4話 魔眼
どうやって隠蔽を破っているかって?
俺が聞きたいよ。
「やっぱりその眼かな?」
そう言ってリオレスは俺の眼を覗き込んでくる。
ちょっ、距離が近いな。
それにしてもリオレスはエルフの血が流れているだけあってかなり美形だ。将来はモテモテだろう、羨ましい。
「俺の眼って何か変か?」
リオレスの中性的な綺麗な顔にちょっぴりドキッとしたことを悟られないように距離を取りつつ質問する。
「変っていうか、僕が生きてきた人生の中では見たことないよ。まあ、そんなに沢山の人を見てきた訳じゃないけど、そんなに綺麗な真紅の瞳は記憶にない。村の人達は黒か茶色だったし、この町に来てからも変わった色の眼をした人はいなかった。心当たりがあるとすれば、母さんがしてくれた昔話の中に真紅の瞳を持つ魔王の話があるくらいだ。それ以外じゃあ話にも聞いたことないね」
「魔王?でも俺は人族だぞ。」
俺は間違いなく人族なはずだ。母親も人族だし、父親も人族だと聞いている。前世でももちろん人族、歴とした日本人だ。
「まあ、魔王云々ってのは御伽噺だよ。でも、その魔王の眼は魔眼だったらしくて色々な能力があったんだってさ」
「その一つが隠蔽を見抜く力なのか?魔王の力の割にしょぼくないか?それに俺の眼には他に能力なんてたぶん無いぞ。今まで隠蔽を見抜いてたことにも気づかなかったし」
「そんなこと言われてもなぁ。それこそ、気付いてないだけかもしれないし、あくまでかもしれないって程度だからね。あとは身体強化系の最上級魔法の中に【心眼】ってのがあって、それでも隠蔽看破は出来るみたいだね。なんでも、ありとあらゆる物事を見通す力らしいから。でも、それも歴史上で数例しか使用者がいないらしいから僕達程度じゃまだ身につけられないだろうしね」
ふーん、【心眼】ね。
ん?待てよ。師匠ってもしかして【心眼】を使ってたんじゃないか?じゃないとあの先読みとか完全な死角からの不意打ちを防ぐとか説明がつかない。体感はほとんど未来予知に近かったが。
歴史上数例って、あの人やっぱり凄い人なんじゃないか。
「俺も身体強化魔法は使うけど、その【心眼】ってのは初めて聞いた。最上級魔法ってどんだけ鍛錬すれば使えるようになるのかな?」
「上級や超上級はその系統だけに特化すれば人族の一生でも辿り着けるかもしれないけど、最上級は才能がなければ絶対に無理だね」
「へー、そうなんか」
やっぱ師匠は凄いんだな。あんなに適当なのに。
「そうだね。どの分類でも最上級に位置する魔法は才能がなきゃ習得することは不可能だね。そして、その才能を磨き抜いて初めて到達する頂が最上級魔法なんだよ」
リオレスのテンションがちょっと上がっている。魔法が好きなんだな。
「で、話を戻すけど隠蔽魔法を見破っている理由は自分では分からない。もしかするとこの眼が原因かもしれないってことだな?」
「そうだね。他にも隠蔽魔法を見破れるって事例があれば眼に能力があるってことが分かりそうだけどね」
「そうだな。もしそうなら何かと便利かもしれないな」
まあ、現状オンオフも切り替えできないし、最初から隠蔽されている認識を持てないから使い勝手が悪い気がするが。
制御出来るかおいおい試していこう。
いろいろと話しながら歩いていると目的地である定期便の発着所に着いたみたいだな。
発着所には小さな小屋が建てられていて、どうやらそこで時刻表を確認できるようだ。
「定期便の発着所っていうから馬車で一杯かと思ったらそうでもないね」
リオレスが言うように見る限りでは馬車の台数は5台ほどだ。どの馬車にも乗客はいないようだ。
定期便の馬車は幌馬車で16人ほどは乗れるだろうか。
馬車を引く馬は2頭で闘馬と呼ばれる軍馬だ。
闘馬はサラブレッドをふたまわり程大きくした馬で凄まじいパワーと尽きることのないスタミナ、そして最高時速120キロメートルを超える速さを兼ね備えた馬型のモンスターだ。モンスターの中でも比較的人に懐きやすく、うまくテイムできれば様々な場面で役に立つ。
馬車には受験票にも描かれていた『学院』の紋章とシトルエンの町章が掲げられている。
俺とリオレスは小屋へと近づいた。
そこには揃いの制服を着た人物が3人。おそらくこの発着所の用務員かな。
どの人物も外見から判断するとそれなりに腕が立ちそうである。
俺たちが近づくと用務員の中でも1番若い男が話しかけてきた。
「もしかして、『学院』の受験生かな?定期便の時刻を確認に来たのかい?」
まあ、この時期に子供が2人で訪ねてくれば『学院』の受験生であることを想像するのは難しくないだろうな。
「そうです。明日以降で『学院』行の便はいつ出ますか?」
俺が黙っているとリオレスが用務員へと返答した。
「明日は光の十二刻にジェフティア行の便が出るね。それ以降だと明々後日の同じく光の十二刻だ」
「そうですか。ちなみにこの町からジェフティアまではどのくらい移動に時間が掛かりますか?」
「途中の休憩時間も入れて、だいたい四刻から四刻半ってところだね」
この世界では一日が26時間で午前と午後を13時間ずつに分けている。その1時間を一刻と呼ぶ。
午前や午後の区別をつけるものとして『暮』や『光』があり、その他に『明』と『闇』がある。そして、十三刻はそれぞれ『闇天』と『光天』と呼ぶ。
「分かりました。ありがとうございます。じゃあ、確認も出来たし町を見て回るか」
俺は用務員にお礼をしてリオレスと共に発着所を後にする。
明々後日まで待つ必要はないかな。
出発は明日、今日中に必要なものは揃えておこう。