27話 5人の王
第2章、開始です。
セルミラーレ最大の大陸、ラジューア大陸。
その西端に位置する学園国家リドゥエンドーマよりさらに西、海峡を渡った先にあるのがエウール大陸だ。
エウール大陸には五色国家群が存在し、多種多様な獣人族が暮らしている。
五色国家群とは、
獅子人族が統べる『赤の岩石地帯』
虎人族が統べる『黒の樹海』
猿人族が統べる『黄の山脈』
狼人族が統べる『青の草原』
熊人族が統べる『白の湿地帯』
以上5つの小国からなる国家連合だ。
それぞれの国を統べる獣人の王は『五色の王』と呼ばれている。
ここは、赤の岩石地帯の都『レオーディア』。
2人の王の入れ替わりを受け、顔合わせの為に5人の王が集まった。
「随分と若いな。それに1人は女か。ジオガウドの奴があんな小娘にやられたというのか」
獅子人族の王、赤の岩石地帯を統べる『赫鬣皇』カガリ・ロマ・グレゴールは自室の窓からやってくる王達を眺めて呟いた。
コンコン。
「入れ」
カガリがノックに答えると1人の青年が入ってきた。
入室してきた獅子人族の青年は背が高くガッチリした体つきをしており、カガリとよく似た顔立ちだ。
カガリの髪の毛が相手を威圧する真っ赤な鬣のように逆立っているのに対して、青年は長く伸びた赤髪を後ろで一つにまとめている。
「失礼致します。王よ、皆さまがお揃いになられましたので応接間にお通ししております」
「分かった。俺もすぐに行こう。レガロギア、お前も次期『赫鬣皇』として同席せよ」
「畏まりました」
レガロギアと呼ばれた青年は丁寧に腰を折りお辞儀をした。
「行くぞ」
赫鬣王の屋敷、その応接間に集まったのは獣人族の王達。
虎人族の王、『玄噛虎』ゼスト・カルラーク。
猿人族の王、『黄冠猿』シコウ・バザール。
狼人族の王、『蒼牙狼』リツィアナ・ニスカ・フィアナ。
熊人族の王、『白掌熊』ダン・ガオレン。
そして、屋敷の主人、
獅子人族の王、『赫鬣皇』カガリ・ロマ・グレゴール。
円卓を囲む5人の王が放つプレッシャーに、それぞれの王の背後に控える側近達は息を押し殺して成り行きを見守る。
「一度に王が2人も入れ替わるとは、我々獣人族が5つの国に分かれてからは初めてのことかの?」
最初に口を開いたのは5人の王の中で一番年上であろうシコウだ。
「残された記録が確かなら初めての出来事であろうな」
シコウの発言に答えたのはゼスト。
まだ若いが分厚い身体に刻まれた数多くの傷と鋭い目つきが歴戦の戦士を思わせる。
「そうか、そうか。さて、新顔のお2人さんよ、名を教えてくれんかな?」
好々爺のような声音でシコウがリツィアナとダンへと話しかける。
「『蒼牙狼』リツィアナ・ニスカ・フィアナだ」
「『白掌熊』ダン・ガオレン」
「リツィアナ・ニスカ・フィアナと言ったか、ジオガウドはどうした?」
会談が始まってから黙ったままのカガリが口を開いた。
「ジオガウドは私が殺した」
「殺した?王の座を奪う為か?」
リツィアナの返答にカガリから怒りのオーラが立ち昇る。
「私は王の座など端から欲していない。ジオガウドは最早、青の草原の王として何ら責務を果たしてはいなかった。奴は腐敗しきった行政府を正そうとはせず、それどころか金を貰ってその不正や不当な行いの数々を黙認していたのだぞ!」
「馬鹿な!ジオガウドが?!あの誇り高き『蒼の牙』がそのようなことをする訳がっ、」
「あなたが知るジオガウドは、その誇りと共にとうの昔に死んでいた。我が国の玉座に座していたのは醜く濁った眼を欲望でぎらつかせる只の獣だ。だから私と仲間たちで行政府の上層部ともども葬り去った。私達はこれ以上、困窮する民を同胞を見ていられなかった」
カガリのセリフをリツィアナの怒声が遮る。
「くっ」
「カガリよ、気持ちは分かる。お主、そして儂等が知るジオガウドは誰よりも誇り高い狼人であった。だが王としては人を信じすぎるきらいもあった。そこに漬け込む輩もおったのであろうな」
「シコウ殿」
「儂等とて他人事ではない。民に目を向けられなくなれば、同じように正しき行いを成さんとする者達が現れる。民あっての国である。王である儂等はそれを忘れてはいかんのだ。リツィアナ殿も怒りを抑えてくれ。して、ダン・ガオレン殿、父君は如何成された?」
シコウが口を開こうとするカガリを目で制しながらダンに問う。
「父は、病で亡くなりました。皆が私こそが後継者だと推してくれたので、若輩ではありますが『白掌熊』の名を継ぐに至りました。」
「左様か。逝ってしまったのか、ナバン。勇壮なる我が友よ」
シコウは目を瞑り、ダンの父、先代『白掌熊』ナバン・ガオレンに黙祷を捧げる。
しばしの沈黙の後、シコウが口を開いた。
「さて、では新参の王も含めて今一度各国間の取り決めを確認しようかの?」
シコウが4人の王を見回すとそれぞれ頷いていることを確認した。
獣人族の王達の会談が始まった。
ドラゴが『学院』へ向けて出発した日の事だった。




