25話 急展開にはいつまで経っても慣れないものです。
因幡柳玄との実技試験を終えて臨んだ面接試験。
だというのに面接官からの質問は俺とリオレスそれぞれ1つずつ。
質疑応答が1つだけの面接なんてあるのか?と考える間もなく告げられた試験終了の宣言。
戸惑う俺たちにトーカの口から発せられたのは謝罪があるという告白だ。
「リオレスくん、ドラゴくん、君達に私から謝りたいことがあります」
「謝りたいこと、ですか?」
「ええ」
「それは一番最初に俺たちに誤った情報を与えて、本来受けるはずだった試験とは別の試験に案内したことでしょうか?」
「中々辛辣ですね。まあ、それも含めてですね」
「他にもなにか?」
俺たちがトーカに上手いこと騙されて自主受験組と同じ試験を受けさせられたことは今となってはそれほど気にはならないし、それ以外のことで謝罪を受ける覚えはないけどな。
「まあ、言葉で説明するよりも実際に見てもらったほうが早いでしょうね」
そう口にすると、トーカの体の輪郭が歪みだした。
180センチほどの身長がさらに大きく、細身の体はがっしりとしたものへと変化してく。
黒い髪の毛はみるみるうちに白く染まり、腰に届くほどの長さへと伸びていく。
側頭部、耳の上辺りから生えた白銀の角は後頭部の方向に向かって上へと伸びている。
先ほどまでトーカ、人間の男が立っていた場所に、今は年老いた竜人族の男が佇んでいる。
顔にある数々の深い皺はその男が極めた叡智が刻まれた証だろうか。
年老いて尚、その体から発せられる圧力によってこの部屋の重力が何倍にもなったかのような錯覚を生じさせている。
「ふむ、ご覧の通りだ。私は、トト・カーン・ハーラ。この学院の学院長であり、学園国家リドゥエンドーマの首長である。素性を偽ったことを君たちに詫びよう。済まなかった」
目の前で繰り広げられた変身と現れた人物に圧倒されている俺とリオレスに向かって、トーカ、いや、トト・カーン・ハーラは頭を下げた。
「存外、私もいい年なのだが悪戯心というものは歳を幾ら重ねようとも無くならぬものでな。年老いた身であっても変化を求めていくには悪戯心や遊び心といったものがなくてはならないのだよ」
そう言ってトト・カーン・ハーラが微笑んだ。
すると部屋に発生していた重圧が緩んだ気がした。
「トト・カーン・ハーラ?学院長?え?」
「学院長?トト・カーン・ハーラって英雄譚にも出てくる世界最強の魔導士?」
「ほぁっほぁっほぁっ!世界最強だったのはもう150年は前のことだ。今はもう第一線からは退いておる」
まじか?!今目の前にいるの人物が、爺ちゃんが言ってたあのトト・カーン・ハーラ!
魔法と魔術を極めた『魔導士』!爺ちゃんや師匠を以てして、今尚敵対は避けたいと思わせる最強の竜人族。この人が!
「そもそもなんで姿を変えてまであんなことを?」
驚きから回復してきた俺が疑問に思ったことを口に出す。
「先ほどもいったであろう?ちょっとした悪戯だと。もう一つ付け加えるなら、『元勇者』リョーマ・サイオンジの孫でかの『聖魔』エリカ・グリントの息子と、『幻刃』イラクラバ・アーロティガの甥がどのような人物か気になったというくらいかの」
やっぱりリオレスはエルフでも有名な家系だったんだな。
それにしても、元勇者?爺ちゃんが?それに母さんの『聖魔』ってのも初耳だ。
「あの、僕の伯父ってエルフ族ではどういった立場なんでしょうか?二つ名があるってことは、ある程度名の知れた人物ってことでいいんでしょうか?」
俺が爺ちゃんと母さんの話について考えている間にリオレスがトト・カーン・ハーラに質問をしている。
「はてさて、ある程度名の知れたエルフと言っては語弊があるであろうの。イラクラバ・アーロティガはエルフ族の頂点たる『三賢刃』の1人、『幻刃』じゃ。つまり、ある程度名の知れた人物ではなく、『妖精の森』に住まうエルフ族で知らぬ者はいない程の人物ということだ」
「トト・カーン・ハーラ様は、何故僕の母が『妖精の森』を追われたのかご存じありませんか?母の兄弟がそれ程の力を持つエルフなら、何故人族の村で暮らさなくてはならなくなったのか、ご存じありませんか?」
