21話 試験会場が遠すぎる
「なんだここ?」
学院へと足を踏み入れた俺とリオレスの前に現れた光景。
そこは異世界の学校と呼ぶのに相応しい光景だった。
白銀の塔の中は宙に浮く水晶から放たれる様々な色の光で想像したよりもずっと明るい。
見上げれば天井は遥か頭上、最早目視で確認できる高さを超えている。
白銀に輝く壁面には螺旋階段があり、宙に浮く足場は人を乗せて移動している。
見たことのない生物が飛んでいるかと思いきや、小型のゴーレムや見慣れた鳥類の使い魔もせわしなく飛び交っている。
どこかの研究施設から派手な爆発音と悲鳴が上がり煙が立ち込めるが、誰もそれを気に留める様子はない。
この喧騒こそが『学院』の日常であることを皆が知っているのだ。
「とんでもなく騒がしい所だな!俺の勝手なイメージだけどさ、もっと厳かな学び舎を想像していたんだけどな」
「同感だよ。世界最高峰の学校だっていうからもっとお堅い雰囲気だと思ってた。ただ、僕はこっちのほうが楽しそうで良いね」
「まあ、俺だって堅苦しいのは性に合わないからこのくらい賑やかなほうが楽しめそうだ」
「そこの2人!」
学院の騒がしさに面食らっていると後ろから声を掛けられた。
俺とリオレスが同時に振り替えるとそこにいたのは眼鏡をかけた30代半ば程の男だ。
黒い短髪をオールバックにして白衣に袖を通した姿から想像するに学院の教師だろうか?
「2人とも見ない顔だね、受験生かな?」
「そうです。あなたは?」
「私はこの学院で教鞭を取っているトーカという者だ。ところで君達、受験生というならなぜこんなところに?試験はもう始まるところだよ、こんなところにいないで試験会場に行かないと」
えっ?!試験開始はもっと後のはずだろ?
「でも僕達の受験票には試験は光天の刻に開始と記載されています」
「なに?すまないが受験票を見せてもらってもいいかな?」
リオレスは素直に受験票を取り出してトーカと名乗った教師に見せた。
「すまないね、おそらく記載ミスだろう。学院の落ち度だ、私が試験会場まで案内しよう。時間はギリギリだが遅れたとしても君達に責任はないからね、試験は問題なく受けられるように手配するよ。では、行こうか。ついてきてくれ」
まじか~?!
「ドラゴが早く行こうって言ってくれて助かったよ。もし受験票の時間に合わせて宿を出発してたら僕ら試験を受けられなかったかもね」
「ああ、そうだな」
俺とリオレスは速足で歩いていくトーカに置いていかれまいと駆け足でついていく。
螺旋階段を3階程上がると塔の外壁に向かって伸びる通路に入る。
この通路は先ほどまでの喧騒が嘘のように静かだ。
「この区画は学内試験とか今回のような入学試験みたいな静かな空間を必要とする場合に使う区画なんだ。この通路の壁に刻まれた魔法刻印が音を発散させることで試験会場となる大部屋に外の雑音が聞こえないようになっている訳だよ。面白いだろ?」
トーカは歩くスピードを全く落とすことなく(むしろ早くなってる?)、この静かな通路の魔法的技術の解説を話してくれるが、俺はともかくリオレスの息が少し上がってきていてちゃんと聞けているか定かじゃないな。
それにしてもこのペースで移動してもまだ着かないって、試験会場の場所遠すぎじゃないか?
普通に歩いて移動したら30分以上はかかる距離だぞ。
「あのー、トーカさん、試験会場ってまだ着かないんですか?」
「間もなく着きますよ。はい、着きました。ここです」
辿り着いた試験会場の扉は、進んできた通路の一番奥に位置する場所にあった。
扉の前には立て札が立っており大きな文字で「試験会場」と書かれている。
「リオレス、大丈夫か?」
「はぁ、はぁ、大、丈夫。ドラゴは、流石、だね。僕も、、少し、鍛えよう、はぁ」
「追々な。まずは試験だ、息を整えなよ」
この世界での俺は爺ちゃんや師匠のおかげで相当特殊な育ち方だ。
身体能力は大人の男性を遥かに超える。
まぁ、リオレスも体力はある方だし、この前の湖での戦いを見る限り身体能力も高いが、それはあくまで魔法的な強化がある時の話だ。素の身体能力は同世代の子供と比べれば高いと思うが常識の範囲内におさまる程度。
しかし、このトーカって教師の歩くスピードは異常だった。
魔法を発動した気配は感じなかったから素の身体能力が高いタイプ?
