23話 実技試験
相手を甘く見てたのは俺達だった。
試験開始30秒で俺とリオレスはボコボコにされて吹っ飛ばされた。
「はぁはぁ」
「俺が聞かされていた話だと君達はかなり優秀だってことだけどさ、やっぱり過大評価だったのかな?
こんなことならわざわざ俺が試験官にならずともヤーダダダにでもやらせれば良かったな」
くっ!俺は馬鹿か?
湖での戦いで格上を相手に生き残ったというだけで何を調子に乗ってるんだ。
あれは相手が俺たちを舐めていて、尚且つノイアー達の助けがあっての結果だろーが。
因幡柳玄、あのザンガードとかいう竜が戦いを避ける程の男だ。
俺達が舐めてかかっていい相手じゃないってことを今やっと認識した。
遅すぎるくらいだがな。
「まだ、です」
「まだ、やれます」
「ほう。いいだろう」
この人相手に30分守り切るのはきつい、だったら体力の限り攻め続ける!
「俺が攻める!リオレス、援護を頼む!」
「了解!まかせて」
出し惜しみはなしだ!
「身体強化全開だ!」
全身に力が漲る。
しっかりと1週間休んだことで湖での戦いのダメージは完全に抜けているな。
トーマのアドバイス通り休んでおいて良かった。
「良い覚悟だ!来いっ!」
「自在流【薙峰一閃・鳳斬】!」
俺と柳玄との距離は6メドルほど、間合いの遥か外から振り抜いた一太刀。
だが、不完全ながらも無音の一太刀に辿り着いた今なら、
ガキンッ!!
「飛ぶ斬撃か」
柳玄はいつの間にか右手に装備しているリボルバータイプの拳銃で斬撃を弾く。
斬撃を防がれることは想定内。防御の隙をついて懐に潜り込む!
リオレスは俺に【風の軽鎧装】を施し、柳玄を牽制するための魔法を放っている。
ナイス援護だ!
身体強化に加え、リオレスの魔法によるスピードアップにより瞬きほどの間に柳玄に迫る。
この間合いなら!
「甘いぜ」
ドンッ!ドンッ!ドンッ!
柳玄の持つ漆黒のリバルバーから放たれる3連撃。
キンッ!キンッ!キンッ!
至近距離から放たれた弾丸を愛刀「閃」で防ぐ。
極限まで強化された身体、そして強化された知覚機能は俺に人間離れした芸当を可能にさせる。
「逃がさんっ!」
牽制の3連撃を放ち距離を取ろうとする柳玄を追いかけ、こちらの間合いから逃さない。
「さっきとは別人だな。なかなかいい動きだがそれで30分持つのかね?」
「持たせるさ!【雫渦穿・八連】」
ちっ!当たらねぇ!渾身の八連突きがかすりもしない、どんな反射神経してんだよ!
しかもこっちの攻撃を避けながら俺とリオレスにそれぞれ弾丸をお見舞いしてきやがる。
柳玄にはまだまだ余裕があるってことか。
「逃げ回っているだけじゃ今回の試験の主旨に反するか。そろそろこちらも攻めるとしようか」
来るっ!
「うまく避けてみろ。【見えざる神弾は月の落とした泪】」
柳玄が持つリボルバーが一瞬、金色に輝き次の瞬間、左肩に激痛が走る。
撃たれた?!クソッたれ!!
「ぐぁぁぁぁぁああああ」
リオレスからも苦悶の叫びが上がる。
魔力がリボルバーに込められた所までは分かった。
だがそのあと、俺の左肩に痛みが走るまでに何があったか、何をされたのかが分からないっ!
銃声もしなければ銃弾も見えない、撃たれたと思った左肩を見ても出血もない。
一体どんな攻撃なんだ?
「流石に初見では避けられないか。君たちならってちょっと期待したんだけどね」
「無茶言うな!だけど、避けられないなら撃たせなきゃいい!リオレス、行けるか?」
痛みだけならまだ我慢できる、だがリオレスの援護なしじゃ柳玄は抑えきれそうもない。
「ぐっ、はぁ、はぁ、なんとかね」
リオレスはちょっと辛そうだな。ダメージが思った以上に大きい。
俺は身体強化のおかげもあるが、幼少期からのスパルタによって痛みには慣れている。
いきなり襲ってくる痛みに生身で耐えるのは流石のリオレスでも難しいか。
「ちょっと大人げなかったか。でも、ま、最初はああ言ったけど君達やっぱりけっこう強いからね、俺の本気の片鱗くらいは見せてもいいでしょ」
「ははっ、それは光栄ですね。じゃあ俺ももう少しだけ無理をしてみますか」
本気の片鱗って、苦笑しか出てこねぇぞ。
だがそうだな、この際だ、出来ることは全部やってやろうじゃないか。
以前の戦いで掴んだ感覚だ。
限界をこじ開ける感覚を思い出せ。
試験で使うようなものじゃないのは分かっているけど、このまま終わるのも悔しいしな。
身体強化限界突破!!
試験が始まってからまだ5分程度。
この状態になったら流石に30分は持たないが、リオレスの状態が厳しい以上どちらにしろ30分耐えきるのは難しい。
なら、柳玄を倒すしかない!
「行きます」
「来なさい」
ビキッ!!
蹴った床に皹が入る。常人なら気を失ってもおかしくない急加速。
眼前には柳玄。
隙の大きい技では捉えきれない。
ならば、
「自在流・居合術【耀斬】!」
ガギンッ!!
