霊視
「ユ、ユキト……、そろそろ離してもいいかな?」
頬を赤らめたリディアが上目遣いで言った。
「あ、ご、ごめん!」
あまりの心地よさに勝てず、つい……。
「ううん、べ、別に、手くらい平気なんだけどね」
リディアは慌てて手を振った後、
「そ、それより、やるからには勝たなきゃだし……、あ、そうだ、ユキトのクラスまだ聞いてなかったよね?」と訊ねながら、髪を後ろでくるくるっと纏めた。
「ああ、俺は召喚師だよ」
「え゛……⁉」
答えた瞬間、リディアから変な音が漏れた。
「ど、どうしたの?」
「んーっと……ごめんユキト、正直に言うわね。残念だけど召喚師じゃ……まず、勝てない……かなーって」
「……勝てない?」
リディアの話によれば、召喚師は世界的に見てもハズレだと冷遇されているクラスだと言う。
何でも召喚師が召喚できるのは、マンガやアニメみたいな派手な魔物ではなく、せいぜい大型犬程度の魔獣らしい。しかも、個体差はあるが概ね戦闘力が低く、アイテムや魔石を回収するくらいにしか使えないそうだ。
正直、やっぱりか、という感想でしかない。
元々覚醒する前から、人生なんてものに期待はしていなかった。
まあ、残念だと思うが……、俺からすれば覚醒しただけでも十分チートな高待遇だし、以前の何倍もの収入を得られるのだ、これ以上望めばバチが当たるってもんだ。
「マジか……知らなかったなぁ。教えてくれて助かったよ」
「で、でもね、召喚師でも討伐で活躍している覚醒者はいるし、何か特別なスキルでもあれば……」と、フォローするようにリディアが付け足した。
特別なスキルか……。
そう言えば、俺のスキルってどんな力があるんだろう?
「そうだ、俺、ステータス可視化持ってるんだけどさ、まだLV2だから……自分のスキルがどんなものかわからないんだよね」
「そうなの? あたし見てあげよっか?」
「え、リディアって鑑定持ちなの?」
「へっへーん、回復術師には〈霊視〉ってスキルがあるのよ。ま、鑑定ほどじゃないけど……、ユキトは私よりレベルが下だし大丈夫だと思う」
「じゃあ、お願いしよっかな」
「オッケー、任せて」
すると、すぐにリディアの右眼の瞳が銀色に染まった。
「へー、18? 一コ下なんだね。ステータスはレベル1だし、こんなもんかなぁ……、スキルは……え⁉ な、何、これ……⁉」
リディアの眉間に皺が寄った。
「どうしたの?」
「……いや、うん……、こんなの初めて見たから……」
「え?」
「このソロモンズ・ポータルって……聞いたことないけど……。え、ちょっと待って、これって、固有スキルじゃない⁉」
「いや、俺に聞かれても……」
リディアの瞳の色が元に戻った。そして、真剣な表情で俺を見つめた後、
「固有スキルって世界中の覚醒者の中で、その人だけに発現するスキルのことを言うの」と言った。
「……俺だけの特技みたいなもの?」
「ええ、固有スキルって強力なものが殆どだし……、今、私達が優先させないといけないのは、そのスキルがどんな力を持っているのか知ることね」
「となると、可視化のレベルを上げて……スキルを実際に使ってみるしかないかな?」
「そうね……可視化なら数時間でレベル3までいけると思う。実際、ユキト自身でスキルの説明を見てから使った方がいいかも」
そう言って、リディアはトレーニングマシンをちらっと見て、
「早速、始めましょうか」と親指をマシンに向けた。
*
「はぁ、はぁ……あ、あのぉ……リ、リディア……はぁ、はぁ……」
「なぁに? そんな顔を赤くしちゃって?」
「も、もう、無理……かも」
「ちょっと早いってば、もうちょっと我慢して、男の子でしょ?」
「はぁ、はぁ……そ、そんなこと言ったって……」
「ほら、頑張る!」
「あぁ! リ……リディア! もう駄目だーっ!!」
俺はランニングマシンから飛び降りた。
「ぜー、ぜー、し、死ぬぅ……」
「もう、だらしないんだから……、いいわ、少し休憩しましょう」
と、リディアがマシンから降りた。
覚醒者のトレーニングって……普通に走るだけなのか……⁉
もっと、何かこう……マンガ的な何かがあると思ってたんだが……。
俺はひぃひぃと息を弾ませながら、鏡越しにリディアの姿を目で追う。
しかし、スタイルがいいな……まあCMにまで出るようなモデルだし、当然かも知れないが、テレビで見るのと、こうして直接見るのではインパクトが全然違う。
スラッと伸びた手足、人形みたいに小さな顔、白い首筋の汗をタオルで押さえる姿は、まさに眼福……。ボディラインを強調するトレーニングスーツも相まって、変な気持ちになりそうだ。
しかし、こんなに細いのに、何であんなに胸があるんだろう……。
おっと、余計なことを考えている場合じゃ無い、集中しなければ。