もうひとつのクラス
「いい? まずは高密度ルームで基礎トレーニングをする事で、身体能力を常人のアスリートレベルにするからね」
「そ、そんなことできるの?」
リディアからミネラルウォーターのペットボトルを受け取りながら答えた。
「もちろん、今日中に行くわよ」
「え⁉ そんなに早く?」
「覚醒すると身体が変わるのよ、実際やってみればわかるわ。さ、もう一度走るわよ」
「可愛い顔して鬼だな……」
「何か言った?」
「いや、何でもない」
俺はランニングマシンに乗って、再び走り始めた。
設定速度は15㎞、恐ろしく速い。
が……俺の身体に異変が起きていた。
さっきはあんなに苦しかったのに、不思議と息が苦しくない。
それに、鉛のようだった足も、嘘みたいに軽くなっていた。
「こ、これは……」
「ね? できる気がしてきたでしょ?」
目の前の鏡越しにリディアが笑った。
俺は揺れる胸元に目が行かないように必死で堪えた。
「すごい! これならいくらでも走れる!」
「そう、良かった。じゃあ、ここからが本番だからね?」
リディアは悪戯っぽく笑って、俺のマシンの速度を25㎞に上げた。
「え⁉ ちょ……」
あ、足が……。
「はーい、今から5分おきにステータス可視化をすること!」
「ひぃいいいいいい!!! やっぱ鬼だったぁああ!!!」
――五分後。
「ストップ! はい、可視化!」
「は、はい!」
俺はステータス可視化を行う。
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年齢:18 名前:瀬名 透人
レベル:2
異能区分/E 召喚師
HP:94 MP:63
筋力:8 体力:8
知能:6 抵抗:6
反射:5 精神:6
スキル:ステータス可視化 LV.2
:ソロモンズ・ポータル LV.1
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配分可能なポイント:5
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「あれ、可視化はまだ2だけど、レベルが上がってる……」
「私の経験だと、10くらいまでは簡単に基礎トレーニングで上がったかな」
「そうか……。なら、スキルの力を理解してからポイントを振り分けた方がいいな」
伸ばすべき方向を知らない事には始まらない。
先に体力や知能に振るのもアリだとは思うが、模擬戦まで時間は限られている。
ここは一ポイントも無駄にしたくない。
「へぇ、なかなか抜け目ないのね?」
クスッと笑うリディア。
何気ない表情にドキッとさせられる。
よくよく考えてみれば、こんな綺麗な子と二人っきりなんて……信じられないな。
覚醒して若返ったとはいえ、自分がこんなに物怖じせずに話せているのが不思議だ。
それに、目に見えて自分の力が上がっていくのは気持ちが良い。
そう思うと俄然やる気が湧いてきた。
「どうしたの?」
「いや、別に。よし! もう5分行くぞ!」
俺は自分からマシンに飛び乗り、再び走り始めた。
*
二時間ほどトレーニングを続け、ステータスを確認すると、ステータスに変化があった。
「あ……全部見えてる」
「やった! 可視化レベル3行ったのね?」
リディアがランニングマシンから降りて、俺の側に来る。
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年齢:18 名前:瀬名 透人
レベル:5
異能区分/E 召喚師/憑魔術師
HP:94 MP:63
筋力:8 体力:8
知能:6 抵抗:6
反射:5 精神:6
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〈パッシブスキル〉
・使役魔の手綱 LV.1
LVが上がる程、高位の悪魔を憑依させることができる。
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〈スキル〉
・ステータス可視化 LV.3(Max)
自身のステータスをフルオープンにできる。
・ソロモンズ・ポータル LV.1
自身で創り出したポータルから悪魔召喚が可能。一度に召喚できる個体数及び種別は術者の力量により変化する。
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配分可能なポイント:25
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「どう? 何て書いてあるの?」
「何かクラスが変わってる……召喚師ともう一つ『憑魔術師』って書いてあるんだけど……」
「もう一つ……?」
俺はリディアにステータスを説明した。
「うーん……、どういうことかしら……」
顔を見合わせたまま、俺とリディアは、お互い困惑した表情を浮かべた。
「あ、えっと……とりあえず、スキルブースで試してみましょ?」
「そ、そうだね」
俺達は高密度ルームを出て、スキルブースに向かった。