20話 門番
試験当日の朝。
今日も良い天気だ。窓から見える空には雲一つない。
さて、天気には恵まれたけど肝心の試験はどうなるかな?
この高級宿『ニーベルズの止まり木』で、俺は旅と戦いの疲れを癒し、入学試験に向けて英気を養うことが出来た。
実はこの宿、ジェフティアで一番高級な宿だったらしい。
宿泊代は、なんと1泊金貨4枚。日本円に換算すると25万円相当、しかも食事代は別だ。
両親に子供2人の一般的な4人家族が金貨1枚で3か月は暮らせることを考えるととんでもない金額だ。
そんな高級宿に学院の受験生というだけで無料で宿泊できるのだ。
この都市は、俺の認識以上に学院を中心として成り立っているみたいだな。
学生やその予備軍でもある受験生には手厚いサポートや各種サービスが受けられるようになっている。
宿に到着して早々にシャーリーに絡まれて、ただでさえ疲れた体と心に追い打ちをかけられたが、その後はなんとか平穏な日々を過ごせた。
俺と部屋が別々だった為、リオレスがどのように過ごしていたかは分からない。
お互いに試験に向けての準備もあるしこれといった用事もなかった為、敢えて合わずに過ごした。
まあ、しっかり者のリオレスのことだから試験に向けての体調管理と準備は万全だろう。
試験は昼、この世界で言う光天の刻から実施予定だ。
まだ時間は早いが、会場に向かっておいた方がいいかもしれないな。
昔から待ち合わせとか集合時間には余裕を持って行きたい性分なんだよなぁ。道中何かあるんじゃないかと心配でね。
俺は支度を済ませて部屋を出ると、リオレスが泊まっている部屋を訪ねる。
コンコン。部屋のドアをノックする。
「リオレス、ドラゴだけど。起きてるか?」
「起きてるよ〜。遠慮しないで入ってきていいよ」
ドア越しに声をかけるとすぐに返事が返ってきた。
言われた通りに部屋の中に入る。
「おはよう」
「おはよう、ドラゴ。早いね、まだ試験までだいぶ時間があるけど?」
「ああ、なんとなく早めに会場入りした方がいい気がしてさ」
「そう?まぁ、先に会場に着いておけば安心かな。なら、準備するからちょっと待ってて」
「了解、急かして悪いな」
10分後、準備を終えたリオレスと共にチェックアウトの手続きを済ませて宿屋を後にする。
「そういえば、あのシャーリーって獣人の子も同じ宿に泊まっていたんだよね。鉢合わせずに済んだから早く出発して正解だったかもね。流石に試験前から疲れたくはないし」
「そうだよな」
リオレスのシャーリーに対する印象はだいぶ辛辣だな。
ただ、俺も概ね同意だ。第一印象が酷過ぎる。
「試験は学院で行われるってことはあの塔を目指して歩けば良いのか、分かりやすくていいな」
「そうだね、どうやらこの通りがメインストリートみたいだし道なりに行けば着きそうだ」
俺はリオレスと並んで歩きながら街を観察する。
都市中心部と外縁部の丁度中間にあたるこの辺の区画は、宿屋や商店が多いようだ。
この都市は外縁部から中心に向かって建造物の高さが高くなっていく。この辺りの建物はだいたい3階建から5階建のものが多く、中には6階建もあったりする。ちなみに『ニーベルズの止まり木』の建物は5階建だ。
俺たちが向かう方向は都市中心部の為、歩みを進めていくにつれて建物が高く、階層は多くなる。
建物を見上げると空中にある通路も視界に入ってくる。都市に入る前に見えた高層建築物同士を繋ぐ半円状の通路だ。
この世界の建物は石造りか煉瓦造りが主流だ。木造もそこそこある。
だが、この都市の高層建築物にはそのどれでもない材料が使用されている。やはり、高い建物を造るためには石造りや煉瓦造りでは難しいようである。
その材料を一言で表せば、コンクリートだ。ただ地球のコンクリートとの違いは魔法的な物質が混ぜられている点だ。詳細は分からないが強度を上げる他に、加工する際に任意のタイミングで硬化させることが可能になるようだ。異世界版コンクリートってことだ。
