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空位の魔王と反逆勇者の孫  作者: かわうそ
『学院』入学編
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5話 晩餐

一通り町を見てまわり、必要なものを買い揃えた俺とリオレスは『南の風』に戻って来た。

約束の時間まではあと半刻ほどある。一足早いが先に食堂に行って待っていようか。


『南の風』の食堂は宿泊客以外も利用できるらしく、結構賑わっている。


俺とリオネスは入り口から一番離れたテーブルが空いているのを見つけ、席へと腰かけ話し始めた。


「それにしても珍しいものを手に入れたね」


「ああ、そうだな。そして、俺の眼に隠蔽を見破る力があることも確認できたしな。一石二鳥の成果だ」


町を散策中、俺とリオレスが立ち寄った蚤の市である代物が隠蔽魔法によって古びた木像として売られていた。しかしながら、俺の眼に映ったのは木像ではなかった。「なぜこんなものが蚤の市で売られているのか」とリオレスに尋ねたところ、隠蔽魔法で偽装されたものであることが分かった。

俺は興味が湧いたので迷わず購入。予定外の出費だったが、ある生物の卵を手に入れた。


「卵の孵化にはなにかしら条件があるらしい。今すぐ卵を孵すのは難しそうだね」


「まあ、『学院』に行けばこの卵についての情報も手に入るだろうし、それまでのお楽しみだ」


食堂でリオレスと話しているとおっちゃんが戻ってきた。

おっちゃんは食堂を見渡すとすぐに俺とリオレスに気付いて近づいてきた。


「よー!お前らちゃんと集合時間通りに戻って来たな」


「おっちゃんこそ流石は商人。時間に正確だ」


この世界は以外と時間に厳しく、待ち合わせや約束の時間に遅れることは相手からの心象を著しく損なう。故に、この世界の商人は時間に細かい。日本に通ずる部分だな。


「当り前よ!じゃあ早速晩飯にしようぜ」


俺とリオレスとおっちゃんの3人が揃うとキーアさんがやって来た。


「3人とも飲み物は何にする?食べ物はうちの旦那が腕によりをかけて作ってくれてるから、出来次第もってくるわ」


「それは、楽しみだな!じゃあ、俺は炎酒(ヴァルタール)を貰おうかな!お前さんらは?」


げっ、おっちゃんいきなり度数の高い酒かよ…。

炎酒はアルコール度数が高いことと途轍もなく辛い味で、とてもじゃないが常人ではショットグラス1杯も飲めやしない。飲める人は滅茶苦茶ハマるらしいが。

別名『忘却の酒(メモリークラッシュ)』。口にした者はショックのあまり飲んだ前後の記憶が一切残らない。

たまに爺ちゃんを訪ねてくるズズイラバーダの爺さんが良く飲んでたな。


「俺はアプアコールを。リオネスは?」


「僕もドラゴと同じものを」


「炎酒が1つにアプアコールが2つね。すぐお持ちするわ」


アプアコールは地球でいうレモネードみたいなものだ。ぶっちゃけ日本の清涼飲料を飲んでいた身からすると、この世界の飲み物はほとんどが飲めたものではない。大抵、味が薄過ぎるか濃すぎる。その中じゃアプアコールが一番無難だ。


キーアさんはすぐに飲み物を運んできてくれた。


「それじゃあ、ドラゴとリオネスの合格を祝して乾杯だ。かんぱーい!!」


「「かんぱーい!!」」


3人がグラスを合わせて乾杯をする。


「なあ、俺たちまだ合格していないのに「合格を祝して」はおかしくないか?」


「お前らなら『学院』の入学試験でも余裕で合格だ、と俺の勘が言っている。俺の勘はよく当たるぜ~。なんて言ったって勘頼りで今まで生きてきたようなもんだからな。がっはっは!今日は前祝だぞ、どんどん食って、どんどん飲んでくれ!」


