29話 不穏な気配
前回までのあらすじ。
前世でもセルミラーレに転生してからも”彼女”という存在の”か”の字も知らぬ俺から漂う女の匂い。
はい。
どうも伍代 司、改め、ドラゴ・グリントです。
あろうことか、この狼人族の野郎が俺から女の匂いがすると宣うんです。
この熱血硬派ドラゴくんがそこら辺の軟派野郎と同じだと言うのです。
「もう一度言ってみな?」
「ひっ!!」
俺の優しい問いかけになぜか怯える狼人族くん。
「だ、だから、お前から女の匂いがするんだよ、微かだけど。たぶん狼人族の女の匂いだ。かなり薄いけど同族の匂いだから間違いないと思う!お前の知り合いに狼人族の女がいるはずだ!」
「ああ!」
なんだ狼人族の匂いね。
それにしてもすごい嗅覚だ。
思い当たる節はある。
多分、この狼人族の男の子が言う女の狼人族の匂いは俺の世話係だったリツィーのことだな。
一緒に暮らしていたのは俺が3歳くらいまでだからリツィーと別れて8年も経つのか。
そんな昔の匂いって残っているものかね?
「思い当たる節はあるが、かなり昔に一緒に暮らしていた人だぞ?そんなに昔の匂いが嗅ぎ分けられるのか?」
「匂いってのはそんなに簡単に消えたりしないのさ。それにしても一緒に暮らしてたって?人族と狼人族が一緒に暮らすってどういう状況だよ。それにお前に付いてる匂いって何処かで嗅いだことがある気がするんだよなぁ」
匂いってそんなに残るんだな、獣人の嗅覚は侮れないな。
しかし、最後の方がボソボソと喋っていて聞き取れなかったな。
「ところでお前の名前はなんだ?俺の名前はドラゴ・グリント。さっき寮監のノイアーが話してたけどさ」
「おっと、すまんね。俺の名前はフェン・ダウバ・ムートっていうんだ。フェンって呼んでくれよ!よろしくな、ドラゴ」
「フェンね。よろしく」
俺はフェンの差し出してきた手を握り、握手を交わす。
それにしてもリツィーか、懐かしいな。今頃どこで何をしているのやら。
俺は、身体強化魔法の師匠でもある蒼い髪の狼人族を思い出していた。
次の日。
さて、今日から授業か。楽しみだ!
昨日は高級ホテル並に寝心地の良いベッドでぐっすり眠れたから体調は万全だ。
支度を済ませて朝食を食べようと1年生フロアの食堂へ向かう。
昨日、ノイアーから長々と説明を受けた食堂だ。
食堂に着くと既に席が4分の3ほど埋まっていた。
「ドラゴ、おはよ」
配膳係から朝食を受け取り、席を探していると声を掛けられた。
声がした方を振り向くとフェンがいた。
「おはよう、フェン。早いな」
俺は既に空になっているフェンの食器を見ながら答える。
「あはは~、なんか腹が減っちまってな。自分の腹の音で起きたぜ」
なるほど、フェンは食いしん坊キャラか。
暗めの銀髪に紫色の瞳、このまま成長すればさぞかしイケメンになるであろう。
だが言動が残念だ。
それにしても、リオレスといいこの世界はイケメンがスタンダードなのか?
俺もイケメンになりたい。
「席探してるなら俺は食べ終わったからここを使えよ」
「ああ、ありがとう。お言葉に甘えさせてもらおう」
「グリントさん」
フェンが譲ってくれた席に座ろうとすると別な人物から声が掛けられた。
今度は誰だ?
振り返ると声の主は竜人族の少女だった。
「えーと、トウコだっけ?」
「はい、トウコ・ツクヨです。グリントさん、寮監のノイアー先生がお呼びです」
「ノイアーが?」
「はい、1階にある寮監室まで来てほしいと言伝を承っております。それと、申し訳ございませんがグリントさんとはそこまで親しくありませんので、私のことは名ではなく姓でお呼び下さい。よろしくお願い致します。」
「あ、はい」
なんか、すげー拒否られた。馴れ馴れしすぎたのか?
