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空位の魔王と反逆勇者の孫  作者: かわうそ
『学院』1年生編
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28話 3つの寮

入学式が終わり、新入生だけが地下大講堂に残っている。


「今から各自が入る寮を発表する。各自学生証の指輪(リング)はつけているか?自分が所属する寮の情報を指輪に転送する」


新入生の前に一人残った教師が手に持った板状の魔道具を操作すると、生徒の指輪から何かの紋章と文字が立体映像となって浮かび上がる。


俺の指輪から現れた紋章は2振りの金槌が交差し背景に炎のシンボルをあしらったものだ。

文字は『プロメーテ』と書かれている。


浮かび上がった紋章を眺めていると映像が少しずつ回転し始めた。

芸が細かいことで。


「ドラゴはなんて寮だった?」


「プロメーテだとさ」


「へー、僕とは違うね」


「私とも違う」


「リオレスとミレイはなんて寮だ?」


「「『メーティス』」」


二人の指輪からは同じ紋章が浮かんでいる。

羽ペンと丸まった羊皮紙が交差し背景には何かの星座がデザインされたものだ。


「二人とも同じで俺だけ違う寮か」


リオレスとミレイがなんとも気まずい表情をしている。


「気にするな。俺たちに選択権があった訳じゃない、仕様がないさ」


実際そうだから2人が気にする必要はどこにもないんだがな。


「だよね、けどなんか申し訳なくて」


「うん」


まあ、そうなるわな。

クラス分けで、仲が良いグループのメンバーが1人だけ別のクラスになった時の何とも言えない気まずさ。

1人別のクラスになった者は強がってみせ、多数派になったやつらは安堵しながらもフォローの言葉を並べる。


「別に学校が別になった訳じゃねーし。隣のクラスなんだからさ!」


「そうだよね。昼休みとかは今まで通り遊べるもんね」


そんな小学生の新学期の1ページみたいなことを実年齢28歳で経験するとは。


なんてどうでも良いことを考えていると指輪から浮かび上がっていた紋章がフッと消えた。


「さて、新入生諸君。自分の所属する寮の確認は出来ただろうか?我が学院は完全寮制であることは、入学式を終えた皆であれば既に知っていると思う。諸君は、今しがた発表された寮で卒業まで生活することとなる。そして、3つの寮にはそれぞれ特色があるのでこの場で簡単に説明しておこう」


3つ?俺が所属するプロメーテ、リオレスとミレイが所属するメーティスのほかにもう1つ寮があるのか。


「まず、『プロメーテ』だ。この寮は発明と製造の才に長けた者が集められている。次に『メーティス』。学問と研究に情熱を燃やす者たちが多い。最後に『アーレウス』。接近戦、魔法戦などあらゆる戦闘のエキスパートとなりうる者達が互いに腕を磨いている。以上が3つの寮の特色だ。詳しくは、各々が寮に移動した後に寮監から説明される筈だ」


ふむふむ、まあリオレスとミレイがメーティスに所属するのは何となく分かるが、俺がアーレウスじゃないってのはどうしてだろうか?

自分で言うのもなんだが、新入生の中で一番戦闘力が高いのは間違いなく俺だと思うが。

まぁ、俺の潜在能力が戦闘よりも発明や製造よりだってことなんだろうけど。

だがそれはそれで問題はないな。

発明や製造ってのは魔道具なんかも含まれるだろう。

興味が惹かれる分野であることは間違いないし、文句は無いな。


「それでは、これから新入生は寮へと移動してもらう。案内は各寮の寮監が行う。プロメーテに所属する者は後方最上段の扉、メーティスは中段西側の扉、アーレウスは中段東側の扉へと移動してくれ。扉を出た所にそれぞれの寮監がいるはずだ。それでは移動開始!」


教師の号令と共に生徒たちが自分の所属先の寮監が待つ扉へと移動を始める。


「ちょっと待ってから行った方が良さそうだ。着順を争う訳でもあるまいし」


「そうだね」


席と席の間の狭い通路に人が押し寄せて大変なことになってるな。


見れば、俺たちと同様に混雑が治まるのを待っている生徒も少なくない。


「ちょっと、あんたら退きなさい!」


デカい声がする方に顔を向ければ見覚えのある赤い髪。

名前は確かシャーリーだったか。


「シャーリーも合格していたんだな」


「そうみたいだね、見つかったら大変そうだ。ドラゴの提案通りに待ってて正解だったよ」


「そうだな」


「え?誰?」


ああ、ジェフティアに着いた後、ミレイはノイアー達と一緒に学院に向かったから知らないか。

ミレイの質問に答えたのはリオレスだ。


「シャーリー・ロマ・グレゴール。僕とドラゴと同じ宿だったんだよ。推薦組だったらしいからミレイも見たことはあるかもしれないよ」


「かなりの負けず嫌いみたいだし、自己主張が強すぎて絡まれると面倒くさいんだ」


「そうなんだ。う~ん、試験で見たような気がしなでもないかなぁ。でも、女の子同士仲良くできるかも!」


「寮は違うみたいだけどな」


東側の扉に向かっているところを見るとアーレウス寮みたいだな。同じ寮じゃなくて良かった良かった。


それから少し待っている間にそれぞれの扉から新入生達が出て行き、通路にも余裕が出来てきた。


「それじゃ行きますか」


「じゃあ、後でね」


「ドラゴくん、1人でも頑張ってね!」


ミレイ、”1人でも”はわざわざ言わなくていいんじゃなかろうか?

