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空位の魔王と反逆勇者の孫  作者: かわうそ
『学院』入学編
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14話 4人の覚悟

----ミレイ視点----


私はイリオス王国のカタールコート公爵家に次女として生を受けた。


私が産まれる数年前、おじい様は当主の座をお父様へと譲り聖ケルケト教会の司祭になったそうだ。

そのおじい様は今や教会本部で枢機卿の1人になっている。司祭となってからたった数年でだ。

おじい様の位階が短い期間で上がったのは、私を聖女候補として教会に引き入れたおかげだとお父様は言っていた。

私にどのような価値があったのかは分からない。


お父様は常々、おじい様や教会の上層部のありようを疑問視していた。

おじい様が私を聖女候補として教会に所属させようとした時も、お父様は必死で抵抗したみたい。

結局、お父様はおじい様に逆らいきれず、幼かった私は何も知らずに教会で修道女見習いとなった。

ただ、お父様の最後の抵抗としてアークエルド聖王国にある教会本部ではなく、イオリス王国の教会に所属することになった。


私はそこで、『息星』に抜擢されたばかりのニクス・メグレスと出会った。

聖女候補である私の護衛として教会本部から遣わされたニクスは、当時17歳という若さで人族最高戦力である『七星』に選ばれるほどの逸材だ。私と同じ様に、幼い頃から教会に所属して騎士となるべく修練に励んでいたそうだ。


ニクスは常に優しく、大事な任務で仕方なく護衛の任から離れなければいけない時以外は、常に私を危険から守ってくれた。

それだけでなく、ニクスはただのお堅い護衛としてではなく、まるで本物の兄の様に私に接してくれた。

私にはそれがうれしかった。だから、ニクスを信頼するようになった。私の直感がこの人は自分の味方でいてくれると教えてくれた。


お父様も、初めはニクスのことを警戒していたけれどいつの間にか仲良くなっていた。

二人にしか分からない何かがあったのかも。


そして、私が学院に行きたいといった時、私の希望を後押ししてくれたお父様に対して、ニクスは頑なに反対した。

たぶん、ニクスは分かっていたんだ。私が学院行き望めば、それをよく思わない教会上層部に命を狙われるということを。

だから、必死になって説得してくれていたんだ。


でもね、私はもう何も知らずに修道女見習いになった幼い私とは違う。

教会の上層部が私達が信じている神様の教えを利用して人々から富を吸い上げていること、種族間融和なんて本当は目指していないのだということを私は知ってしまった。

勿論、教会に所属している全ての人がそうではないけど、でも最も敬虔であるべき人達が腐りきっている。彼等が変わらなければ教会は変われない。

だから、私は、私のやり方で教会を変える。

本当の意味で人々に救いを与えられる存在、本来あるべき姿の教会を目指したい。

その為には、他種族との協力が必要不可欠。

私が出来るだけ身の安全を確保しながら他種族と交流できる場所は学院しかない。


学院に行くとお父様に伝えた時、私は命を狙われることを覚悟していたの。

それでも、私は私の願いを叶える為に行動したい。

救えたはずの命を、目の前で失わずにすむそんな世界を目指したいの。


だから、ごめん。ニクスが命がけで守ってくれたのに、私自ら危険へと飛び込む真似をして。

そして、ありがとう。今まで守ってくれて。私を大事にしてくれて。沢山の思い出をくれて。


私を守ってくれるニクスはもう傍にいない。自分の身は自分で守らなくちゃいけない。


だけど…


バリンッッッッ!!!!


ニクスの同僚であるはずの『七星』、その1人であるドートレス・フェクダ。


彼によって馬車と乗客を守っていた魔法障壁が破壊される。


私ではどう足掻いてもドートレスに勝てないだろう。


「さて、ようやくご対面だ。ミレイ・カタールコート」


ドートレスが私へと近づいてくる。

凄いプレッシャー。足が、手が、体が震える。


これが、死の恐怖なの?


