ向かう。

 俺とリディアは顔を見合わせて、その後に続いた。


 *


 演習場に入る。

 何も無い石畳の空間――、スキルブースで見た景色と全く同じだ。


 この一週間の練習は無駄では無かった。

 自分でも不思議なくらいリラックスできている。


 演習場を取り囲む壁の窓から、数え切れないほどのギャラリーがこっちを覗いていた。

 まあ、相手は有名クランのベテラン重戦士(ヘヴィウォリアー)と、注目の新人支援術師(エンチャンター)

 それに引き換え、こっちは訳あり美少女回復術師(ヒーラー)と、無名の新人か……。

 見世物としては面白い組み合わせだろうな。


「ユキト、予定通りでいいわね?」

「ああ、お――」

 言葉に詰まる。

「どうしたの?」


 ま、待てよ……、憑魔するってことは……リディアの前でエロ悪魔とキスしないといけないんだよな?

 やばい……全く考えてなかった。

 流石に目の前では……。


「あ、いや……」


「何をごちゃごちゃ……来ねぇのならこっちから行くぞ! 黒田ぁっ!」

「はいっ!」

 安本の怒号に黒田が反応した。

 パッと後ろに飛び退き、両手を前に出す。


『――全体強化(オール・ブースト)!』

 安本の身体から青いオーラが立ち昇った。


「むぅん!」

「――ぐはっ⁉」

 次の瞬間、俺は安本のショルダータックルを喰らい、壁に激突していた。 


 や、やべぇ……身体に力が入らない。

 感覚が麻痺しているのか、耳鳴りだけが聞こえている。


「ユキト⁉」


 咄嗟にリディアが治癒(ヒール)を掛けてくれた。

 ――身体に感覚が戻る。


「ほらほら、どうした僕ちゃんよぉ……まだ一分も経ってねぇぜ? メリル(オレら)を舐めてるからそんな事になるんだよ、ククク……」

 安本は拳を鳴らしながら、ニタニタと笑っている。


 クソッ……。

 俺は口元の血を拭い、起き上がった。


「リディア、俺が良いと言うまで目を閉じてくれ」

「え? ちょ、何言って……」

「頼む」

「わ、わかったわよ……」


 リディアが目を閉じた。


「おいおい、さっきからふざけてんのか?」

 安本が近づいてくる。


 ふん、せいぜい吠えてろ……。

 俺はスキルを発動する。


『――ソロモンズ・ポータル!』


 突如現れた黒い空間に、安本と黒田の顔色が変わった。

 周りのギャラリーからも、どよめきのような声が漏れている。


「な⁉ 何だ……これは⁉」


「――来い、アスモデウス!」


 突如、ポータルの闇から現れ出た妖艶な悪魔の姿に、安本達は言葉を失っている。


「な……何だあの女は……」

「召喚⁉ 魔獣、いや……魔人? まさか、こんなスキル見たことねぇぞ⁉」


 アスモデウスは安本達には目もくれず、

「ふぅ……、おぉ主、少しは成長したようだな」と俺の側に来た。


 レベルが上がっているからな、恐らくアスモデウスの力も以前より引き出せるはずだ。


「いいから、早く」

「ほぅ、強引なのも嫌いではないぞ……?」

 俺はアスモデウスを引き寄せ、唇を奪った。


「はぁ⁉ おいおい、何を……」

 安本と黒田が呆れた声を上げる。


「ん……はぁ……」

 アスモデウスの口から甘い吐息が漏れた……冷たい舌が蛇のように絡まってくる。

 そして、俺達はひとつになった。


 ――身体の中心から力が漲り、全身に紋様が浮かぶ。

 俺は口元を拭いながら安本達を見据えた。


 不思議だ……。

 俺は元々争いごとが好きじゃない。むしろ、苦手で敬遠してきたような人間だ。


 だが、今はどうだ?

 目の前の安本や黒田を見ていると、サディスティックな感情が湧き上がってくる。

 これもアスモデウスの影響なのだろうか……?


 気を抜くと、二人を無茶苦茶にしてしまいそうだ。

 暴力的な衝動に思わず身震いをした。


「あ、紅い眼……?」

「な、何なんだよ……あいつ……」

 理解が追いつかないのか、安本達は戸惑っているようだった。


「リディア、もういいぞ。……憑魔、完了だ」


 さすがに安本はベテランだな、既に俺の内包する殺気に反応して身構えている。

 あぁ、あの顔……、さっきまであんなに高慢な表情で俺を見下していたのに……。それがどうだ? 少し自分達の理解を超えただけで、必死に虚勢を張っているじゃないか。


「クックック……」


 可笑しいなぁ……、笑っちゃうよ……。


 ――どっちから潰してやろうか?


