18話 『ジェフティア』
「着いたぞ、ようこそ我らが学園都市『ジェフティア』へ!」
俺とリオレスはトーマに連れられて馬車の外へ。
ミレイはまだ眠っているし、ノイアーは「俺は別にいい、休んでる」と言って出てこなかった。
まあ、あの戦いのダメージが抜けている訳もないし歩くのも辛いところだろう。
「凄い・・・!」
隣にいるリオレスから小さな感嘆の声が聞こえる。
俺たちの目の前に広がる未来都市とも呼べる光景にリオレスの表情は固まってしまったようだ。
開いた口が塞がらないってこんな時に使う言葉なんだな。
都市の中央には一際目を引く白銀の塔が聳え立ち、その高さは周りを囲む高層建築物達のゆうに2倍はあるだろう。
塔と高層建築物、また高層建築物同士を繋ぐのは空中に浮かぶ通路だ。通路はドーム状の透明な屋根に覆われているので形状は半円のパイプみたいだ。
そして、前世では当たり前のように目にしていた自動車が空を飛んでいる。若干の差異はあるものの、「空飛ぶ車」と呼んで差し支えないだろう。本来タイヤがある場所には飛行機の羽のようなものが生えている。
都市の外縁部に目を向けると継ぎ目のない真っ白な壁で囲まれている。高さはそれほど高くはないがおそらく城壁なのだろう。
それにしても「空飛ぶ車」か。
動力はエンジンルームにあるとして、あの羽はタイヤの役割を担っているのだろうか?
方向転換に必要な魔方陣が組み込まれているのか、はたまたあの羽こそが空を飛ぶ為の動力になっているのか。是非とも調べてみたいね。
しかし、この『ジェフティア』って都市は本当に凄いな。
この世界で目にしてきた街並みは、異世界転生ものにはよくある中世ヨーロッパ然としたものだった。
しかし、この都市は日本の首都東京やニューヨーク、ロンドンといった地球の大都市よりもさらに発展しているように見える。
さながら、SFの世界に入り込んだみたいだ。まぁ、異世界転生自体がすでにファンタジーだが。
俺は前世の映画や創作物を知っている。だから、科学技術が発展した架空の都市や魔法の都市なんかも想像できる。
この世界しか知らない上に田舎育ちのリオレスには、かなり衝撃的な光景だろうな。まぁ、山育ちの俺が言うのも変な話だが。
「ははは、君達でもそんなに驚くんだね。ジェフティアに初めて来た人達は皆んな似たような反応だよ。ちなみに君たちの目的地である学院はあの1番高い塔だよ。それじゃあ、ちょっと待っててね。馬車が定期便の馬車じゃないからこの都市防衛結界を通るために君達の登録作業が必要なんだ」
そう言ってトーマは石造りの頑丈そうな小屋に入っていった。
今、俺たちがいるのは都市を丸ごと覆う結界の外だ。
都市の周辺は草原が広がっており見晴らしが良い。
ここから都市の入り口まではまだ距離があるな。
本来、定期便の乗客は結界を通る際に特別な手続きを必要としない。途中で取る休息の際、御者が乗車券を確認すると同時に結界を通過できるように処置をするそうだ。
それにしても都市1つ丸ごと覆う結界なんて聞いたことがないな。しかも、これだけ大きいのに結界強度の均一化レベルが高い。その上、地下もカバーしているのか?ということは都市中心部を起点とした球型結界か。
「ドラゴ、なんというか、凄いね。他にも色々と表現する言葉があるんだろうけど、凄いって言葉しか出てこないや」
リオレスは、未だ衝撃から抜け出せずって感じだな。
「そうだな」
ジェフティアは、おそらく俺のような転生者や、地球もしかすると他の世界からの転移者の知識をもとに科学と魔法の両方で発展してきたのだろう。
魔法は才能ある者にしか扱えない為、魔道具一つとっても万人が平等に扱えるものじゃない。
だが、科学がもたらす恩恵は平等に享受できるものが多いだろう。スイッチひとつで物を温めたり、蛇口を捻れば水が出たり、引き鉄1つで命を奪うことも出来る。
「おまたせ~、そんじゃあ行こうか!」
石造りの小屋から戻ってきたトーマと俺たちは馬車へと戻る。
「どうだった?外から見る学園都市は?」
馬車から戻るなりノイアーが意地の悪い笑みを浮かべて聞いてくる。
大方俺たちが腰を抜かすくらい驚いたというのを期待しているのだろう。
「目ん玉が飛び出すぐらい驚いてたね。ははっ」
「そ、そんなことありませんよ!驚いたのは本当ですけど!」
トーマが俺たちの反応を大袈裟に伝えると、リオレスが軽く反論する。
「確かに驚いたのは本当だな。この世界では見たことのない規模の建物だし、他の国を知っている訳じゃないけど、どの国のどの都市より凄そうだ」
「そうだねぇ、ドラゴ君の言う通りかもね。魔国も竜人族の都市も知ってるけど、ここまでの技術はないかなぁ。中に行けばもっと凄いぞ」
「そうか、それは楽しみだ。ところで俺達はこのまま学院まで行けるのか?」
俺の問いに答えるのはノイアーだ。
「いや、ドラゴとリオレスは学院の近くにある宿まで送る。一応、受験票を持っていれば宿泊代は無料だ。飯代は幾らか払わないといけないがそれも割引される筈だ」
なるほど、受験生にはありがたい宿だな。流石、学園都市といったところかな?