震える余り歯がガチガチと音を鳴らしている。


ゆっくりとした足取りで目の前にやってきたドートレス、その行く手を遮るようにノイアーさんが私の前に立つ。


「ミレイちゃんはやらせない」


ノイアーさん、駄目!今度こそ死んじゃう!


ノイアーさんを止めたいのに、震えている私は声が上手く出せない。


「今すぐ死にたくなきゃ、雑魚は引っ込んでな。まぁ、どの道殺すがな」


「それじゃあ、尚のこと「あぁそうですか」と引き下がれないな」


ノイアーさん、無理してる。

切られて失った腕は生えたけど、ダメージや疲労までなくなったわけじゃない。


「じゃあ、今、死ね!【氷牙の(アイシクル・)結界(メイデン)】」


「くっ!!」


無詠唱の魔法にノイアーさんの反応が遅れた。

ノイアーさんの周囲に夥しい数の氷の棘が出現し、全方位から襲い掛かる。


「ノイアーッッ!!!!!自在流【烈波(れっぱ)】!!」


ノイアーさんがドートレスの魔法の餌食になろうとした瞬間、地面を抉る凄まじい衝撃波が走り、氷の棘が作り上げた檻を破壊する。


ドラゴくんっ!!


「ドラゴくんっ!助かった!」


衝撃波を放ったドラゴくんがノイアーさんの隣までやってくる。


「ほう、俺のお気に入りの毒紫竜(ペット)を倒したようだな。ということは、俺の自己修復機能付魔法障壁を攻略したのか。ただのクソ餓鬼じゃあないようだが、見たところ満身創痍。まとめて始末するだけだ」


「そう簡単にやられるつもりはないね」


そういうドラゴくんは肩で息をしている。

もうボロボロじゃない!


「僕もいることを忘れてもらっちゃ困るね」


ドラゴくんに遅れて合流したリオレスくんも、外傷こそ無いが疲労の色は隠せていない。


「2人も3人も大した違いじゃねぇな」


ドートレスは余裕の表情だ。


「やめて、皆死んじゃう!」


掠れて消え入りそうな声で訴える。


「ミレイ気にするな、そんなことは覚悟の上だ。俺は俺の信念を通す。後悔だけはしたくないからな。だから、ミレイを守るのはお前の為じゃない、自分の為だ」


ドラゴくん、


「そうだ。どの道、奴を倒さなければ、死ぬのが少し遅いか、早いかの違いでしかない」


ノイアーさん、


「まぁ、僕は同い年の女の子を見捨てて生きるなんてカッコ悪い生き方はごめんだね」


リオレスくん。


みんな、ありがとう。

涙が溢れる。

これは、感謝の涙。


そして、哀惜の涙。

私の所為でみんな死んでしまう。

ごめんなさい、ごめんなさい。


「泣くなミレイ、みんな自分で選んだことだ」


「そうだぜ、そいつらは自分の意思で無駄な抵抗をして俺に殺されるのさ。応援を待ってるならまだまだ来ないぜ。俺の(しもべ)が足止めをしている筈だからな」


「なっ?!」


そんなっ!

みんなもうほとんど限界なのにっ?!


「だったら、俺らとお前の我慢比べだ」


「俺はせっかちなんだぜ、我慢なんてするかよっ!さっさと死ね!」


ガキンッ!


全然見えなかった!


ドラゴくんとドートレスの2人が消えたと思ったら、2人が立っていた場所のちょうど中間地点で鍔迫り合いをしている。


「へぇ、そっちのへっぽこ魔導師より接近戦の心得はあるみてぇだな。オブトを倒すだけのことはある」


「お前より遥かに強い師匠にしごかれたからな!」


「俺より強い奴?そんなもん、いたとしても世界中に数える程だぜ?真の強者ってのは餓鬼に稽古つけるほど暇じゃねぇよ!」


2人が距離を取り、再び消えた!


