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空位の魔王と反逆勇者の孫  作者: かわうそ
『学院』入学編
19/36

17話 『熱拳』

バサッバサッ!


大きな翼を羽ばたかせる音と共に一体の竜が降りてくる。


鱗は光を吸い込むような漆黒。

爪や牙までも闇を象ったような黒色だ。

だがその両眼だけが金色に輝いている。


圧倒的な存在感。

おそらくベノムドラゴンの2倍以上のデカさだ。


正直に言うとめちゃめちゃカッコいい。


「ドートレス、時間切れだ」


漆黒の竜がドートレスに告げる。


「はぁ?テメェ、俺の仕事が終わるまで持たせるんじゃなかったのかよ?」


「応援連中の中に、『月影(げつえい)』と『熱拳(ねっけん)』がいたんだよ。流石に面倒だ。こんなところで消耗したくはないしな。つーか、お前も小娘1人始末するのに時間がかかり過ぎだ。片腕まで失って、笑い話にもならんぞ」


「ちっ!うるせぇな」


「お前のことだ、大方弱い者虐めに熱中しすぎたんだろ?任務をさっさと済ませれば良いものを、その嗜虐性を抑えろとクリス様にも言われているだろう」


「余計なお世話だよ、即効で殺すからちょっと待ってろ!」


「ほあたぁぁぁぁ!!!!!」


ドッゴーーーーン!!!!


なんだ?!


「大丈夫かい、君たち?あらら、ノイアーやられちゃったのね」


突如空から降ってきた男がドートレスから俺たちを守るように立っていた。


真っ青な短髪をツンツンと立てた髪型は、まるで髪が青いバージョンのスーパーな野菜星人のようだ。

体型も小柄でムキムキ、王子様かな?


だがその身体から溢れ出るオーラは凄まじい密度だ。

ドートレスより強いんじゃないか?


「ちっ!トーマ・アイスリー!」


「おー!お前がドートレス・フェクダ、『眼星』か!人様の国で何してんのかな?」


トーマと呼ばれた青髪の青年は両手に青白い炎を点す。


「はっ!何してんのかって聞かれれば仕事だと答えるが、お前が来たんならさっさと帰らせてもらう」


ドートレスの奴、あっさり引き下がるのか?

やっぱりトーマって人は相当強いみたいだな。


それより、強い奴が出てきたらすぐ逃げるってドートレス、ダサいな!

ボコボコにやられた俺が言える立場じゃないけど。


「ふーん、うちの御者を傷物にしちゃってくれてタダで帰れるとは思うなよ」


「来い!アイヤムール!」


ドートレスが呼ぶと斬られた左腕に握られたままの短剣が飛んでいく。

ドートレスは右手に持っていた短剣を鞘に戻し、飛んできたもう1本を器用にキャッチして同じく鞘に納めた。


左腕は置いていくのか?


「帰るぞ、ザンガード」


ドートレスは漆黒竜に声をかけてその背に飛び乗る。


「竜遣いが荒いぜ、全く」


ゴバァッッッッ!!!!


漆黒の竜、ザンガードはその体の色と同様の漆黒のブレスを吐き出した。

ブレスは俺たちを焼き尽くすべく迫ってくる。


「オラァ!」


トーマが青炎を纏った拳を地面に打ち付けると青い炎の壁が立ち上り、ザンガードのブレスを防いだ。


「んー、流石は『追放者・ザンガード』!並の竜のブレスとは訳が違うね〜」


ブレスが収まった後にはドートレスもザンガードも残っていなかった。


「あーあ、逃げられたか。油断しすぎたかな?まぁ、戦えば俺たちもタダじゃ済まないだろうし、うちの者には死人が出ていないようだから良しとするか」


「ニクスッ!!」


脅威が去ったことで緊張の糸が切れ、その場に倒れるニクスにミレイが駆け寄った。


「ニクスッ!!今、治してあげるからね!」


ミレイ・・・


ミレイの回復魔法がニクスを包み込む。


「・・・ミレ、、イ、、、、様」


「ニクス、喋らないで!っ!?なんでっ!?なんで塞がらないのっ?!!」


魔剣で付けられた傷は、魔剣の魔力が毒の役割を果たして通常の回復魔法を受け付けない。

それにドートレスの魔剣は強力な呪いの気配がした。

おそらくニクスは助からない。


「ミ、、、レイ、様、、、泣か、ないで、下さい、、、」


ニクスの指が優しくミレイの涙を拭う。


「喋っちゃダメよっ!治すから!今、治すからっ!!」


涙を流しながら回復魔法を施し続けるミレイにニクスが語りかける。


「ミ、、レイ様、、、、わた、し、、はあなたの、、、騎士、、、あなたを、守れて、、、良かった、、、わ、たしの、、、願い、を聞い、、、て、いた、だ、けます、、、か?」


