模擬戦
「模擬戦……?」
「俺と黒田に勝てたら、今後、その女に黒田を近づかせないと約束してやろう。その代わり、お前らが負ければ……女は黒田とデュオを組む、いいな?」
「ちょ……ユキトくんはまだ自分のスキルさえ使った事がないのよ?」
「関係ねぇ、てめぇは黙ってろ!」
反論するリディアを安本は恫喝する。
リディアの肩がビクッと震えた。
こいつら……⁉
「どうする僕ちゃん、その女に守られて逃げるのか?」
ニヤニヤと笑う安本を見て、俺は生まれて初めて抑えきれない程の怒りを覚えた。
「……いいよ、やってやる」
「ちょっとユキトくん⁉ 無理だって、向こうは上位クランのメンバーなのよ⁉」
「ははは! よーし、決まり――」
「ひとつだけ条件がある!」
俺は安本の言葉に被せた。
「一週間だ、一週間だけ時間をくれれば、確実にお前らを潰してみせる!」
「くく……ふふ、あーっはっはっは!! 聞いたか黒田? 面白い、やってみろよ僕ちゃん。たった一週間で支援術師と組んだ重戦士を潰せるんならなぁ?」
黒田も一緒になって俺を嘲笑した。
安本は真顔になると、
「一週間後、演習場で模擬戦だ。逃げれば……潰す、わかったな?」と言い残し、黒田を連れて帰っていった。
*
高密度ルームに入るなり、リディアが俺に詰め寄った。
「ちょっと、あんなこと言ってどうするのよ⁉」
「ごめん……リディアがあんな風に言われるの我慢できなくて……」
「な……ちょっと、もう、何言ってんのよ!」
リディアが恥ずかしそうに背中を向ける。
「あのさ、リディア。黒田が言ってたデバフって……どういうこと?」
「えっと……それを話すには、討伐について少し説明しなきゃね。何か飲む?」
備え付けのコーヒーマシンでリディアはホットコーヒーを淹れた。
「じゃあ、俺もコーヒーで」
部屋の中には、フィットネスジムのような器具が置かれ、壁は片面が全部鏡張りになっている。
ソファに並んで座り、コーヒーに口を付けると、リディアがゆっくりと口を開いた。
「討伐に参加する方法には、ソロ、デュオ、パーティーがあるの。普通はね、デュオやパーティーにはバフが掛かるのよ。互いのスキルや相性、特性なんかによって変わるんだけど……、まあ良くて+1%~2%くらいのステータス向上かな」
「ふぅん、となるとパーティーなら人数分掛かったり?」
「そう思うでしょ? でも、人数が多ければ良いってもんじゃないみたい。聞いた話だと、30人近く居たパーティーで掛かったバフは+15%だけだったって」
「何か法則があるのかな……」
「わかんない、でも、相性はあるよ」
リディアはそう言って、俯き加減になる。
「実はね、その、私と組むと……皆、デバフが-20%くらい掛かっちゃうんだ。あはは……ごめん、やっぱ嫌だよね? いやぁ、こんなことになると思ってなかったからさ、あいつに付き纏われなくなれば良いかなーって思って、ユキトくんを利用しちゃった……ホントごめんね」
「そっか……」
「あ、いいのよ⁉ ほら、模擬戦には私が行って事情を説明するし、ユキトくんには迷惑掛けないから……」
うーん、こんな羨ましがられるような子でも、色々抱えてるのか。
しかし、デバフって……そんな敬遠するほどかな?
多少ステータスが変わるくらいなら、リディアみたいな可愛い子とペアを組んだ方が楽しいと思うんだが……。
まあ、確かに討伐は魔物を相手にするわけだし、自分の命が掛かってるもんな。
少しでも、ステータスを高めたいってのは理解できる。実際に討伐を経験すれば、俺も考えが変わるかも知れないし……。
俺は俯くリディアの横顔を見つめた。
やっぱ……めっちゃくちゃ可愛いよなぁ……。
――よし、決めた。
「ユキトでいいよ」
「え……」
「ユキトでいいから」
「ユキト……」
俺は戸惑うリディアに手を差し出した。
「ほら、俺のパートナーになってくれるんだろ?」
「い、いいの……?」
「良いに決まってる――」
もじもじするリディアの手を取り、ぎゅっと握る。細く、華奢な手だった。
うおぉっ⁉ これが女の子の手⁉
な、何て感触だ! 全部持ってかれるぞ!!
ヤバい……、俺は今、リア充への階段を登っている!