「くっ」
今の俺の最速の太刀、これでも止められるか。
「危ないところだった、いくらなんでもやりすぎじゃないか?」
ギギギギ
刀と銃による鍔迫り合いをしながらも柳玄にはまだ喋る余裕があるみたいだ。
「あなたに言われたくありませんね」
こちとら動いたそばから体が悲鳴を上げ始めてるってのに、
「おいおい、さっきのを根に持ってるのか?手加減はしてあったぞ、これはあくまで試験だからな」
「それはそうでしょうけど、あなたの実力なら素手のみで俺たちを封殺できるはずです」
「まぁ、出来るか出来ないでいったら出来るけどな、そんなことしても君達の実力を見ることはできないだろ?さっきも言ったがこれは試験だ。俺の攻撃に対する対処、ダメージを受けた際の対応、その後の動きを見ているだけさ」
互いに相手の様子を伺いながら均衡状態を保つ。
少しでも力のベクトルを間違えれば体制を崩されるのは俺の方だろう。
「確かに使った技に関して言えば、手加減していたといっても受験生の子供に対処出来るレベルじゃなかったことは間違いない。だが、俺が頼まれたのは君達が俺を相手にどこまでやれるか見てほしいということだ。そもそも俺に試験官の依頼が来ることはまずない。俺に依頼が来た時点で君達は何かしら特異な受験生ってことだ。そして、現に君は同世代の子供等とは比較にならない力を持っている。向こうで魔法を準備している彼もな」
魔法?
「ドラゴ!耐えてくれよ【風刃の大嵐】!!」
リオレスさんっ?!
俺もろとも柳玄を攻撃するってこと?!しかもそれはレッサードラゴンを切り刻んだ魔法じゃねぇか!
鍔迫り合いを続ける俺と柳玄に向かって風の刃で出来た嵐が吹き荒れる。
「なかなかの威力だ。これはまともに喰らえば痛そうだな」
いや、痛いじゃ済まないだろう。
身体強化を皮膚、そして体表近くの筋肉に集中させれば耐えられるか?
「ちょっと下がってな」
いつの間にか、リオレスが放った魔法から俺を守るかのように柳玄が立っている。
「試験はこの辺にしておくか、【荒野を砕くは天より来たる光の柱】」
柳玄が何やら呟くと拳銃から光の柱が放たれた。
銃口の何十倍あるかも分からないその光は魔法を貫き、掻き消すとリオレスに当たる前に消滅した。
「何だったんだ今の?」
「俺の技で魔法の核を消しとばした。そんでもって、トル・ラースがリオレスに当たる前に技をキャンセルしたのさ。流石にあの魔法を喰らえば、俺も君も死にはしないだろうが無事では済まないからな。まったく君といい彼といい末恐ろしいな」
トル・ラース?あの技の名前か。
「ああ、ちょっと早いけど実技試験は終了だ。君達の力も見れたし」
「はぁ」
30分耐えるってのはどうなったんだ?
でも試験官である柳玄が試験終了って言ってるんだからいいのか?
取り合えず、リオレスの無事を確認するのが先か。
俺は離れたところで座り込んでいるリオレスに駆け寄る。
「リオレス、大丈夫か?」
「僕は大丈夫、だけどごめん、ドラゴならなんとかするかと思って範囲魔法を使っちゃった」
「使っちゃった」じゃないね。
うーん、リオレスの中で俺の評価が高すぎやしないか?
「あの魔法じゃ流石に俺も血達磨になっちまうよ、今回は先生に助けられたけど」
「君の年であれだけ高威力の範囲魔法を使えるなんて驚いたね。ドラゴ君の身体強化のレベルと戦闘スキルの高さも言わずもがな。スピードだけなら俺に迫るレベルだ」
と、俺に続いてリオレスの様子を見に近づいてきた柳玄。
「結構余裕で対応されてたように感じましたけど?」
「それは実践経験の差だろう。相手の動きを誘導したり先読みしたりっていう駆引きの部分はまだまだ伸びしろが残っている。リオレスも魔法の威力は申し分ないが、発動スピードと状況判断を磨いていく必要があるな。最後の魔法は下手したらドラゴに重傷を負わせた可能性もある。パーティを組んでの戦闘の場合、仲間の技量を正確に認識しておかないと思わぬ事故に繋がることを忘れるな」
「それで先生、俺達の実技試験の結果はどうなりますか?30分間先生の攻撃を耐えるっていうのはダメでしたが」
「ああ、最初に話した条件は本来の実技試験にはないものだ。普通は試験官と受験生の模擬戦である程度の戦闘技能を確認して終わりだ。30分耐える云々は君達に分かりやすく本気になってもらうための方便だ」
「そ、そうだったんですね~、良かった~」
「それで結果はどうなんです?」
リオレスは柳玄の言葉でホッとしているようだが俺は結果のほうが気になるな。
「結果に関しては筆記試験、面接試験とあわせて入学試験の合否と共に発表される。それまではお預けだ」
「ちょっとくらい教えてくれても」
「ダメだ。俺は他の仕事があるから先に失礼させてもらう。面接試験の案内は別の試験官が担当する。まだ面接試験までは時間があるから案内が来るまでここで体を休めておけ。健闘を祈る」
取り付く島もないな。
柳玄はそれだけ言うと演習施設を跡にした。
はぁ~疲れた!
俺とリオレスはぼこぼこになった演習施設の床に力なく寝ころんだ。