私に認識できるのは、時折見える2人の残像だけ。あとは、直刀と剣が打ち合う音が聞こえてくるだけだ。


「ノイアーさんっ、ドラゴくんは?大丈夫なんですか?」


私にはまるで窺い知ることの出来ない戦闘の状況もノイアーさんなら見えるかも。


「形勢は不利だ。だがあのドートレスの攻撃を凌いでいる。凄まじい技量だ。おそらく、ドラゴくんは攻めより守りに長けた剣士のようだな」


「ですが、ドラゴの奴、身体強化を限界を超えて使用しています。もう身体が持たないですよ?!」


リオレスくんも戦闘が見えているみたい。

ドラゴくんもリオレスくんも私と同じ歳でなんて凄いんだろう。


「手助けしてあげたいが、戦闘のスピードが速すぎる。目で追うのがやっとの私では魔法での援護は難しい」


「僕も辛いですね。ノイアーさんと違って完璧には追い切れていませんから」


私達は見守るしかない。

弱いってことはこんなにも悔しいことだなんて初めて知った。


----ドラゴ視点----


「おらおらっ、どうしたっ!守ってばっかりじゃ俺は倒せねぇぜ!」


修行時代に体験した師匠の猛攻を思い出せば、ドートレスの攻撃などそよ風に等しいのだが、如何せん俺の動きもだいぶ鈍ってきている。徐々に捌くのが辛くなってきた。


師匠との修業時代か。

思い出しただけでも恐怖で震えてくる。

「これが本当の生き地獄」、「いっそのこと死なせてくれ」と何度思ったことか。

おかげで防御と回避に徹した時はそこそこやるようになったと師匠からも褒められた。

逆に攻撃に関してはダメ出ししかされなかった。


しかし、師匠より劣るといっても流石に今の俺よりドートレスの方が数段強い。

こいつが遊んでいるうちはまだ捌き切れるだろうが、本気になればかなり追い込まれるだろう。

待っているだけではジリ貧だな。こちらからドートレスの隙を生みだしに行かなければ。


反撃のチャンスは一度きり。

奇策、奇襲の類故、外せば終わりだ。2度目はない。


「ちっ、亀みてぇに縮こまって守りやがって!面白くねぇんだよっ!!」


焦れてきたドートレスを更に煽るように攻撃を捌いていく。

ドートレスが段々と攻撃の速度を上げていくが、俺は何とか捌く。

もう、身体強化が切れた瞬間ぶっ倒れるな。


「おらぁっ!」


イライラからか、ほんの僅かに力みが出た袈裟斬りをいなす。

そして、ドートレスと交錯する際にわざとらしく口元に笑みを浮かべる。


「雑、魚、がっ!なにを笑ってやがるっ!!」


俺の安い挑発に乗ったドートレスの攻撃がさらに激しくなるが、それに伴い精彩を欠いていく。


来たっ!


ドートレスが横薙ぎを繰り出す。

傍目には分からない程だが、ドートレスが力んだ為、大振りになっている。


俺はその攻撃をいなす。いなしながらその攻撃を振り終わりに向け加速させる。

予期せずに加速した剣速がドートレスのバランスを僅かに崩す。


「【閃光(フラッシュ)】」


その一瞬の隙をついてドートレスの眼前で閃光魔法を発動する!


「ぐっ!!!」


突然の光にドートレスの目が眩む。


「【薙峰一閃(ていほういっせん)】!!」


ザシュッ!!


「ちっ、浅かったか」


な、なんで?


「残念だったな、クソ餓鬼。だがまぁ、俺の団服に傷を付けたんだ誇っていいぜ。はははははははははっ!!!」


ブシュッ!!


左側の腰から右肩へと斬り上げられた傷から鮮血が噴き出す。


「いっ、ぐっ!」


ドートレスは浅いと言ったが傷はかなり深い。

必死で身体強化を維持する。強化が解けた瞬間に失血死だ。

俺は立っていられずに膝をから崩れ落ち、ドートレスを見上げて気が付いた。


眼帯で隠れていたはずのドートレスの右眼が露わになっている。


左目は瞑ったままだ。


閃光を浴びた瞬間に眼帯を外して視界を確保したのかっ!


「そこそこ楽しめたぜ、じゃあな!」


俺に止めを刺すべく、ドートレスが剣を振り上げた。

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