 おっと……、やっぱり気を抜くと、どうも攻撃的な思考になってしまうな。

 やり過ぎると面倒だ、ほどほどに勝って早く終わらせてしまおう。


「や、安本さん……あれは一体……」

「うるせぇ、俺が知るか! いいか、黒田? 魔物はなぁ、自分のことなんてわざわざ教えてくれねぇんだよ!」


『――戦士の咆哮(ブレイブ・シャウト)!』

 赤い燐光が安本の身体を包んだ。


 へぇ、重戦士のスキルかな?

 急に安本から感じる圧が上がったぞ……。


「そこでよーく見てろ……黒田。相手が何だろうと関係ねぇ、俺より強いか弱いかだ!」


 安本が動いた!


 速い――! が、見え方が違った。

 全てが見えている。


 決してスローモーションで見えるとか、そういうことではない。


 安本の繰り出す右ストレートが内包する動き……。

 筋肉の収縮する様、血管の中を流れる血液の流れ、そういった全てを含めて――見えている。


 故に、速さは関係なかった。


 圧倒的能力の差。

 これが悪魔という規格外の存在の力なのか。


 素晴らしい、これなら俺でも……。


「ぬぉおーーっ!!」

 迫ってくる拳がとてつもなく大きく見えた。


 まともに喰らったら命を落としかねない威力だろう。

 憑魔していなければ、とてもじゃないが安本には勝てない。


 次の瞬間――、拳が俺の顔面にクリーンヒットした!


 だが、今の俺には届かない。

 ダメージを受けるまでには至らない。

 防弾硝子越しに殴られているように、最早、避ける必要すらない。


「おらおらおらぁっ! どうした⁉ こんなもんか、おらぁっ!!」


 一発、一発が大金槌でも振るわれているような威力だ。

 ドンッ! ドンッ! と、大気が振動する。

 巨大な拳の雨が俺を容赦なく撃ち抜いた。


「や……やめてーーーーーーっ! ユキトーーーーーっ!」

 リディアの悲痛な叫びが聞こえる。

 俺が安本に殴られ続けているように見えているのだろう……。


「ハーッハッハ! 大口叩いてようが、所詮はこんなも――⁉」


 咄嗟に安本が攻撃を止め、バックステップで後方に下がる。


「て、てめぇ……何をしやがった……」


 足下に赤い点が拡がる。

 安本の拳は血まみれになっていた。


「や、安本さん⁉ どうしたんですか⁉」

「邪魔だ……お前は下がってろ!」


 駆け寄ってくる黒田に、安本は追い払うように手を振った。

 血飛沫が石畳に飛び散る。


「は、はい……」

 黒田はゆっくりと後ずさった。


 さて……どうするかな。

 ま、黒田は後回しでいいか。


「リディア、こいつの拳を治してやってくれ」

「え⁉ ちょ、ちょっとユキト、何いってるの?」

 困惑するリディア。


「な……何だてめぇは? 頭でもおかしくなったのか?」

 安本は訳がわからないと言った表情を向ける。

「あー、いいからいいから」

「ほ、ほんとに良いのね?」

 俺が頷くと、リディアが安本に治癒(ヒール)を掛けた。


 怪我が治った安本は拳を鳴らした後、

「何のつもりか知らねぇが……、礼は言わねぇぞ?」と凄んだ。


「はは、何回拳を鳴らすんだよ? 礼なんて必要ない――。あんた、これで言い訳できないだろ?」

 そう言って俺は薄笑いを浮かべた。


「な⁉ て……てめぇ……ぶっ殺してやる!」


 意外と安い挑発に乗ってくるんだな。

 ガイドにはタンクって冷静さを求められるポジションとあったが……。


 挑発に乗った安本がショルダータックルを繰り出す。

 よし、ちょっと動けないくらいを狙って……と。


 俺は安本のボディに一発入れてみた。

 拳が肉にめり込む感触に、思わずゾクッとするほど甘美な快感が走った――。


「――ぶごぉっ⁉」


 安本の巨体が吹き飛び、壁に激突した。

 壁に蜘蛛の巣状の亀裂が走り、安本はそのままぐったりとして動かなくなった。


 あら……ちょっとやりすぎたか⁉


更新を待ってくれている方、

ブクマや下の【★★★★★】をポチッと応援していただけると嬉しいです!!

作者のエネルギーになります!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 右目が疼いてきそうw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