「俺とリオレスは宿ならミレイは?」
「ミレイちゃんはまだ意識も戻ってない上に、教会連中から狙われているからな。ジェフティアには聖ケルケト教の教会は存在しないから危険はないとは思うが、念の為に学院で保護する」
「分かった、頼む」
学院で保護してもらえるなら安心かな。
目覚めた時のメンタルケアも学院には専門家がいるだろうし。
目の前でニクスを助けられなかったことは、ミレイにとって大きな心の傷になるだろう。
ニクスの願いを叶える為にも乗り越えて欲しいが、時間が掛かるだろうな。
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「それで?ドリンジャーの孫の始末に失敗したと?」
「申し訳ございません」
狭く窓の無いこの部屋を照らすのは、机の上に置かれた小さな燭台。
蝋燭の火が揺れ、跪く男の顔を僅かに照らしている。
右眼を眼帯で覆うその男は左腕の肘から先を失っている。
「ドートレス、余り私を失望させないでくれよ。はぁ、まぁよかろう、娘の始末に失敗したところで私の計画に支障をきたすことはないのでな。それにお前の力は替えが効かぬ、だから今はまだ生かしておいてやる。だが、次はないと思え」
「はい、誠に申し訳ございません。寛大な処置に感謝いたします」
「ふむ、だがその娘が『学院』で保護されているのなら他の者も手出しは出来まい。他の連中に利用されるならいっそのこと始末しようかと思っていたが、7年後にその娘を手に入れることが出来ればこちらの利益も大きいか?」
「・・・・」
「まぁ、まだ時間はある。ドートレス、下がって良いぞ」
「はっ!失礼致します」
ドートレスが出て行くと、部屋の中に突如として気配が増えた。
「君にしては随分と優しいね」
蝋燭の灯りが届かぬ部屋の暗がりから声が聞こえてくる。
若い男の声だ。
だが、爽やかさなど一切存在せず、口調は柔らかだが優しさは皆無だ。
まるで死神が語りかけているような、言い知れぬ恐怖を感じさせる声だった。
「これはこれは、わざわざこんな狭い部屋にお越しになられなくても。私はドートレス・フェクダに対して優しさなど持ち合わせてはおりませぬ。今回は失態を演じた様ですがあやつはまだ使い道があります故。始末は何時でも出来ますし、私の手駒はそれ程多くありませんから精々使い潰しますよ。それよりもニクス・メグレスが死に、『七星』の1人が欠けたとあっては色々と問題があるのでは?」
「もう後継者は見つけてあるよ。ニクス・メグレスは優秀だったけど最期まで神の使徒にはなり得なかった。次は期待できそうだよ」
「それは重畳ですな。戦力は徐々に整いつつありますが強者は1人でも多い方がいい。魔国、南竜覇國、そして武闘派のエルフが住まう東端の森。これらを攻めるのは時期尚早でしょうな。まずは西方、獣人共の五色国家群からですかな?」
「そうだね。だが懸念はある。君も分かっているだろうけど獣人達を最短距離で攻めるには進路上にあるリドゥエンドーマが邪魔だ。つまり学院をどうにかしなくてはならない。学院を迂回するならば、南の山脈を越えて『魂死の大地』を行くルートを取る必要がある。だが、そちらのルートでは目的地まで兵が持たないだろう」
「南が駄目なら北はどうですかな?『荒嵐の北海』を航海可能な船があれば多くの兵を送り込めるかと。どちらにせよリドゥエンドーマを超えた先、獣人族のいる大陸に至るにはサーナドゥアナ海峡を渡らなければいけませんからな。船の準備は必要かと」
「荒嵐の北海を行くのは現実的ではないが陸路よりましか。陸、海が駄目ならあとは空か。だが空を行くには竜族に話を通さなければならないな」
「こちら側にザンガードがいる以上聞く耳は持ってくれないでしょう」
「仕方がない。船の準備は任せて良いかな?」
「それは構いませぬ。ただ今暫くお時間を頂きたく」
「それは構わん、異世界には『急いては事を仕損じる』という言葉があるそうだしな」
「異世界、勇者の国ですな」
「前回の召喚で現れた勇者は実に強力な駒になり得たのにイニエートの馬鹿のお蔭で未だ消息不明だ。次を召喚する為には探し出して始末しなければいけないってのに」
「まだ生きているとは驚きですが、召喚の為に必要な生贄がまだ足りないのでは?」
「生贄は質を度外視すれば集められないこともないが、それで失敗してしまえば元も子もないか、、、、どちらにせよ当代の勇者を見つけなければ召喚はできないから後回しにするしかなさそうだ」
「左様ですな」
「そういうことだから船の準備を少しずつ進めておいてくれ。私は学院の方面に手を回してみよう。駄目元だけどね」
「畏まりました」