「あはは、ドラゴ、嫌われてるな」
「もう一度言ってみな?」
「ひぅっ!!」
余計なことを言ってくるフェンには、軽く殺気を飛ばしておいた。
「それでは、確かにお伝えしました。失礼致します」
トウコ、いや、ツクヨは綺麗に一礼をするとスタスタと歩き去った。
「この朝飯どうしよう」
俺は手に持ったお盆の上から美味しそうな香りを漂わせる料理を見つめた。
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「それで、お前の呼んだのはだな、、、、なんでここで飯食ってんだ?」
「もぐもぐ、、、朝飯食べようとしたら呼ばれたから」
ノイアーに呼び出された俺は、朝飯を食べてから行くべきか我慢すべきか悩んだ挙句、要件を聞きながら食べればいいかと結論付けた。
「ま、別に食べながら聞いて貰えれば問題はないか」
もぐもぐ、むしゃむしゃ、ごくん。
「聞かせてくれ」
「まずは筆頭監督生の役目についてだ」
筆頭監督生?
「筆頭監督生ってなんだよ?」
「おまえだ」
「は?」
「つまり監督生のリーダーってことだな。お前が1番成績が良いんだから当然だな」
また、面倒くさい役回りだ。
「どうせ辞退できないなら諦めて従うが、普通の監督生と何が違うんだ?」
「まず1つは、各学年の監督生と連携を取る際には筆頭監督生同士が話し合いを行う。まあ他学年への橋渡し役だ。2つ目は、橋渡し役と同時に他学年監視役だ。監督生制度が機能しているかお互いの学年を見張ることになる。3つ目は、まあ、2つ目と被る部分もあるが他学年の生徒を取り締まることが出来る。もちろん取り締まりの対象には他学年の監督生達も含まれる」
「なるほど。監督生が権力を振りかざしたり、行きすぎた取り締まりをしないように監視しあうってことか」
「まあ、そういうことだ」
「だが、普通なら下級生が上級生を取り締まるのは、いくら監督生に選ばれる実力者とはいえ難しいんじゃないか?」
「直接相手にすればそうだろうな。だから、何かあった時は寮監である俺に報告することになる。だが、監督生制度が出来てから2つ目と3つ目に関する事例は今のところはないな。だから主に学年間の橋渡し役だと思っていい」
まぁ、その程度なら良いか。
風紀委員的なものだな。
「わかった」
「次の話だが、少し厄介なことになった」
「やっかいなこと?」
「ああ、とは言っても今のドラゴは学院生だ。勉学を優先して欲しい。ただ、情報を共有しておきたくてな」
「なんなんだ?」
「聖ケルケト教会の動きが活発になっているんだ。ジェフティアにも接触があった」
「まさか、ミレイを狙ってか?」
あれだけ派手にやってダメだったのに今度は学院を敵に回す気か?
「いや、どうやら違うらしい。奴らの言い分はこうだ」
我々の騎士がリドゥエンドーマ国内で殺害されたと報告を受けた。よってその調査の為に国内での活動を容認してもらいたい。なお場合によっては武力の行使も念頭に置いている。
調査だと?
「はぁ?なんだそれ?殺害された騎士?殺したのはドートレス、教会じゃねぇか」
「ああ、だから俺達教師陣、そして学院長はなにか裏があるんじゃないかと考えている」
「裏?」
「この国で武力行使をするほど奴らは馬鹿じゃない。だが、武力を持ち込むことを許可しろといってきているんだ、他に何か目的があるはずだ」
確かに、学院の教師陣、とりわけトト・カーン・ハーラ学院長がいるのを承知で教会が事を構える可能性は低そうだ。もし仮に事を構える事態になったとしたら、教会が100%勝てると確信した時だけだろう。
「で、俺にこの情報を共有する意味は?」
「お前も教会側に顔が知られている可能性が高い。既に市中に教会の密偵が潜入していてもおかしくないからな。学院や寮以外では気を抜くなよってことさ」
「分かった」
「おう、朝から呼び出して悪かったな。もう行っていいぞ」
「飯食ってからな」
「ハハハー」
乾いた笑い声をあげるノイアーを尻目に、俺は残っている朝食を平らげるべくをフォークを握った。




