19話 赤毛のシャーリー
ジェフティアへと到着し、俺とリオレスは入学試験まで宿泊する宿まで送ってもらった。
「それじゃあ、試験頑張れよ。いや、お前らはあんまり頑張んなくていいな!テキトーにやれ、テキトーに!」
馬車の窓から顔を覗かせたノイアーからの激励?を貰う。
「なんかよく分からないけど、分かった」
「それとミレイちゃんのことは心配するな。お前らが入学する時には、また顔を合わせられるようになっているさ。任せておけ」
「ああ」
ミレイはジェフティアに入ってからも目を覚まさず、まだ馬車の中で眠り続けている。
心配だがノイアー達に任せれば問題はないだろう。俺とリオレスではどうにもならないしな。
「それじゃあな、また会う時を楽しみにしてる」
「2人ともまたなー!」
ノイアー、トーマ、ミレイを乗せた馬車が白銀の塔へ向けて走ってゆく。
「さて、俺たちは宿泊の手続きでもしますか」
「そうだね」
俺は改めて自分たちが泊まる予定の宿を見上げる。
宿屋というかこれはホテルと呼んだ方がしっくりくるな。
見るからに高級そうで、たかが受験生の身分で無料で泊まれるような宿なのか不安になってくる。
ノイアー達が俺とリオレスをからかっている線はなくはないが・・・
「ドラゴ、どうした?」
まあ、ここで考えても仕方がないか。
「ああ、悪い。今行くよ」
建物に入ると、そこは広々としたロビーとなっている。
床は磨き上げられた大理石、天井にはシャンデリアが輝き、その光を鏡面のような床が反射することで白を基調とした上品な空間を輝かせている。
受付は入り口から向かって真正面、白い髪の毛を七三分けにして黒いスーツを着た初老の男性が立っている。まるで高級ホテルのベテランコンシェルジュのようだ。
前世は高級ホテルに縁のある人生じゃなかったけど、こうやって一度死んでみると一度でいいから行ってみたかったと思わなくもない。
向こうでやり残したことは数えきれないがどうせやり直すことは出来ないんだし、こっちの世界をいかに堪能するか考える方が建設的だ。図らずも与えられた二度目の人生だからな、楽しまなきゃ損ってもんだ。ということで、この高級宿も思う存分に楽しみたいが。
「いらっしゃいませ。宿泊をご希望ですか?」
受付に近づくと受付にいる初老の男性が俺たちに声を掛けてきた。
「はい、ここは学院の受験票があれば無料で泊まれると聞いたのですが本当ですか?」
「はい。しかしながら、無料となるのは学院長が推薦した受験生に限ります。その他の受験生の方は宿泊料から7割を値引きしております。失礼ですが受験票を確認させて頂けますか?」
まじか?俺の受験票はどっちなんだ?爺ちゃんに説明もなしに渡されたから分からないぞ。
リオレスは受験票を受付の男性に見せているがどうやら大丈夫みたいだ。
「確認いたしました。リオレス・アーロティガ様、宿泊代金は無料でございます」
俺は恐る恐る受験票を渡す。
「確認いたしました。ドラゴ・グリント様も宿泊代金は無料でございます。お二人のお部屋をご用意致しますのであちらでお掛けになってお待ちください」
良かった良かった。いくら7割引きでもこんなに高そうな宿じゃお金がいくらあっても足りなさそうだ。
俺とリオレスは、受付で案内された通りにロビーに設置してあるソファへと腰掛ける。
「わぁ、このソファ凄いね。なんかほんのり温かいし、座り心地が良すぎて待っている間に寝ちゃいそうだよ」
「ふぅ〜。本当だな、包み込まれる様な安心感だ」
リオレスの言う通り、背中を預けて目を閉じればそのまま寝てしまいそうだ。
「ねぇ、ちょっといいかしら?」
しかし、今日は本当に疲れた。戦いで受けた傷は癒えたけど、精神的な疲労までは癒せないからな。この宿ならゆっくりと休んで体力・気力ともに回復でそうだ。
「ねぇっ!!ソファで寛いでるあんた達!無視しないで貰える?」
折角人が気持ちよく休んでるのに喧しいなぁ。
声のする方に目を向けると燃えるような赤い髪を腰まで伸ばした女の子が立っていた。
髪の毛と同じ色の瞳を持つ両目は大きく、顔のつくりも美少女と言って差し支えない。
ただ、怒っている為か目が釣り上がっており、乱暴な言葉遣いも相まってキツい性格に感じてしまうのが玉に瑕か。
しかし、何と言っても目を惹くのは頭頂部でピクピクと可愛らしく動いている猫耳だ。
怒った顔に可愛らしい猫耳、ギャップ萌えだ。
「誰?ドラゴの知り合い?」
どうやらリオレスの知り合いという訳ではないみたいだ。
「違うけど。君誰?」
なんか見覚えがある気もするけど、どこかで会ったかなぁ?