ちなみに、外縁部は1階建や2階建の民家が多いようで、この世界で見慣れた煉瓦造りの家が多い。
「それにしても、この都市は外から見ても凄かったけど、ノイアーさん達が言っていたように、中に入ったら驚くことばかりだよ。まずこのメインストリートひとつ取っても見たことのない材料が使われてるし、都市中の道がしっかり整備されて全然凸凹していない。水捌けがいいように若干の傾斜がかけられていて道路の縁には排水のための溝が掘られている。僕の暮らしてた山奥の村とは本当に比べ物にならないよ」
本当にリオレスは、建築家や設計士でもないのによくそんな所まで気が付くな。その観察眼にただただ感心するよ。
しかし、日本の道路を知っている俺からしてもこのメインストリートの機能性と完成度は素晴らしいの一言だ。
高層建築群を通り抜けて辿り着いたのは、高さ100メートル以上はある白銀の塔。
塔の周りは高さ3メートル程の壁で囲われている。
正面には鉄製の巨大な門扉が開かれており、塔の入口へと続く真っ直ぐな道が見える。
「ここが『学院』か」
「ようやく着いたね」
「ああ、だけど辿り着いて終わりじゃないぞ。俺たちは試験に合格して学院に入学する為に来たんだからな!」
「そうだね、気を引き締めて行かないと」
試験時間よりかなり早いためか、俺達以外に受験生の姿はないな。
「それじゃあ、行くか!」
門を潜り塔の入り口まで歩みを進める。
塔の入り口は、今しがた潜った門より更に巨大な扉だ。
門の扉が武骨で飾り気の無い金属製だったのに対して塔の扉は精巧な彫刻が施された石造りの扉だ。
そして扉を守るかのように左右に1体ずつ巨大な竜の像が立っている。
「「何用か?」」
ん?
「「ここを通りたくば証を示せ」」
俺とリオレスが扉に近づこうとすると左右に立っている竜の像が動き出し行く手を遮ってきた。
「ド、ドラゴ、この竜の像動いてるし、喋ってるんだけど」
「ああ、見れば分かる。証を示せってことは学院生である証明をするか受験票を見せればいいんじゃないか?」
「そうだね」
俺とリオレスはそれぞれ受験票を取り出して竜の像へと見せた。
「「確認した。ようこそ我らが『学院』へ。受験生よ進むが良い、そなたらの未来に栄光があらんことを」」
そう言うと2体の竜の像は元の位置へと戻り動かなくなった。
しかし、石の体を持つ竜族なんか聞いたこともないからおそらくゴーレムなんだろうけど、ここまで精密な動きをするものを作り出せるものなのか?しかも操作型じゃなさそうだ。ということは自立型な訳だが、自立型のゴーレムは予め定められた命令に沿った簡単な動作しかできないはずだ。
複雑なプログラムを組むことは理論上は可能だろう。しかし、いくつもの魔法陣を同一個体に付与し、術者の手を離れた所で自動で起動させようとすると魔法陣同士が干渉しエラーが発生する。
本来、複数の魔法陣を扱う際、起動に関しては術者が制御するものだからだ。
そこそこ腕の立つ術者でも5つ以上の自立型魔法陣を同時に付与するのは至難の業だったりする。
ところがこの2体のゴーレムには今の動作で確認できたものだけで、監視・防衛・質疑・認証・承認・会話・移動など様々な動作を行っていた。動作が多いということはそれに対応する魔法陣も当然多い。このゴーレムには相当数の魔法陣がエラーを発生させないように組み込まれていることになる。想像も出来ないほど高度なプログラミングだ。
「また、楽しみが増えたな」
「え?」
「いや、なんでもない。行こうか」
さあて、他にどんな楽しみが待っているかな?
それを確かめる為には試験を是非とも突破しないとな。
俺とリオレスは『学院』へと足を踏み入れた。