「私を呼ぶ際は学院長で構わんぞ。なんなら、気軽にトト先生でも。して、その質問への答えなのだが、済まないの、その問いに対して答える言葉を私は持ち合わせておらなんだ。私が知っているのは君の母君が『妖精の森』を出たこと、その後ある村で子供を産んだこと、その子供が君ということだけ。もし、君がその答えを知りたいのなら、この学院を卒業した後に自らの足で『妖精の森』へと赴くと良い。私から言えるのはそれだけだ」
「分かりました。ありがとうございます」
学院長は何か知っているのだろう。だが、リオレス自身で知らなければならないことなのだろうな。
どうやらリオレスとの話は終わったようだし、俺も聞きたいこと聞くとしようか。
「学院長、俺の爺ちゃんが元勇者というのは本当なのでしょうか?それに母が『聖魔』というのも聞いたことがないのですが?」
「ほう、あやつ、自分の孫にそんなことも教えておらんのか。あやつは33年前に『アークエルド聖王国』によって異世界から召喚された勇者だ。どうやってか知らないが勇者の縛りから解放されて勇者であることを放棄したがの。そして、ドラゴ君の母君、エリカ・グリントは才能溢れる冒険者だった。短い時間ではあったが私が魔法と魔術を教えたこともある。聖なる剣と魔法・魔術を用いた戦闘スタイルから「聖」と「魔」、『聖魔』と呼ばれておった。魔法の実力は世界でも10本の指に入るであろうな」
爺ちゃん、日本人だっていうのは分かってたけどまさか勇者だったなんてな。
母さんも2つ名持ちの冒険者だったとは。冒険者だったのはリツィ姉さんから聞いてたけどそんなに強かったんだな。
「ありがとうございます」
「他に聞きたいことはあるかの?」
ん~、聞きたいこと・・・
「僕はありません」
・・・あっ!
「大したことじゃないんですけどいいですか?」
「もちろん、構わんとも」
「俺の眼って隠蔽したものを見破る力があるんですけど、学院長がトーカ先生として変身していたことが見破れなかったのはどうしてでしょうか?」
「ん?ああ、それは私の変身が隠蔽ではないからだの」
えーと、どういうことだ?
「今の答えじゃちっとも分からないって顔に書いてあるの。ドラゴ君のその魔眼は本来あるべき姿の上に被せられた幻を見破ることは出来るのだろう。しかし、私の変身は仮の姿で本来の姿を覆うのではない。本来の姿のありようを変える、つまり、トーカになっている時、私の本来の姿はトーカの姿そのものだということだ」
「ん~、難しいですけどなんとなく分かりました。あと、もう1ついいですか?」
「なんだい?」
「筆記試験会場までの通路が異様に長く感じたのは学院長の魔法ですか?」
「そうだの、簡単に言うと精神に干渉する類の魔法だの」
詳しくは教えてくれなさそうだな。
「分かりました。ありがとうございます」
「では、ドラゴ・グリントとリオレス・アーロティガの両名に試験の合格を言い渡す」
ん?
「ヤーダダダ先生から合格証明書を受け取りなさい」
ヤーダダダが俺とリオレスにそれぞれ合格証明書(豪華な装飾がされた羊皮紙)を手渡す。
俺とリオレスは急激な展開についていけずに流されるまま合格証明書を受け取った。
「入学式は3日後に行うので、それまではまた宿に戻って体を休めなさい」
「え~と、これで終わりですか?」
「終わりだの」
「筆記試験と実技試験の結果は?」
「そもそも君たちは筆記試験は免除、実技試験は因幡先生から良い評価を貰っているので問題ないの」
「本当にこれで合格ですか?」
「本当に合格だの。おめでとう。では私達は次の試験があるのでな、部屋の外にノイアー先生が待っているので詳しい今後の話は彼から聞いてくれ」
学院長、ヤーダダダ、ディミトリスの3人は退出し、部屋には俺とリオレスだけが残された。
「え、僕たち本当に合格したの?」
「そうみたいだな、よく分からんが」
俺とリオレスは手に持った合格証明書をよくよく見てみるが、間違いなく合格証明書だ。
俺とリオレスの学院受験は終わり、釈然としないまま合格した。