見た目は学者っぽいのに脳筋パターンか?
「君達は優秀ですね。ちょっと意地悪して結構な速さで歩いたのですが最後までついてくるとは。君に至っては息も乱れていませんからね。少し驚いていますよ。息が整ったら試験会場に入りましょうか」
「もう、大丈夫です」
「ほう、見事な魔法ですね。いやはや本当に2人とも優秀だ。では行きましょう」
魔法?
リオレスが息を整える為に魔法を使ったのか?
俺に感知出来ないってことはかなり小規模かつ体内に作用させた魔法か。
リオレスも魔法に関しては底知れない部分があるな。
それにしても、自分で言うのもなんだが俺の魔法感知能力はかなりの精度だ。
その俺が気付かない魔法を感知できるこの男は一体何者だ?学院の人間であることは間違いないのだろうが、やはり教師を務めるだけあって相当な腕を持っているみたいだ。そしてその腕前を一切感じさせない佇まい、油断ならないな。
トーカが試験会場の扉を開くとそこは300人は収容出来そうな大講堂だった。
半円形のすり鉢状になっており、出入り口は今俺たちが入ってきた扉だけのようだ。
既にほとんどの席が埋まっており教壇に立つ教師が受験生に向けて試験の説明を行っているところだ。
「君たちは、うむ、あそこの席がちょうど2つ空いているね。あそこに座って待っていて下さい。試験の説明が半分以上終わっているようなので2人には私が説明をしましょう。先に試験監督の先生と話をしてきますので」
そう言うとトーカは説明を続けている檀上の教師の元へと歩いて行った。
残された俺たちは指示された席へと腰を下ろす。
「なぁなぁ、君たち遅刻したのかい?うししっ」
俺たちが座った席の隣の席で試験の説明を聞いていた獣人族(多分牛人)の男の子が悪戯っぽい笑みを浮かべながら話しかけてきた。
因みに、この講堂の席は3人掛けの机が並んでおり、教壇から見て右側に男の子、真ん中に俺、左側にリオレスが座っている。よって話しかけられたのは俺だ。
「違う、受験票に記載されていた試験開始時刻に誤りがあったんだ。たまたま早く来たから助かったけどな」
「ふーん、学院の受験票に記載ミスねぇ~。まぁでも試験に間に合ったんだから君たち運が良かったね。でも、試験で使う運まで使い切ってなければいいけどね。うししっ」
うざいな、こいつ。
「試験は実力で通るから問題ないな」
「けっ!つまらないな~、冗談も通じないのかよ。まっ、お互いに良い結果が出ればいいな!うししっ」
「喋ってないで試験の説明聞いたほうがいいぞ」
「おっとそうだなっ!うししっ」
獣人の男の子は俺たちから興味を失ったのか再び試験の説明を聞き始めた。
俺としてもこれ以上こいつと喋ってると精神衛生上良くない気がする。
視線を左の席から正面に戻すとちょうどトーカが戻ってきた。
「お待たせ。それじゃあ、試験の説明をしよう」
説明された試験の概要はこうだ。
1.筆記試験(簡単な算術、この世界関する一般教養、魔法に関する知識の3科目)
2.実技試験(試験官と1対1で模擬戦を行う)
3.面接(試験官3名、受験生3名で簡単な質疑応答を行う)
この講堂では筆記試験のみを行うようだ。
実技試験は問題ないとして、俺にとっては1番最初の筆記試験が不安材料か?
「それじゃあ、私はこれで失礼しよう。健闘を祈っているよ、ドラゴ・グリントくん、リオレス・アーロティガくん」
「ありがとうございます」
トーカは静かに扉を開いて試験会場を後にした。
ん?待てよ、リオレスの名前は受験票で確認できただろうけど俺のフルネームはどこで知ったんだ?
「それでは今から問題と解答用紙を配ります。試験開始の合図があるまで手を触れないように」
教壇の教師が手に持った板状の魔法発動媒体を操作すると各受験生の前に問題と解答用紙が現れた。
大規模転送魔法か。この講堂に予め備わった機能の一つかもしれないな。
「では、試験を開始します。始めっ!」
よしっ!それじゃあ、今は目の前の試験に集中しようか。




