33話 蠢動
----ドラゴ視点----
「このままじゃ、終わらせられないわ。きちんと決着をつけないと納得いかない!あなた、今年の寮対抗戦に出場しなさいっ!」
ビシッ!という擬音が聞こえてきそうなほど見事に人差し指を突きつけながらアリスタが放った台詞。
「は?」
さっぱり意味が分からない。
なんだってこんなに元気なの?何この女の子怖いんですけど。
「だ、か、ら、今から3ヶ月後、源ノ月に開催される寮対抗戦の1年代表として私と戦って今日の決着をつけるのよ!知らない訳じゃないでしょ!」
「いや、知らないし、面倒くさいし、そっちの勝ちでいいよ」
いや、本当にね。疲れるのよ。このテンションの差についていけないからね。だって、お兄さん精神年齢で言うとアラサーよ?
「良くないっ!いいっ?!とにかくそういうことだから!」
アリスタはそう言い放つと模擬戦の疲れも感じさせない足取りで自分の寮生の集団へと戻っていった。
「ドラゴくん、君も大変だなぁ」
「うわっ」
アリスタに気を取られ、背後から掛けられた声に驚いてしまった。
「びっくりさせないで下さいよ、トーマ先生」
「いやぁ、すまんねぇ。ところでさ、さっきのあれ、どうやったのか教えてよ」
「さっきのあれですか?」
多分トーマが聞きたいのは、俺がアリスタの黒い焔で出来た獣を斬った方法だろうな。
「そうそう、概念の具現化!アリスタの黒焔魔法から着想を得たんだろ?でも、模擬戦とはいえ実戦中に相手の魔法の原理を理解して、さらに応用したオリジナル魔法で相手の魔法を無力化するなんてさ、熟練の魔法士や魔導士でも困難を極めると思う訳よ。それをやってのけたんだ、興味が出ない方がおかしいだろ?」
なんだ、斬った方法が概念の具現化ってのはわかってるのか。
トーマの疑問はその概念の具現化をどうやったか、または相手の魔法をどうやって真似たかって方なのね。
「はあ、そういうもんですかね?ただ、あの時は自分でも良く分からないんですけど、アリスタが魔法を放った瞬間にはあの魔法がどんなものなのかなんとなく分かった気がしたんです。そして、自分のやり易い形でその魔法を使うことまでイメージが浮かんできたんですよね」
そう、なんとなくだ。なんとなく分かった、いや、思い出したと言うべきか?俺はあの魔法を知っていた?まぁ、自分でも良くは分からないがそんな感じだな。
「たぶん、もう一度やれって言われても出来ないと思います」
「そうかぁ、なんかヒントでもあれば良かったんだけどなぁ。概念の具現化なんて魔法が使えるなら相当面白そうなのに」
「そういうもんなんですかね?確かに概念が具現化する魔法って強力だとは思いますけど、扱いが難しくないですか?」
「それはそうでしょ。概念を具現化するってのは簡単に言えば魔法を使う人物のイメージそのものを魔法にするって事だからね。アリスタが『燃える』って概念を黒焔として放ったのも、ドラゴ、君が『斬る』って概念を刀の形にしたのも、使用者が持つイメージを強く反映した結果。でも別に『斬る』っていう概念が刀の形を取る必要は必ずしもない訳で、球体の魔力で具現化されてもいい筈さ。でも、おそらくそれじゃあ魔法がうまく作用しないと思うな。だってさ、球体に抱いているイメージと『斬る』という概念には関連性があんまりないよね。いわゆる普通だったり、常識ではさ。だから連想されにくいが故に魔法にならない訳さ。まぁ、そもそも魔法とは想像する力が大事なもので、概念の具現化はその際たるものって感じだからね」
すげー喋るじゃん、トーマ。
「確かに。ですが、態々球体の魔力に『斬る』という概念を反映させる必要性がないと思うんですが?」
「ふっ、この魔法が面白いと感じたのはそこだよ!つまり、うまくやれば相手の虚をつくことが可能となるってわけさ。自分自身が常識に囚われずに様々な概念を様々な形で具現化出来れば、相手の対処はこちらに追いつけなくなる筈だ。まぁ、その具現化の方法が分からないからただの妄想、空想の類にしかならないけどね!あはははっ!」
トーマの言ってることは理解出来るが、そんなに面白いことか?
「何がそんなに面白いんだ?って顔をしているね?」
げっ、バレた。
「まぁ、いずれ分かるさ。体験したことのない未知ってものは、幾つ歳を重ねても変わることなく俺を楽しませてくれるからサイコーさ!」
ニヤッと笑ったトーマがそう語り掛けてきた。
「よーし!それじゃあ、授業の続きだ!今の模擬戦の感想を一人一人聞かせてもらおうかな」
模擬戦を見て何があったかよく分からない生徒達、辛うじて俺達の戦いの一端を垣間見た生徒たち、様々な感想が述べられ残りの授業時間が過ぎ去っていった。
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「んで?船の準備が出来たという訳かぁ?」
キングサイズよりさらに大きなベッドがその部屋にある唯一の家具である。
そのベットに寝そべる上半身裸の男。
身長は2メドルをゆうに超え、鍛え抜かれた胸板は分厚く、筋肉の鎧に覆われた両腕は丸太程に太い。さらに、その巨体を支える為の脚は大理石の柱すら容易に砕くであろう。
男は緩慢な動きで起き上がると、跪く初老の男にそう問いかけた。
「はい、大型船を5隻。1隻あたり約1000人の兵が乗船しますので兵力は5000程となります」
「5000ね、それで獣どもを根絶やしに出来るのかぁ?クソ面倒だけど、クリスさんからの頼みだから仕様がな〜く、俺も同行するんだぜ?出来るだけ楽させてくれよなぁ、俺の出る幕を作らんようにさぁ、そこんとこ分かってるのかい?なぁ、マージュさんや?」
男の底知れぬ覇気に当てられ、マージュ・リネンマスが竦み上がる。
「おうおう、別に怒っちゃいないんだから、そんなにビビるなよ。俺が聞きたいのは、その兵達が、弱卒だろうがなんだろうが、俺の手を煩わせることなく任務を全う出来るのかってことよ。今回の遠征で狙うのは、取り敢えず五色国家群の最東端、「白の湿地帯」。そこを治める熊人族達は少なく見積もっても8000人、まぁ、女子供も入れてだが、そんだけの数を5000で殲滅出来るのかって聞いてんの?分かる?」
「それが任務でございますれば、命に変えても」
マージュは震えそうになる声を抑えて、頭を下げることしかできなかった。
「あぁ、そういうのはいらんから!まぁ、いい。んじゃ、ドートレスの野郎とガロンの野郎にも声掛けとけ。あと、ついでにタルタードだな。俺の命令って言えば文句も言わんだろ、あいつらがいりゃ俺の仕事は殆どないだろ」
「畏まりました」
頭深々と下げ、マージュが退室する。
「そんじゃ、2年と7ヶ月振りの外出か。さぁて、外はどんな感じかな?」
男は再びベッドに横になると寝息を立て始めた。