「だめよっ!!ニクス、、お願いだから、、、止まって」


ミレイの魔力はもう残っていなかった。

必死で傷口に手を当てて塞ごうとするが、血が流れ出るのを止めることは出来ない。


「ニクス!あなたが私の騎士だと言うなら、最後まで私を守って!!私を1人にしないでっ!!・・・・お願いよ」


「大、、丈夫、、あな、たは、、、1人じゃ、、、ない、、、、頼も、しい、、、友が、、、、ゴフッ、、、、います、、、、、、自由に生きて、、下さ、、、、い、、、、それ

、、、が、、、、わた、、、ねが、、、、で、、、す、、、」


「ニクスッ!!!いかないでっっ!!」


「、、、、、あな、、、たに、、、、、、出会えて、、、、、、、良かっ、、、、、、、、」


「いやぁぁぁ!!!」


ミレイはニクスにしがみついて泣いた。


人族最高戦力、『七星』。

その1人、『息星』ニクス・メグレスが死んだ。



--------



俺、リオレス、ミレイ、ノイアーの4人は学園都市から応援に駆けつけた部隊に治療を受けた後、1台の馬車へと詰め込まれた。


馬車はジェフティアに向けて走っている。


それなりに広い馬車の中にはノイアーとミレイが横たえられている。

ノイアーは命に別状はないそうだがまだ目覚めていない。

ミレイも魔力枯渇で眠っている。


「それで?君達4人だけで『眼星』とやり合った訳か」


「まあ、そうですね。ニクスや貴方が間に合わなければ死んでいましたが」


俺とリオレスはトーマに事の顛末を話していた。


「まあ、仮定の話はしてもしょうがない。まずは、生きている事を喜ぼう!ニクス・メグレスについては残念だったね。話を聞く限りでは、聖ケルケト教の中にあってもまともと言っていい考えの持ち主みたいだったし。それに、その子の嘆き様を見たら分かるよ。きっと善性の人物だったんだろうね」


ニクスに関して、俺は良く知っている訳じゃない。

彼程の強者であっても死ぬ時は呆気ない。

だけど、彼は命の恩人だ。

俺は彼の恩に報いることが出来るのだろうか?

彼の守ろうとした者を守ることが恩返しになるのだろうか?


「それにしても、ノイアーが一緒だったとはいえ、七星の1人を相手にして生き残るなんてな。今年の受験生は豊作と聞いていたけど想像以上だなぁー」


「そうなんですか?」


リオレスがトーマに尋ねる。


「いやね、学院の受験生って2種類に分けられるんだ。自主受験組と推薦組ね。推薦組ってのは学院長が自ら選定して受験票を送った者達だね。だから、推薦組は学院長が認める才能豊かな者達が多いのさ!自主受験組はそれ以外って感じ」


成る程、俺とリオレスは推薦組ってことか。

ミレイはどうなんだろうか?


「で、今年は推薦組の数が例年よりかなり多いんだよね、しかも自主受験組の方にもちらほら実力者が混じってるみたいだしし。そもそも、学院が出来た当初は学院長が直接集めた生徒だけを教えていたんだって。その後、教える側の人手が増えたから門戸を広げるために学びたい者を募るようになってね、それが自主受験組さ」


「そうなんですね、でも推薦組も自主受験組も同じように入学試験は受けるんですよね。推薦組であっても特別扱いではないって事ですか?」


俺も気になっていた事をリオレスが聞いてくれた。


「そうだね!まぁ試験内容はちょっと違うけどね。推薦組の試験は実力の確認みたいなもんさ。これ以上は受験生には教えられないけど。ジェフティアに着いてから試験までまだ時間があるから、君達はゆっくり体を休めた方がいいね」


「でも、試験対策とかした方がいいんじゃないかな?」


「え?試験対策?ドラゴくんが?」


ん?何か変なこと言ったかな?


「あはははははは!面白いこと言うね君!君達は試験対策なんか要らないよ!俺が保証する!心配なのは分かるけどね、試験対策がしたいってんなら尚更しっかり休む事をお勧めするよ」


「はぁ、そうですか」


ということは、体力テスト的な試験なのか?


「試験の話はこの辺にして!それじゃあ、君達の事を教えてよ!さっきは簡単な自己紹介しかしてないから改めて!俺はトーマ・アイスリー、『学院』の教師さ!」


教師?


「戦闘員とかじゃなく、先生なんですか?」


「違うよ〜。ジェフティアには専門の戦闘員はいないからね!もし今回の様な事態が発生した時は研究者や教師の中で戦闘をこなせる者が臨時で戦闘員として戦うのさ」


「トーアさんはそんなに若いのに先生なんですね!なんか僕のイメージしていた先生と違います」


確かにトーマは10代後半から20歳前後に見えるな。

先生っていうより生徒に見えるし、強さを考えれば戦闘員って考えるのも無理はない。リオレスの感想にも頷ける。


「そいつはもう200歳を超えてるぞ、魔族と竜人族のハーフだからな」


200歳?!


「おお!ノイアーやっと起きたか!」


「ノイアー!」


「ノイアーさん!」


リオレスの言葉に返事をしたのは起き上がったノイアーだ。

トーマが200歳ってのも気になるけどノイアーの無事を確認するのが先だな。


(いて)てて、全身が(いて)ーぞ」


「当たり前だろ、殆ど死体と一緒だったんだ。生きてるだけありがたいと思った方がいいぞ。死んだら痛いも何もないからな」


酷い言い草だがトーマの言ってることはほとんど正しい。戦いが終わった直後、ノイアーはもうほとんど息をしていなかったからな。


「まぁ、そうだな。それにしてもお前が来たんだなトーマ。結果的に助かったけど」


「それはそうだろ。ノイアーがいる定期便からの緊急連絡ならイスラやヤーダダダが出張ったところでどうにもならん」


イスラやヤーダダダってのも学院の教師なのか?


「分かってるよ」


「それにイナバも一緒だったぜ!あいつは先に帰ったけどな!」


イナバ?稲葉?因幡?日本人か?


「は?あいつが?」


「ただ事じゃなさそうだって言って珍しく着いてきたぜ。お蔭でザンガードが簡単に引いてくれたな」


「そうか、お前らには借りが出来ちまったな」


「まぁ、気にするなって!それよりもお前もドラゴくん達のことそんなに知らないだろ?一緒に話そうぜ!」


「怪我人なんだからゆっくり休ませてくれよ。まぁ、話すくらいなら大丈夫か」


それから俺とリオレス、ノイアー、トーマの4人は馬車がジェフティアに着くまでの間、ゆっくりと会話を楽しんだ。

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