それに、寮が分かれるだけで頑張ってもなんか違う気がするが。


「リオレスとミレイもな」


2人が西側の扉へと向かうのを見送り、俺も後方の扉へと歩き出す。


最上段の扉から出た先は広めの通路になっており、先に着いた生徒でごった返していた。


新入生が約300人いるとして単純に3で割ったら100人。

体の大きい者、小さい者、獣耳や尻尾が生えている者、鱗がある者などなど、様々な種族の生徒がいる為尚更騒がしい印象を受ける。


それで、寮監はどんな人かな?


俺は寮監の姿を探そうと辺りを見回すがそれらしい姿はない。


バタンッ!!


今しがた生徒達が通ってきた地下大講堂の扉が閉じられた。

扉の閉じる音を聞き、多くの生徒が扉の方向へと視線を向けると、そこに立っているのは1人の男だ。


「注目!」


拡声魔法による大音声。

扉の音に気付かなかった者達も視線を向ける。


「さて、新入生の皆さん、まずは入学おめでとう。そして、私が寮監を務めるプロメーテ寮へようこそ!」


つくづく縁があるな。


「申し遅れた、私の名前はノイアー・スケアー。この学院で教鞭を取りつつ、たまに御者もやっている者だ。よろしく」


俺の寮の寮監はノイアーだった。


その後、ノイアーに案内されたプロメーテ寮は学院の塔から北西の方向にある建物。

歩いて移動をすれば30分は掛かりそうな距離だ。

しかし、実際には30分も歩く必要はなく、寮と学院との行き来は転移魔法陣で行う。

この転移魔法陣は学院の中に何か所か設置されており、指輪に登録された寮へと転送してくれる。

所属以外の寮へと行く場合は徒歩、もしくは特別に許可を貰って一時的に指輪へと転移先を登録してもらう必要がある。

基本的に所属した寮以外の寮への出入りは出来ないらしい。


それにしても、この寮はかなりでかい。

700人以上が暮らしているので無理もないが、入学前に泊まっていた高級宿に匹敵する広さと設備だ。


そしてなんと、学院の寮は1人部屋ということだから驚きだ。

相部屋を覚悟していた俺としては嬉しい限り。

正直な話、7年もの間他人と生活スペースを共にするってのは俺には抵抗があったからな。


寮での生活に関しては、学年ごとに生活するフロアが別になっているということだ。

各フロアには食堂や大浴場などの様々な設備が用意されている。ちなみに、浴室は各部屋にも設けられている。


と、まあ寮の環境は申し分ない。


「さて、寮での生活についての説明は以上だ。誰か質問はあるか?」


俺たち新入生は現在、食堂に集められてノイアーから寮についての説明を受けていた。


「特にないようだな。ではプロメーテ寮の生徒の中で入学試験の上位4名に1年生の寮生活における監督生を任せる。呼ばれた者は前に出てくるように!まず1人目はドラゴ・グリント」


はい?!


「ドラゴ・グリント、いないのかー?」


「はい」


くそ、諦めるしかないか。

はぁ、なにが悲しくて11歳の子供達のお守り役なんかやらないといけないんだ。


俺はせめてもの抵抗としてなるべく嫌そうに聞こえる返事をすると、ノイアーの隣へ歩いて行く。


「よし、では2人目はトウコ・ツクヨ」


「はいっ!」


元気な返事と共に前に出てきたのは竜人族の女の子だ。

長いサラサラな黒髪と黒目、見た目は日本人みたいだ。

ただし、その側頭部から伸びた角が人族ではない事を教えてくれる。


「3人目はウト・アーマテス」


「はい」


11歳の子供とは思えないほど落ち着いた声音で返事をしたのはまたしても竜人族。今度は男の子だ。

トウコとそっくりな顔立ちをしている。


「4人目はディデイアンガ・ヴォート」


「うっす!」


11歳の子供とは思えないほど野太い声音で返事をしたのはドワーフ族。蓄えられた口髭と顎髭が立派ですね。

本当に11歳か?!


名前を呼ばれた4人が前に並ぶとノイアーが話し始める。


「では、この4人に監督生を務めてもらう。任期は1年だ。2年生に進級した際は新たに監督生を選び直すことになる。寮監である俺がいない時は監督生がその役割の一部を代行することになる。雑用なんかは用務員がやってくれるので、メインの仕事は1年生フロアの治安維持だな。ちなみに教えておくがこのドラゴ・グリントは今年の入学試験、実技でぶっちぎりの1位だ、戦闘じゃ敵わないから大人しくしておいた方がいいぞー」


なんだそりゃ?!

変なこと喋るなよ馬鹿ノイアー、何人かの生徒が煽られたと思って不穏な気配を発してたぞ!


「それじゃ、監督生の4人も席に戻っていいぞ」


ほれほれ戻った戻ったとノイアーに急かされ、釈然としないままの俺、トウコ、ウト、ディデイアンガはそれぞれ元いた席に着く。


「お前、強いんだな?」


「ん?」


俺が席に着くなり隣に座っている狼人族の男の子が話しかけてきた。


くんくん。


「なんで臭いを嗅いでいるんだ?」


えっ?!俺って臭うか?


「いやさ、お前から女の匂いがするからさ」


「・・・・・え?」


女の匂い?

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