32話 黒焔魔法
「では、模擬戦、始めっ!!」
開始の合図と同時にアリスタの火炎魔法が飛んでくる。
「危なっ!」
俺は瞬時に身体強化を発動、直径2メドルはある火球を躱した。
それにしてもとんでもなく高い魔法力だ。
魔法の発動が恐ろしく速い上に、威力も高い。
普通、あれだけ大きい火球を放つ魔法だと攻撃範囲は広くなるが、火球が大きい分魔力の密度が薄くなり威力は下がる。
だが、アリスタの火球は放つまでの溜めがほとんどないにも関わらず、かなりの魔力が圧縮され高密度になっている。
並の魔法師が放つ火球なら拳で掻き消すなぞ造作もないが、アリスタのはちと厳しいか。
愛刀「閃」があれば切ることは可能だろうが模擬戦じゃあ使えんし、せめて木刀でもいいから得物があればなぁ。
「あら、一撃で終わるかと思ったのにやるじゃない」
おうおう、煽ってきますな。
「さすがに不意を突かれてもその程度の魔法じゃ俺はやれないよ」
「あら、そう。これならどう?」
さらにでかい火球の8連弾。
しかも、無詠唱か!
俺は身体強化のレベルを上げ、今度は余裕をもって躱す。
アリスタの無詠唱の練度はリオレスより上かもしれん。
「ふーん、寮の序列1位ってのは伊達じゃないみたいね。同じ1位でも私と比べたら大人と子供くらい差があるかと思ったけど」
こいつ、だいぶ思い上がってやがるな。
いくらなんでもお高くとまり過ぎだろ。
お灸でも据えてやるか?
「自称次期魔王のお嬢様。ちょっと見識が狭すぎやしませんかね?自惚れるのも大概にしないと足元掬われるぞ」
身体強化を脚に集中!
「行くぜ」
----トーマ視点----
「行くぜ」
「きゃっ」
ドサッ!
ドラゴくんの足払いによってアリスタくんが尻餅をついている。
先の台詞通りに足元を掬った訳だ。
さて、この模擬戦を見学している生徒の一体何人が今のドラゴくんの動きを把握できただろうか?
簡単に言えば、身体強化の魔法を脚に集中させて瞬間的な加速、そしてアリスタくんの足を払って転ばせた。
ただそれだけだが、生徒達にはドラゴくんが突如として消えアリスタくんが転び、再びドラゴくんが元居た場所に現れたように見えただろう。
しかも、身体強化を集中させた脚でアリスタくんの足を払えば相手にダメージを与えることになるのを見越して、脚が触れる瞬間だけ強化を解除するという離れ技までやってのけた。
「すばらしい、身体強化魔法の練度だ。さすがノイアーが気に入るだけはある」
「おっと大丈夫かいアリスタさん?(棒)」
ドラゴくん、棒読みにも程があるな。
尻餅をつかされた羞恥心とドラゴくんに煽られたことでアリスタくんの顔が真っ赤に染まる。
ゆっくりと立ち上がったアリスタくんの眼には羞恥心を塗りつぶす怒りの焔が燃え盛っているようだ。
「くっ、よくもこの私に恥をかかせたわね!もう、いいわっ!消し炭になりなさいっ!!」
!?
アリスタくんの魔力が体から立ち上り黒い焔へと変化する。
あれは黒焔魔法か?
今は失われし魔族の王が使ったとされる魔法、黒き焔は温度をもたない。あらゆる物を灰塵に帰すという概念そのものの具現化。
危険か?
俺が模擬戦を止めるか否か、逡巡したその一瞬でアリスタくんの魔法が放たれる。
「闇より出でし焔よ、古の巨獣の姿となりて悉くを喰らい尽くせ!『貪り喰らう黒焔獣』!!」
アリスタくんの翳した手から放たれるはカバとゾウが合わさったような巨大な獣を象った黒い焔。
それはまるで意思を持つかのようにドラゴくんへと迫る。
「なるほど概念の具現化か」
なんだ?ドラゴくんの瞳が深紅い光を帯びている。
「なら、そうだな」
そう呟くと、刀を持たぬまま居合い抜きの姿勢を取るドラゴくんの左手に魔力が集まっていく。
「その黒い焔が『燃える』という概念の具現化ならば、俺が具現化する概念はこれだっ!」
白銀に輝く魔力に覆われた左手から抜き放たれるは、『斬る』という概念の具現化だろうか。
右手に握られた魔力の刀身が黒焔の獣を幾重にも斬り刻む。
「なっ」
驚愕に見開かれるアリスタくんの眼が捉えたのは、自分が生み出した魔法が跡形もなく消し去られる光景だ。
そして、同じ光景を目の当たりにした俺も驚きを禁じ得ない。
魔力を概念化し、さらには具現化するという難題を一目見ただけで模倣してみせたその少年に戦慄した。
ーーーーアリスタ視点----
私の『貪り喰らう黒焔獣』が斬られた?!
なんなの今のはっ?!
あまりの出来事に思考を停止していた私の耳に、憎たらしい男の子の声が飛び込んでくる。
「これで終わりか?」
「っ、、、」
流石の私でも黒焔魔法の連発はまだ厳しい。
正直、消費した魔力に消耗した魔法力、何より魔法を完璧に破られた精神的疲労感で今は立っているのがやっとだ。
ベヒモスが破られるとは思ってもみなかった。
だって、今の私が制御できる魔法の中では最高の威力を誇る魔法なのだ。
学生程度では、例え7年生だったとしても破られることはないと思っていた。ましてや、同じ1年生なんかに。
魔王の血族が何度も滅びそうになりながらも、連綿と受け継いできた魔法が、私達の「誇り」が、ただの人族の男の子に破られるなんて。
「・・・・あなた、一体何者なの?」
「ドラゴ・グリント、見ての通り人間だよ」
「嘘よっ!人間に、人間の子供にどうにかできる魔法じゃないわ!一体なんなのよ、あなた?!どうやって私の魔法を消したのよ!」
そう、百歩、いや千歩譲って黒焔魔法が破られたことは良い、(いや、全く良くはないのだけれど、)だが、その方法が分からない。
ドラゴ・グリントの左手が白く光ったと思ったら次の瞬間にはベヒモスが消え去っていたのだ。
「どうやってって?ただ100回くらい斬り刻んだだけだよ。まぁ、あんたの魔法からヒントを貰ったけどね」
私の魔法からヒント?
「ちょっと、それどういう「はいはい、模擬戦はここまでにしておこうか」
「先生!私はまだやれます!」
立っているのでやっとだとしても、こんな終わり方じゃ納得いかないわ!
「いーや、終わりにしよう。お互い、痩せ我慢も程々にしておかないと今後の学院生活に支障が出るよ」
流石に先生にはお見通しって訳ね。
「はぁー、しんど!」
防御障壁が解除されるとドラゴ・グリントはそう言って座り込んだ。
私は足を伸ばし座るドラゴ・グリントに近づいていく。
「ん?なんかようか?」
くっ、この間抜け面、蹴っ飛ばしたいわ!
「このままじゃ、終わらせられないわ。きちんと決着をつけないと納得いかない!あなた、今年の寮対抗戦に出場しなさいっ!」
「は?」