なんの根拠もないおっちゃんの勘だが、不思議と当たるんじゃないかと妙な確信みたいなものがあるように感じるな。

こう、おっちゃんの持つ独特の雰囲気が言葉に説得力を持たせるというか、んー、よく分からんな。

でも、こういう所が商人としての交渉術やなんかにも繋がっていくのだろう。


その後俺たちは運ばれてきた大量の料理を一心不乱に平らげた。


食事も一通り済ませ飲み物のお代わりを待っているとおっちゃんが話し始める。


「ふ~食った食った。いつ来てもここの料理は最高だ。どうだお前ら、美味かっただろ?」


「ああ、想像以上に美味しかった。この町に来る時はまたこの宿に泊まりたいな」


「そうだね。他の料理も食べてみたいし」


おっちゃんからこの宿を紹介された時に飯が美味いと聞いて期待はしていたが予想以上だった。いい意味で期待を裏切る味だったな。リオレスも満足したようだ。


「ところでお前ら、出発はいつになるんだ?」


おっちゃんから今後の予定について質問されたので、俺は用意していた答えを返す。


「明日だ。光の十二刻に定期便が出る」


「そうか。坊主との旅も今日で終わりか。淋しくはなるが人生なんて出会いと別れの繰り返しだ。お互いに笑ってまた会えるように必死こいて頑張ろうぜ。リオレスもな」


おっちゃんはそう言って、よく日に焼けた顔に人好きのする笑みを浮かべている。


「短い間だったが俺も楽しかった。ありがとう、おっちゃん」


「ジルテーノさん、会ったばかりの僕にいろいろと良くして下さってありがとうございました。この恩はいつか必ずお返しします」


「俺は商人だからな、先行投資ってやつさ。いつかでっかく返してくれよ。がははははっ。そうだ、明日は見送りには行けねぇが宿を出発する前にドラゴに渡しておきたい物があるんだ。ちょっと時間をくれ」


「構わないが、渡したい物ってなんだ?」


「渡す時に説明するさ。お楽しみだ」


飲み物のお代わりが来ると俺たちはまた乾杯をして飲み始める。

そうして日付が変わるまで他愛のない話をしながら別れの晩餐を楽しんだ。


翌朝。


出発の準備をして1階に降りていくと食堂でおっちゃんが待っていた。


昨日あれだけ炎酒を飲んだのにいたって普通だ。もはや人間じゃあないな。どういう肝臓してるのか。


「おはよう。坊主達」


「おはよう、おっちゃん」


「おはようございます、ジルテーノさん」


「まあ、こっち来て座れや」


俺とリオレスはおっちゃんが手招きをしているテーブルに座る。


「さて、昨日言った渡したい物はこれだ」


おっちゃんがテーブルの上に取り出したのは、おっちゃんの所属するカシュオジョーク商会の紋章があしらわれている金色のカードと1辺が15センチ程度の金属の立方体だ。


「これはなんだ?」


「このカードはな、うちの商会の最重要取引相手に渡しているものだ。各地にあるうちの支店で商品購入とかで割引して貰えるな。そして、そのカードがあればうちの商会に金を預けておくと各支店で預けた金を引き出せる。まあ、一度に引き出せる金額に限度はあるがな。冒険者ギルドなんかも同じようなことをやっているが規模の大きい支部に限られる。うちの商会は結構手広く店舗を出しているから便利だと思うぞ。あとは何かあればそのカードと俺の名前を出せば大抵のことはなんとか対処してもらえるはずだ」


つまり、キャシュカードみたいなものか。カシュオジョーク商会がATM代わりってことね。


「分かった、ありがたく使わせてもらうよ」


「えーと、ジルテールさんってカシュオジョーク商会の人だったの?」


カードを見て、何故か驚いた顔をしたリオレスが尋ねてくる。


「あれ?言ってなかったか?」


「聞いてないですよ!商人ってしか!」


「なぁ、リオレス何をそんなに興奮してるんだよ」


リオレスは落ち着いているようで結構感情の起伏が激しいな。いや、11歳の子供とすれば普通か。


「いやいや驚くでしょ!カシュオジョーク商会と言えば全世界に支店を持つ超巨大商会だよ!聖ケルケト教会直営の七星(しちせい)商会や武具専門のダイダレスト商会を含めた三大商会の一つだよ。いや、規模だけ見れば世界一の商会だ!そんな商会の最重要取引相手なんて驚かない方が無理でしょ!」


「そうなのか?おっちゃん」


「まあ、そうだな」


「なんでそんなに軽い訳?!んー、僕が大袈裟すぎるのか?そもそもドラゴは変なところで常識に欠けてる気がするんだが…」


なんかリオレスがブツブツと独り言を始めてしまった。なんか失礼なことも聞こえてきたが、聞こえなかったことにしよう。


「それでこっちの箱は?」


「こいつはある人からお前への贈り物だよ」


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