「シャーリー・ロマ・グレゴール、推薦組よ!」
推薦組ってことは受験生か。俺たちが同じ受験生だと思って話しかけてきたのか?
「それで推薦組のグレゴールさんは俺たちになんの用なの?」
「まずは、私が名乗ったんだからあなた達も名乗りなさいよ」
なんでこの獣人の女の子はこんなに上から目線なんだ?
「え、やだよ」
面倒くさいし。
俺はリオレスにシャーリーの相手をしてもらうべく目配せするが、リオレスは目を合わせようとしない。
定期便でミレイの話し相手を押し付けられた件で流石に懲りたみたいだ。
「なんでよ!ちょっと話すくらい良いでしょ?名前ぐらい教えなさいよ!」
ああ、もう疲れてんのに!この子、面倒くさいな!
仕方がない、諦めてくれそうもないし部屋の用意が出来るまで相手するかぁ。
「はいはい、俺はドラゴ、そっちはリオレス!で、なんの用?」
「なんか随分嫌そうね、まぁいいわ。ドラゴにリオレスね!この宿に泊まるのよね?」
「そのつもりだけど?」
「そう、ならあなた達も推薦組ね?じゃあ、私達はライバルってわけ!あなた達がかなり強いのは湖での戦いを見て知っているけど、私も負けてないわ!入学したら実践訓練もあるし、そこで私と勝負よ!」
謎のライバル認定からの負けてないわ宣言、そして勝負の申し込みか。うむ、実に面倒だな。
しかし、湖での戦いを見てたってことは同じ時間の定期便に乗ってたの、、、、
「かって、あっ!お前、俺たちと一緒の馬車に乗ってた奴か!その赤い髪、見覚えあると思った!つーか、強さに自信があるなら手伝ってくれれば良かっただろっ?!」
そうだ、思い出した。俺達が乗った定期便に1人だけいた子供の乗客、あの時はフードを被ってたから猫耳が見えなかったのか。
本当に俺達に負けないくらい強いなら、あの時に手伝ってくれればかなり楽になったはずだ。
「嫌よっ!なんで見ず知らず人の為に命を賭けなきゃいけないのよ!あなた達と違って私は自分の命が惜しいから、無謀な戦いはしないわ!相手の強さが分からない程の間抜けじゃないし、途中から加わったもう1人がいなきゃ全滅だった筈よ。まぁ、あなた達がやられてたら戦うか逃げるかしなきゃいけなかったと思うけど」
「まぁ、それもそうか。名前も知らない奴の為に命張るなんて簡単にできることじゃないか」
「そうだね。僕だってドラゴやミレイと知り合いになってなければ、無闇に戦いに参加しなかっただろうね。短い付き合いだけど、僕はドラゴにもミレイにも死んでほしくなかったから、そうじゃなきゃあんな化け物と戦ったりしないさ」
リオレスも俺と似たような考えだったんだな。
俺もリオレス、ミレイ、ついでにノイアーも、短い付き合いだけど死なせたくないと思った。
だから戦った。
自分の手の届くところで誰かが死ぬのをただ黙って見届けるなんてことはもう二度としたくない。
きっと、周りから見たらただの馬鹿にしか見えなくても、救いたいと思える命の為に自分の命を懸けることは、俺自身が後悔しない為に決めたルールだ。
ただ、これを他人に強要するのは違う。だから、シャーリーの考え方を否定することはできないな。
「グリント様、アーロティガ様。大変お待たせを致しました。お部屋のご準備が整いましたのでご案内致します」
おっ、やっと休めるぞ。
「ああ、どうも。じゃあ、お互い無事に合格できればまた会うこともあるだろうから、続きはその時にな!」
「ちょっと!」
「あ、その女の子に俺とリオレスの部屋は教えないで下さいね」
「かしこまりました。では、こちらへ」
なにやら騒がしいのと出会ってしまったが、ようやくゆっくり休めそうだ。




